Liar angel

藤美りゅう

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第二話

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 今年三〇歳になり、全盛期の若々しさは年々衰え始めている。ジムに通い全身のケアを毎日必死にやっている。それでも老いは確実に進んでいる。そんな事をここずっと考えていて、ノエルのあまりにも美し過ぎる容姿に自分のモデル人生が危ぶまれる気がして、咄嗟に連れ帰ってしまった。今思えばあの時はどうかしていたのかもしれない。

「おいでノエル」
 ノエルを自分のベッドに呼ぶと、ノエルは素直にベッドに潜り込む。そして、自分を抱かせた。初めての時、ノエルは酷く動揺し怯えていた。ノエルにとってSEXは不浄な行ために思った様だった。自分の:嘘(ことば)を信じるノエルに、みんなしている事、普通の事、そう言ってノエルを落ち着かせた。ノエルにしてもらうと嬉しいのだと伝えると、ノエルはルカが喜ばせる事ができる唯一の行ために素直に従った。ルカはルカで、これほどまでに美しい男に抱かれている事実、そして自分がいないと生きていけないノエルに対して愛おしさと同時に優越感を覚えた。そして時折、ノエルの美しさにも嫉妬した。

 ルカのマンションから出ることのないノエルにとっての情報源はもっぱらテレビだ。映画が好きなようで飽きることなくずっと見ている。雑誌や本も好きなようでよく眺めているが字が読めないため、雑誌の写真をよく眺めていた。

「ルカ」
洗い物をしているルカにノエルが雑誌を片手に近付いてきた。
「これ、ルカ?」
そう言って雑誌の表紙を見せる。
 先日発売されたルカが表紙の女性誌だった。『SEX特集』と大きな見出しと、裸の女性モデルと裸のルカが抱き合っている表紙。表紙を飾るルカの青い瞳がこちらを見つめている。
「そう、俺だよ」
「これも?これもルカ?」
中を開いて女性モデルとの絡んでいる写真を見せてくる。
「そう、俺。なんで?」
ルカが尋ねると、少し顔を歪ませ「すごく嫌な気分」そう言った。
一瞬、意味が分からなかった。
「はは、ヤキモチでも妬いたか?」
「ヤキモチ……?」
聞きなれない言葉に、きょとんとした表情を浮かべている。珍しいと思った。ノエルが感情らしい感情を出したことがなかったからだ。ノエルは感情がフラットで喜怒哀楽の起伏があまりない。だが、初めて感情らしい感情を露わにした。
「俺がノエル以外のやつと抱き合ったり触れ合ったりするのが嫌って事」
ルカはノエルの首に両腕を回すと、小首を傾げてみせた。
「イヤダ……とても……」
その言葉にルカは気分が良くなり、ノエルにキスをした。

 もっと自分に執着すればいい。そして自分がいないと生きていけなくなればいい──。

 その日の撮影で久しぶりに元セフレのマナトに会った。マナトもモデルで、一年ほど前まで関係があった。体だけの関係と割り切り、楽な関係だと思っていたがマナトが交際を迫ってきたため、関係を切ったのだ。

 撮影が終わりマナトがルカの肩に腕を回してきた。
「久しぶりにどう?」
そう耳元で言われたがマナトの腕を振り払う。
「しない」
「いいじゃん、久しぶりにルカの家に行きたいな」
「ダメだ。今、家に……」
ノエルの顔が浮かぶ。
「いいぜ、久しぶりにやろうか」
そう言って口角を上げた。

 寝室に入ってくるなよ、ノエルにそう言い聞かせると、マナトと寝室に入る。その言葉にノエルは少し悲しげな顔を浮かべたが、黙って頷くとリビングで映画を観る事にしたようだった。ルカはわざと寝室の扉を細く開ける。案の定、ノエルはその隙間から自分とマナトの行ためをじっと見つめていた。じっとりとしたノエルの視線に嫉妬の感情が伝わってくる。その視線にルカの感度が上がり、何度も達した。マナトとSEXをしているはずなのに、ノエルと交わっているような感覚に襲われた。

 マナトを見送り振り返るとノエルがリビングから顔を半分だけ出しこちらを睨んでいた。その目にゾッとする。金縛りにあったように体が一瞬動かなくなる。だが次の瞬間には嫉妬に狂うノエルの視線に興奮すら覚え、散々したというのに下半身が疼き出す。そんなルカに気づく事なくノエルは不機嫌そうにソファに体を沈め、テレビに視線を向けている。
「ノエル、悪かった。付き合いも必要なんだよ」
そう言ってノエルに近付くと後ろから抱きしめてやる。
「僕にはルカだけなのに、ルカは僕だけじゃない」
「ノエル……」
少しずつノエルの感情が育ち始めている。
「体と心は別だよ。心はノエルだけだ。愛してるよ、ノエル」
つむじに一つキスを落とす。
「愛してる……僕もルカを愛してる」
『愛している』という言葉を理解しているのかは分からなかったが、その言葉にルカの感情が高揚し、ノエルに深く口付けた。

次の日の夕方──。
打ち合わせのため事務所に訪れたルカはマネージャーの紗栄子の言葉に驚愕する。
「マナトが?」
「ええ、びっくりよね。昨日一緒に撮影していたのに……」
(マナトが死んだ?)
「連絡が取れなくて、今朝マネージャーが自宅に行ったら死んでたって……薬をやってたみたいで、過剰摂取による心臓麻痺だったみたいよ」
昨日の今日でルカは動揺を隠せずにいた。
 「ショックよね……」
紗栄子はその後も何か話していたが頭に入ってこなかった。

 自宅に帰りいつものようにノエルが出迎える。テレビが付いており、ちょうどマナト死亡のニュースが流れていた。
「この人、死んだんだね」
不意にノエルは聞いたこともない低い声で呟く。
「僕のルカを奪おうとするから、天罰がくだったんだ」
そう言って不気味な笑みを溢す。
「天罰……?」
「そんな事よりご飯食べよう、ルカ」
次の瞬間にはいつもの幼い笑顔を浮かべていた。
 まるで自らマナトを殺したような物言いにその時、初めてノエルに対して違和感を感じた。
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