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転生するにしても最低限の説明は欲しい

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 普通の男子高校生だった俺は、車にひかれそうになっていた子供を助けるために飛び出しそのまま死んでしまった。
「何処だ? ここ。俺死んだ筈だよな?」
「おや、新しい魂が流れてきたみたいだね」
 声がした方を見ると、白く光っている球体が目の前に浮いていた。
「えっと、どちらかというと貴方の方が魂に見えるんですけど」
「ああ、ごめんね。これでも、神様だから忙しくてね、今見えている私の姿は仮の姿なんだ」
「神様・・・ですか」
「あまり、驚かないんだね」
「自分が死んだという自覚はあるので」
「うんうん、君みたいに適応力がある子は助かるよ。一から色々説明するのも大変だからね。しかし、君も災難だったね。子供を助けたのは良いが自分自身が死んでしまうとは」
「自分でも正直驚いてます。普段は、誰かを助けるような事はしたこと無かったんですけど」
 実際、誰かが困っていても見て見ぬ振りをして生きてきた。きっと、自分以外の誰かが助けるだろうと思いながら・・・。
「えっと、死んでしまった君には元いた世界とは別の世界に転生してもらう事になるんだけど大丈夫かな?」
「転生ですか?」
「そう。残念ながら今転生出来る先が1つしか無くて選ぶことは出来ないんですけど」
「選べないんですね。それじゃあ、どういう世界かだけでも教えて貰えますか?」
「それは、もちろん。それじゃあ、早速説明させて貰うけれど・・・」
 神様が説明を始めようとしていると、何処からか電話の着信音が聞こえてきた。
「あ、ごめんね。私に連絡がきたみたい」
「いえ、大丈夫です(神様も電話持ってるのかな?)」
 誰かと連絡をしている神様は、最初は冷静に話している様子だったが急に大声をあげて慌て始めた。
「ええ!? どうして、そんなことに? ・・・分かった、すぐに行くよ」
「どうかしました?」
「うん、困ったことが起きてしまってね。すぐに戻らないといけなくて」
「今の姿は、仮の姿だったんじゃ」
「この姿を維持出来ないほどに大変なことが起きているってことさ」
「終わるまで待ってましょうか?」
「いや、悪いけど、君にはこのまま転生してもらいます」
「えっ? いや、いくらなんでも流石にそれは・・・」
 転生先が決まっているなら、何か1つでも情報が欲しい。慌てて、神様から少しでも話しを聞こうとした俺だったが、体がいきなり宙に浮きそのまま何処かに飛ばされていった。
「ごめんね! 後で必ず説明とお詫びをくるから~~!!!」
 神様のその言葉を最後に俺は意識を失った。


「レインー、レインー、何処にいるの?」
「僕は、ここにいますよ。お母様」
「おやつの時間よ。一緒に食べましょ?」
「はい!」
 転生してから七年程がたった。前世の記憶は、最初から覚えていた訳では無く最近になって少しずつ思い出してきた。
 この世界での俺の名前は、レイン、レイン・ローズヴェルク。転生する前は、どうなるか不安だったが優しい家庭に生まれる事が出来た。
「今日のおやつは、チョコクッキーよ。レインは、ミルクが良い? それとも紅茶かしら?」
「ミルクが良いです!」
「ふふふ、分かったわ」
 この優しい笑顔を俺に向けている人は、この世界での俺のお母さんだ。普段から穏やかで、俺が何かやらかしても大抵笑って許してくれる。むしろ、怒ったところを見たことが無い。そんな優しいお母さんが俺は好きだ。
 椅子に座り、食卓にクッキーがくるの待つ。お母さんが、「はい、どうぞ」と言いながらクッキーが入ったお皿を置いてくれた。良い香りのするクッキーを前に我慢が出来ずミルクがくる前に、1枚クッキーを取って口に入れた。
「美味しい!」
「ふふ、良かった」
「お母様が作るクッキー大好きです!」
「あら、ありがとう。レインは、いつも美味しそうに食べてくれるからお母さんも嬉しいわ」
 クッキーを食べ終わり、ミルクを飲み干すと何だか眠くなってきてしまった。
「おやつ食べて眠くなったかしら、お昼寝する?」
「・・・はい」
 目をこすりながら、何とか返事をする。
「自分のお部屋に1人でいける?」
 コクンと頷き、椅子から降りて自分の部屋に向かった。
 部屋に入り、ベッドで横になろうとした時、机の上に見慣れないものが置いてあった。手紙だ。
 誰からなのか調べていると、『神』と書かれた文字を見つけた。恐らく神様からだろう。
 本来なら、驚き慌てて中身を確認するのだろうが、俺はその手紙を丁寧に引き出しにしまい後で見ることにした。
 そう、睡魔には勝てず俺はベッドに入り、お母さんから夕飯に呼ばれるまでスヤスヤと眠ったのだった。

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