6 / 32
幼少期編
受け入れること
しおりを挟む
きっと意味が分からなかっただろう。
それほど、私が話す未来は荒唐無稽なものだったと思う。
だって植物を育てる事など、名の通った陰陽師にもできない。
子供のたわごとだ、ただの夢だ、と切って捨ててもおかしくないような私の話を、言継は笑わなかった。
それがどんなにありがたかったか、彼は知っているだろうか。
「景子は何を怖がっているの?」
瞳を合わせて、言継が問う。
答えをすぐに見つけることが出来なかった私は「わからない」と涙声で答えた。
用意された未来は、怖いと思う。
かといって、それを変える勇気もない。
変えた先にあるだろう未来もまた、怖い。
結果、最悪の事態になったりなどしたら、目も当てられない。
堂々巡りだ。
突き詰めていけば、私は「景子である事」が怖いのだろう。
けれどそれはもう、どうしようもない事だ。
受け入れるしかない。わかっていても、怖い。
「ぜんぶ、こわいの」
手を、伸ばす。
縋るものがほしくて必死だった。
首にしがみついた私を、言継は抱きしめてくれた。
優しい手が、背中を撫でる。
「大丈夫」
落ち着きのある声が心地よかった。
「怖がる事を知っているなら、景子は大丈夫。夢で見た事を恐れているなら、同じ道は歩まないだろう?」
怖い事が起こらないように違う道を通ればいいと言う言継に、私は首を振った。
「かえてしまうことも、こわい」
「何故?」
「こわれてしまうかもしれないから」
一拍おいて、言継が笑い出した。
「景子は面白い事を言うねぇ」
声が震えている。ツボにはまったようだ。
「……にいさま」
笑い続ける彼に、思わず半眼になった。
私は、大真面目だ。本気でそう思っていたし、それを恐れていた。
けれど、そんな私の答え言継は一蹴する。
「景子が行動を変えたくらいで壊れてしまうほどに脆い未来などないよ」
陰陽師ならば星が読める。
よくない未来を回避しようとした人物など、過去にいくらでもいるのだ。
「そんなにも脆い未来など、壊して新しく作ればいいんだ」
未来がないのなら作ればいい。
描かれていないという事はつまり自由だという事。
だから何も怖がる事はないのだと言われて、目からうろこが落ちた。
「……つくる?」
ずっと、未来は決まっているものだと思っていた。
用意された道筋の通りに進むものだと。逸れてしまえば、何もないのだと。
けれど、違うのだろうか。
「景子の未来は、まだ決まっていない。これから景子が自分の手で作り上げるものだよ」
ぽんぽんと、あやすように背中をたたかれる。
伝わる体温が、ぬくもりが、あたたかい。
……生きている。
そう、感じた。
言継も、景子も、確かにこの世界に生きているのだと。
ゲームなんかじゃない。
シナリオなど存在ない。
「わたしのみらいは、わたしがつくる」
こぼれた声に、言継が同意するかのように笑った。
花のような笑顔とはこの事を言うのだろう。
きっとこの顔の前ではどんな花もかすんでしまうに違いない。
そして、そんな彼の表情を側近くで見る事が許されるのは幸せだと思った。
花が、咲いた。
桜に、山吹、桃の花。
季節外れの花々が庭に広がっていく。
不思議な光景だ。
……ああ、景子の能力だ。
そう思うのと同時に体から力が抜けていった。
驚きで目を見開く言継を最後に、私の意識は闇に沈んだ。
きっとこの時初めて、私は「景子である事」を受け入れられたのだと思う。
だから、ゲームの設定よりも早く能力が目覚めたのだ、と。
それほど、私が話す未来は荒唐無稽なものだったと思う。
だって植物を育てる事など、名の通った陰陽師にもできない。
子供のたわごとだ、ただの夢だ、と切って捨ててもおかしくないような私の話を、言継は笑わなかった。
それがどんなにありがたかったか、彼は知っているだろうか。
「景子は何を怖がっているの?」
瞳を合わせて、言継が問う。
答えをすぐに見つけることが出来なかった私は「わからない」と涙声で答えた。
用意された未来は、怖いと思う。
かといって、それを変える勇気もない。
変えた先にあるだろう未来もまた、怖い。
結果、最悪の事態になったりなどしたら、目も当てられない。
堂々巡りだ。
突き詰めていけば、私は「景子である事」が怖いのだろう。
けれどそれはもう、どうしようもない事だ。
受け入れるしかない。わかっていても、怖い。
「ぜんぶ、こわいの」
手を、伸ばす。
縋るものがほしくて必死だった。
首にしがみついた私を、言継は抱きしめてくれた。
優しい手が、背中を撫でる。
「大丈夫」
落ち着きのある声が心地よかった。
「怖がる事を知っているなら、景子は大丈夫。夢で見た事を恐れているなら、同じ道は歩まないだろう?」
怖い事が起こらないように違う道を通ればいいと言う言継に、私は首を振った。
「かえてしまうことも、こわい」
「何故?」
「こわれてしまうかもしれないから」
一拍おいて、言継が笑い出した。
「景子は面白い事を言うねぇ」
声が震えている。ツボにはまったようだ。
「……にいさま」
笑い続ける彼に、思わず半眼になった。
私は、大真面目だ。本気でそう思っていたし、それを恐れていた。
けれど、そんな私の答え言継は一蹴する。
「景子が行動を変えたくらいで壊れてしまうほどに脆い未来などないよ」
陰陽師ならば星が読める。
よくない未来を回避しようとした人物など、過去にいくらでもいるのだ。
「そんなにも脆い未来など、壊して新しく作ればいいんだ」
未来がないのなら作ればいい。
描かれていないという事はつまり自由だという事。
だから何も怖がる事はないのだと言われて、目からうろこが落ちた。
「……つくる?」
ずっと、未来は決まっているものだと思っていた。
用意された道筋の通りに進むものだと。逸れてしまえば、何もないのだと。
けれど、違うのだろうか。
「景子の未来は、まだ決まっていない。これから景子が自分の手で作り上げるものだよ」
ぽんぽんと、あやすように背中をたたかれる。
伝わる体温が、ぬくもりが、あたたかい。
……生きている。
そう、感じた。
言継も、景子も、確かにこの世界に生きているのだと。
ゲームなんかじゃない。
シナリオなど存在ない。
「わたしのみらいは、わたしがつくる」
こぼれた声に、言継が同意するかのように笑った。
花のような笑顔とはこの事を言うのだろう。
きっとこの顔の前ではどんな花もかすんでしまうに違いない。
そして、そんな彼の表情を側近くで見る事が許されるのは幸せだと思った。
花が、咲いた。
桜に、山吹、桃の花。
季節外れの花々が庭に広がっていく。
不思議な光景だ。
……ああ、景子の能力だ。
そう思うのと同時に体から力が抜けていった。
驚きで目を見開く言継を最後に、私の意識は闇に沈んだ。
きっとこの時初めて、私は「景子である事」を受け入れられたのだと思う。
だから、ゲームの設定よりも早く能力が目覚めたのだ、と。
0
あなたにおすすめの小説
最近のよくある乙女ゲームの結末
叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。
※小説家になろうにも投稿しています
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる