告白

おーろら

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高校生 激動編

022. 退院

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 うるさい義姉と幼馴染みに絡まれることもなくゆったりとした入院生活だった。
 僕が殴られてできたアザはやっと痛みがなくなり動けるようになった。
 だけど右手の怪我だけは痛みがまだあり固定され包帯したままだった。
 やっとのことで退院することになったが完治するまではほど遠かった。
 僕自身は左利きだったけれど小学生の頃に右利きに矯正されたものだったので入院中に左利きに戻した。
 そのことは簡単にできたけど着替えは少し大変だった。
 他にもやりにくいと思うことがあったけれど病院の中だとだいたいのことは看護師さんに助けてもらっているか瑠維さんか紫凰が過保護だし部屋にどちらかいるので結局僕の代わりにやってしまう。

 退院日が近づいてきた。やはり紫凰も僕を迎えに来たがった。
 でも平日。

 「亜月の迎えと手伝いを理由に学校を休むのは良くないよ…それは許可できないよ?ねぇ紫凰君…?!」
 瑠維さんがブリザードのようなオーラを身にまとい紫凰を思いきり威圧したらしい。
 高校生としては年齢に似合わず存在感がものすごい紫凰が瑠維さんの前では耳を垂らして項垂れる子犬みたいに縮こまって震えていたという。これは僕が直接見たわけではない。
 瑠維さんがいつだかブツブツ呟いていたから…ね。





 退院当日…。

 やはり前日にも何か言おうとしていた紫凰に瑠維さんが睨んで念を押していたからその気迫に負けて泣く泣く学校に向かった。
 瑠維さんは退院手続きと入院費の支払いを済ませていた。
 その間に僕はパジャマから私服に着替えていた。
 普段であれば瑠維さんが用事を終わらせて戻ってくるまでの時間で終わる動作ができなかった。左手だけでは無理があった。
 今までは看護師さんがいてくれたり瑠維さんと紫凰が僕のことを甘やかすけど家に帰れば一人でしなければ…と思っていた。

 「何やっているの?亜月君」
 もたもたしていたら瑠維さんが病室に戻ってきた。

 「えーとっ…、着替え…?」
 「なんでそこで疑問系なの…。手伝うよ」
 「でも…家に帰ったら自分でやらなきゃいけないから…」
 瑠維さんは目が点になって一瞬動作が止まっていた。

 「亜月君…帰る家が何処なのか理解してる?」
 「えっと…『禿河』…の家…?」
 瑠維さんは深く溜息をいた。

 「入院していた間は頭がぼんやりしていたから僕の話を聞いていても理解できなかったのかも…。今日からは学校に近いところにマンションあったからそこに。でも亜月君の右手の怪我が治るまでの間は僕が一緒に居るから安心して」
 「え?!なんで瑠維さんが?!」
 瑠維さんの一言に僕は驚いてつい本音が出そうになった。

 「本当の予定では亜月君にも紫凰君と同じように一人暮らしできる様にしようと思っていたけど…馬鹿がやらかしてくれたから。まぁ…アイツらのおかげで片づいたともいえるけどね…。亜月君の怪我させられたのだけは想定外だったよ」
 瑠維さんの言葉は後悔するように一点を睨みつけた。
 僕はそんな瑠維さんを少し離れて眺めていた。
 よくわからないけれどじんわり流れる冷や汗が止まらなかった。



 瑠維さんの車の助手席に乗せられ、走る風景を見ていた。
 新しい部屋へと向かう道の途中で禿河の家の前を通った。
 誰も帰る人がいなくなった家。
 窓にはカーテンがかけられ中の状態は見れなかった。

 「禿河の家…、気になる?」
 「あっ、はい…。この家は嫌な思いでしかない…もうここには帰りたくない」
 「そうか…わかった」
 ハンドルを握っていた瑠維さんは言葉少なく答えた。

 学校にほど近い五階建てのマンションの地下駐車場へと車が入っていった。
 僕には初めて場所だったのでキョロキョロと車の中から見ていた。
 瑠維さんはそんな僕を見て笑った。
 決められた駐車場所に瑠維さんは車を停め入院中の僕の荷物を持って降りた。
 僕が車を降りたのを確認すると瑠維さんは手招きした。

 「亜月君、こっちだよ」
 瑠維さんに案内されて僕は後ろについて行った。
 マンションの中に入るとエレベーターがあった。
 瑠維さんと僕がエレベーターに乗ると瑠維さんは五階のボタンを押した。
 扉が閉まると僕は黙ったままエレベーターの階数が点滅するのを見つめていた。
 エレベーターが停まり扉が開いた。

 「左に進んでいって一番奥の五〇五号室だよ」
 「あっ、ちょっと待って。二・三分したら玄関の扉を開けて入って来てね」
 瑠維さんは慌てて部屋の鍵を開けて中に入っていった。

 「うーん、瑠維さん…いきなりどうしちゃったんだろ?」
 突然の瑠維さんの行動に僕は不思議に思っていた。
 瑠維さんから言われたとおりに二・三分待って扉を開けた。

 「お帰りなさい、亜月君」
 ニッコリ笑って瑠維さんが立っていた。

 「お帰りなさい、亜月」
 僕の記憶の中で誰かが僕を玄関で両手を広げて待っていた。
 靴を脱いでその両手に抱きついた。
 抱きついたその両手が僕をギュッと抱きしめていた記憶。

 「お帰りなしゃい、かあしゃま」
 ニッコリ笑って母さんの顔を見た。

 「亜月は笑うと父様そっくりね。亜月は大きくなったら父様のようにカッコよくなるわね…。今から母様、亜月が大人になるのがすごく楽しみだわ」
 急によみがえった昔の記憶。
 瑠維さんの言葉が昔の思い出と重なり今まで忘れていた記憶の一片かけらが飛び出てきた。
 僕の中に残る母さんの思い出に涙が溢れ出し止まらなくなった。
 僕は一点を見つめ涙が頬を伝い顎から床に落ちていくのをそのままにした。

 「ど、どうしたの?どこか痛いのか?それとも具合悪くなっちゃった?」
 僕が見せた涙に慌てた瑠維さん。
 僕は何も言わず大きく首を振り瑠維さんに抱きついて泣いた。
 瑠維さんは困った顔をしながら少し照れながら僕を抱きしめてくれた。
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