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第11話 ヒロインの笑顔の前にはモブは無力、異論は認めない

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 入学式が終わって一週間、俺は中庭で1人昼飯を食べていた。
「はあ~、予想はしていたけど、いざ経験すると結構心に来るものがあるな」
「本来貴族だけが通える場所ですからね。マスターのような存在は気に入らないのでしょう」
「その言い方だと俺の存在そのものが気に入らないように聞こえるんだけど」
「? 何か間違っていますか? 生徒だけじゃなく教師もそう思っていると思いますが」
「まあ、今の所は酷いいじめとか無いし、このまま卒業するまで大人しくしておくかな」
「その方が厄介毎はあまり起きないとは思いますよ。仮に暴力を振るわれたとしてもマスターに勝てる相手はこの学園にはいませんが」
「いやいや、貴族って魔法の才能とかが凄い人達だろ? 俺の方がやられると思うけど」
「私の前で謙遜する必要はありませんよ? 入学式の時に挨拶をしていた王子ですらマスターの足元に及んでいません」
「そんな訳はない。てか、何でそういう事分かるんだよ」
「マスターを鍛えたのは私ですからね。それに、相手の力量はマスターにも分かる筈ですよ?」
「まあ・・・それは」
 アルファが言うように、俺にも見るだけで相手の力量は大体分かるようになった。王子だけじゃなく他の生徒を見ても、戦闘になった場合負けることは無いだろう。
 ただ、この感覚が正確なのかは正直分からない。親父以外に人間と戦った事無いからな。
(親父に関しては、組み手で分からせられたけれど)
「しかし、1人が辛いのでしたら入学式に出会った少女に会いに行けば良いではないですか。クラスは違いましたが、同じ平民同士仲良く出来るのでは?」
「リーゼのこと? 残念ながら彼女と話すことはもう無いよ」
「この世界のヒロインだからですか?」
「その通り、モブである俺は本来関わることはない存在だからね。あんな美少女と話せるなんて奇跡だよ」
「あの程度で奇跡なら私とマスターの出会いは、何と呼べば良いのでしょうね」
「あの程度とか言うな。モテない男子からすれば十分奇跡なんだ。まあ、アルファとの出会いは奇跡すら超えている感じがするが」
「マスターにそう言って貰えるとは喜ばしい限りですね。しかし、学園に居る以上リーゼと出会わない、話さないというのは無理なのでは?」
「それに関しては、そろそろイベントがある筈なんだ」
「イベントですか?」
「そう。説明書に書いてあったんだけど、王子とリーゼが今日出会う筈なんだよ」
 説明書には、リーゼが攻略対象であるこの国の王子『ロゼ・ヴァーミリオン』と出会うと書かれていた。王子が取り巻きにうんざりして1人でいる所にリーゼが現れる。平民であるリーゼに最初は嫌悪感を抱いていたが、自分が悩んでいることを見抜かれ気付けば全て吐き出していた。自分の弱さを見せても、優しく励ましてくれたリーゼに惹かれていくという設定だ。
「つまり、リーゼはこれから王子と頻繁に会うことになるから俺と会うことは無いって事」
「そんな都合の良い話しが存在するのですか?」
「都合が良いとか言うんじゃありません。運命と言いなさい。本人達は基本そう思っているんだから」
「そういうものですか。しかし、王子が1人でいるということは、この場所に現れる可能性があるのではないですか?」
「初めに出会った場所というのが書かれていた。この場所から学園の反対側だから大丈夫だろう」
「・・・どうやらそうでも無いようですよ?」
「ん? どういうこ・・・」
「あっ、レインさん!」
「へっ?」
 何処か少し嬉しそうにも聞こえるその声の方に振り向くと、何故かそこにはリーゼの姿があった。
「あれ? リーゼ、どうしてここに?」
「偶然、通りかかったんです。そしたら、レインさんがいたので思わず声を掛けてしまいました」
 アルファは、これを察知していたのかすでに俺以外に見えないようにしている。
 リーゼがここにいる事に疑問を感じていたが、天使のような笑顔を見てしまい疑問は何処かに消えてしまった。
(こんな笑顔をモブに見せたらダメだって)
「レインさんは、ここで何をしていたんですか?」
「えっと、お昼を食べていたんだよ・・・・・1人で」
 最後の言葉だけは聞こえないように、ぼそっと呟いた。
「そうなんですか? それじゃあ、私も明日からここで一緒にお昼を食べても良いですか?」
「えっ? それは、ちょっと・・・」
「ダメ・・・・・でしょうか?」
 ああ、それはずるい。悲しそうな表情で上目遣いをしないで欲しい。ほとんどの男性が落ちてしまう。
 だが、これから一緒にお昼を食べるとなるとストーリーが変わってしまうかもしれない。
 それは、絶対に阻止した方が良いとは思うのだが・・・。
「じゃあ、授業が終わった後、お昼一緒に食べましょう」
「本当ですか!? やったぁ!!」
 俺が了承すると、笑顔でジャンプするリーゼ。制服の上からでも分かる大きな胸がプルンプルンと揺れていた。
(ああ、どうして前世の俺は女性と付き合っていなかったのだろうか。体制があまりになさすぎて困る)
 後ろからアルファが『マスターが勝てない相手いましたね』と言っているような気がした。
 これからどうなるか分からないが、目の前のヒロインが可愛いということで、後のことは今後の自分に任せることにした俺なのだった。


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