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第12話 お茶ってどうやって入れるの?

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 学校の生活にも慣れてきた頃、前世では無かった授業を受けていた。
 白い髪と白い髭を生やし、常に姿勢を伸ばしている紳士のような先生が担当だった。黒いスーツと眼鏡を掛けており、前髪で片目が隠れていた。名前は、セバス・ホーエンスと名乗っていた。
 それは、お茶会についての授業だ。何となく女性が集まってお茶やお菓子を楽しんでいるものだと思っていたが、男性が開いて女性を誘うこともあるのだそうだ。
 というのも、貴族の世界ではお茶会で相手のことを色々と見定めているらしい。
「貴方達は貴族ですから高級なお茶やお菓子を用意しようとしているかもしれません。確かに高級な程美味しい物は多いですが、それよりも必要なのは相手を心からもてなすことです」
(心からもてなすか・・・こんな風に言う先生は初めてだな)
『この学園の教師の中ではかなり変わった事のようですね』
 授業中、姿を消したアルファが話し掛けて来た。声も俺以外には聞こえていないらしい。
「変わった?」
『あの方は、階級に関係なく平等に接しているらしく一部の先生や生徒からは嫌われているとか』
「俺がいた世界だったら生徒も好きなりそうな先生だけどな」
『貴族のほとんどが自分より階級が下の者に対して高圧的ですからね』
「いや~、貴族って怖いね~」
『平民のマスターは、相手にすらしたくないようですけど』
「わざわざ人を傷付けること言わなくてよろしい」
 アルファと話していると、先生に指名され先生が入れたお茶を体験することになった。
「レイン・ローズヴェルク、貴方もお茶を楽しんでみませんか?」
「はあ? それでは」
 先生の動きは机の準備からお茶を自分の前に出すまで一切の無駄が無く、入れて貰ったお茶もとても美味しかった。
 正直、たががお茶だと思っていた俺は先生のお茶に感動していた。
「凄い、美味しいです」
「ふふふ、気に入って貰えて何よりです」
「でも、これって高いお茶なんじゃないですか?」
「今入れたのは平民の貴方でも買いやすい値段のものです。必要な物を一式揃えるのは大変ですが、少しずつ買っていくと良いでしょう」
「はい、そうします」
 先生のお茶を堪能した所で、授業が終わるチャイムが鳴った。


 お昼になりいつも通り中庭に向かった俺は、とんがり帽子とローブを着たおばあさんに会った。
「先生、こんにちは」
「あら、レイン君こんにちは」
 この方は、グラン・インベル先生、普段は魔法学の授業を行っている教師だ。セバス先生と同様に平民の俺に対しても優しく接してくれている教師の1人でもある。
「花の様子を見に来てくれたんですか?」
「ええ、レイン君のおかげで元気に咲いているわね~」
「本当ですか? 良かった~」
「レイン君が代わりに水やりや手入れをしてくれるおかげで花達も喜んでいるわ」
「先生にそう言って貰えて嬉しいです」
 この中庭は、先生が手入れされていたのだが腰を悪くした所に出くわし代わりに中庭の花壇の手入れをすることになったのだ。
「腰の調子はどうですか?」
「ええ、随分と良くなったわ。だけど、ここの花達はレイン君にお世話して貰ったほうが嬉しいみたいだからこれからも頼めるかしら?」
「別に構いませんよ。朝とお昼に様子を見れば良いんですよね?」
「ええ、朝起きるのがきついならお昼だけでも良いから」
「分かりました」
「ありがとう。それじゃあ、私は戻るから何か困ったことがあったら遠慮なく言って」
「はい、ありがとうございます」
 腰をトントンと叩きながら先生は学園の中に戻っていった。

 花に水をやり終わると、ちょうどリーゼが中庭にやってきた。
「すみません、遅くなりました」
「そんな急いで来なくても良かったのに」
 急いでやってきたのか、リーゼの髪は少し乱れていた。
「でも、レインさんを待たせる訳にはいかないと思って」
「大丈夫、リーゼが来るまでちゃんと待っているよ」
「そ、そうですか」
 恥ずかしそうに乱れた髪を整えるリーゼ。
 名前で呼ぶようになったのはお昼を一緒に食べるようになって、自分だけ名前で呼ばれないのは不公平だと少し怒ってきたからだ。
(怒っている顔も可愛かったな~)
「レインさん? どうかしました?」
「い、いや、何でも無いよ。それよりお昼食べよう? 休み時間が無くなっちゃうよ」
「そうですね」
 この時、俺はメインヒロインと一緒にお昼を食べられる嬉しさで説明書に書かれている流れと変わっている事に気付いていなかった。
 学園に入って1ヶ月、攻略対象であるはずの王子達とリーゼが一切関わっていないことにーーーー

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