Liar angel

藤美りゅう

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第五話

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待ちなさい──。

 ふと、そんな声が脳内で響いたと思うと、部屋中が神々しい光に包まれた。
「やっと見つけましたよ、ノエル」
光の中から一人のスーツ姿の男が現れた。
「だ、誰だ……!どうやって入ってきた!」
 完全なセキュリティ完備のマンションに侵入できるはずがないし、そもそも玄関すら開けていない。一体この男はどうやって入ってきたのか。
「ノエル、このままでは貴方はこの方と共に地獄に堕ちますよ」
その言葉にノエルはニヤリと不気味に笑い、ノエルはルカに頬ずりする。
「ルカと一緒なら……僕は地獄でも天国でもどっちでもいい」
 そう言って舌先を出すとルカの頬を舐め上げた。
「ノエル……?」
 ノエルの表情は見た事がないほど神々しくも見え、そして恐ろしく不気味に映る。
「僕はそもそも天界にいてはいけない存在だった。そうでしょう?ミカエル様」
ミカエル?だと?
 そうノエルが呼ぶ名に大天使ミカエルの映像が浮かぶ。大天使など見た事などなかったが、なぜかルカの脳内で映像が浮かんだ。ブロンドの美しい髪に自分と同じ青い瞳。肌は透き通るように白く、同じくらい白く大きな羽を背負っている。脳内に浮かぶのが大天使ミカエルなのだとした、目の前の人物は何者なのか──。そう考えを巡らすと、
「人間の体を借りています。早く返さないとこの方の命に関わりますので本題に入ります」
まるでルカの心を読み取ったようにミカエルは言った。
「ノエル、貴方とうの昔に記憶は戻っていたのでしょう?」
その言葉にルカの息が止まる。
(記憶が戻っていた……?)
「本当なのか……ノエル……」
「だって、そうしないとルカの側にいられない」
「天界に連れて帰ろうと探し回りました。しかし、ノエルと貴方は罪を犯し過ぎました。多くの嘘をつき罪のない人間を手に掛け、必要ない殺生を繰り返しました」
「はははは!!」
ミカエルの言葉に急にノエルは高笑いをした。
「おかしいの……!ミカエル様……貴方こそ、大天使でありながら僕に嘘をついていたではないですか!皆と少し違うけれど天使だと──それは罪ではないと?」
天使……ノエルが?
 ノエルは死神などではなく天使だというのか──。ルカが想像する天使とノエルの姿はあまりにもかけ離れていて、信じがたかった。
 ノエルの顔つきが徐々に険しいものになり、美しいのには変わりないのだが、天使というのには酷く恐ろしい存在に思えて仕方がなかった。
「嘘ではありません。貴方を生んだのは下級ではありましたが間違いなく天使なのです」
「そして父は──」
ノエルは言葉を一度切ると、

「堕天使ルシファー……そうでしょう?ミカエル様」

ミカエルの顔が一瞬にして強張る。
「なぜそれを……もしやルシファー と会いましたね?」
ミカエルの言葉に、さぁ、と小首を傾ける。
「僕は、天使と堕天使の間に生まれた異端児。だから髪も瞳も黒く、羽も白くなかった。僕は天界の人質だった。悪魔たちの襲撃の盾にしようとしていたんだ……」
そう言ってノエルは悲しみと憎しみを込めた目をミカエルに向けた。
「ノエル!それは違います!利用しようとしていたのはルシファーの方です。あの日、ルシファーは貴方を攫い、貴方のその美貌を利用し、天使たちを堕天させようと企んでいたのです!」
「そんな事、今の僕にはもうどうでもいい。僕にはルカがいるから……ルカさえいればそれでいい。ねえルカ、ルカもそうでしょう?僕がいれば何もいらないよね?」
そんな問いに素直に頷けるはずもない。ルカの体が小刻みに震え出す。
突然目の前のミカエルが苦しみ出した。
「いけない……時間切れのようです。次、来る時までに改心なさい。そうすれば天界に戻れるチャンスをあげましょう」
そう言ってミカエルは消えていった。

「ルカ?大丈夫?震えてる」
ルカはそっとノエルの腕から抜け出し、
「どういう事なんだ……?記憶が戻っていた?それに、お前は人ではなくて天使だって?」
 矢継ぎに質問を投げかける。ノエルは満面の笑みを浮かべている。その笑みが酷く不気味に映る。
「記憶は確かに戻っていたよ。正確には戻してもらったというのかな。三日前に、父親がここに来たんだ。迎えにね。もちろん、断ったよ。だってルカを置いて帰るわけにはいかないもの」
 父親とはルシファーの事であろう。大天使でありながら神に背き堕天使となり、堕天使悪魔たちの王に君臨しているという、堕天使ルシファー。
「確かに僕は人ではない。天使でも堕天使でもない中途半端な存在。僕は天界で仮面を着けてずっと過ごしてた。理由はルカも嫉妬するこの美貌だよ」
そう言って美しい自分の顔に爪を立てるノエル。
 自分がノエルの美しいその顔に嫉妬している事に気付いていたというのか。
「僕のこの顔は天使たちを惑わせる。皆、堕天してしまうんだ。天界にとって危険分子である僕は仮面を着けていなければならなかった。そんな僕は天使たちから仲間はずれにされていつも一人だった……けど、ルカに出会えた。ルカは僕の光だ」
ノエルはルカを抱きしめると頬ずりを繰り返す。
「僕、知ってたよ。ルカが僕に色々な嘘をついていた事。その嘘は僕にとって、とても価値があるものだった。だってルカの側にいられる理由になるから……ルカを愛してるから許してあげる。だからルカも僕をずっと愛していて。僕以外の誰かを見る事は許さないよ」
ノエルはルカの額に手をかざす。暖かいものが流れてきて心地よい眠気に襲われる。

「可哀そうで可愛い僕のルカ……」

遠くでノエルがそう呟いているのが聞こえた──。
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