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第六話
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ルカが目を覚ますと、隣でノエルが笑みを浮かべ自分を見つめていた。
「おはよう、ルカ」
「おはよう、ノエル……凄く変な夢を見ていた気がする……」
「疲れてるんだよ、きっと」
ルカの手が伸びてきてそっと髪を撫でられる。
「そうかもしれない……」
「さあ、朝ご飯食べよう。今日はフレンチトーストを作ったんだ」
そう言ってルカの唇にキスを落とす。
リビングに行くとテレビがついており、朝のニュースが流れている。
『ファッションモデルの嵐さんの自宅マンションが火事になり、嵐さんは命に別状はないものの、大火傷を負う重症という事です』
ルカはそっとノエルを見ると、優しい笑みを浮かべていた。
嵐は商売道具である顔に大火傷を負ったとしたならば、モデルとしての人生は終わりだろう。
「は、はは……天罰……天罰が降ったんだ……」
ノエルはそんなルカを見てほくそ笑んだ。
その後、嵐がモデルとして継続していく事が実質不可能となったため、ルカのエリオット・ワンの契約継続が決定した。
ルカの中で、罪の意識に苛まれるという思いが徐々になくなっていった。
自分のモデル人生において、邪魔なものは排除する──。ノエルがいれば自分は無敵だ。
しかし──、
自分の老いはどうする事もできなかった。
ノエルと暮らし始めて十年。ルカは四〇歳になろうとしていた。顔のシワは増え、心なしかたるんできているように見える。明らかに、十年前の自分とは違う。モデルとしてまだ仕事のオファーはきていたものの、いつ仕事がなくなるのか毎日不安になり、鏡を見る事が怖くなっていった。
一方、ノエルは出会った頃から全く変わらず、ずっと美しかった。その変わらない美しさに嫉妬と嫌悪が膨れ上がっていった。
「嫌いだ……ノエルなんか嫌いだ!どっか行け!」
とうとうルカの中で燻っていたものが爆発した。
ノエルはその言葉に動揺する。
「ルカ、落ち着いて。嫌いだなんて……!そんな事冗談でも言わないで!」
ルカを落ち着かせようとノエルはルカに近付こうとするが、クッションを手に取るとノエルに投げつけてきた。
「近寄るな!なんでオマエは変わらない?!なんで美しいままなんだ……俺は老いていく一方なのに……」
そう言ってルカは涙を溢す。
「ノエルの隣にいるのが辛いんだ……もう死にたい……このまま老いて醜くなっていくくらいなら、死んだ方がマシだ」
「ルカ……僕はどんなルカでも愛してるよ?」
その言葉にルカは血走った目でノエルを睨む。
「オレはモデルなんだぞ!オマエだけに愛されても意味がないんだよ……オマエといると自分が酷く醜く見えてくる……オマエに憎しみが湧く時だってあるし……本当にオマエを嫌いになりそうになる事だって……」
「ルカ!」
ノエルはその言葉にルカの肩を強く掴んだ。ノエルのが浮かべる表情にルカはゾッとする。
「許さない……そんな事……絶対に」
「ノエル……痛い……」
ノエルの指が肩に食い込み激痛が走る。
「そうだ、ルカ。いい事を思いついた」
その言葉と同時にノエルの表情が急に明るくなる。
「僕がルカを若返らせてあげる」
「え……そ、そんな事できるのか?」
「うん、できるよ。ずっと若くて美しいままのルカでいられる」
「本当か?」
そんな魔法のような事ができるのか、そう疑問に思うも、天罰を降せるノエルなら可能かもしれない。ノエルはおそらく人ではない何かだ。生物の生死を自由に操れる、人では成し得ない事ができる存在だ。
ノエルはルカの顔をゆっくり撫でる。
「鏡を見てご覧」
そう言われルカは近くにあった手鏡を手に取る。明らかに若返っていた。十年前どころの話ではない。二十代前半、一番注目されていた時の自分だ。
「本当に若返った……信じられない……」
「ルカが望む事ならなんでもしてあげる。だからずっと僕を愛してほしい」
後ろからノエルが抱きしめてくる。
「何言ってるんだ、俺はずっとノエルだけだろ……」
正面からノエルを抱きしめ返した瞬間、力が抜けた。ガクッと膝から崩れ落ち倒れる瞬間、ノエルが受け止める。
「うん、だから一緒にいこうルカ……」
どこに──?
聞かずとも想像はついた。
ああ──、それもいいかもしれない。美しいままでそして、愛するノエルと逝けるのならば、それもいい。
「ノエル……愛してる、嘘じゃない……本当に愛してるんだ……だからずっと一緒に……」
そう言い残し、ルカは目を閉じた。
ノエルの瞳から涙が溢れた。ずっとルカの『愛している』は嘘だと思い信じていなかった。ルカは自分の欲には逆らえない人で、その欲を満たすために自分にたくさんの嘘を吐き自分を利用しているだけなのだと、ずっとそう思っていた。それでもルカの側にいたかった。けれど、嘘ではなかった。本当に愛していてくれたのだと、その事実を知りノエルは嬉しいと言うよりも安堵したのだった。
「おはよう、ルカ」
「おはよう、ノエル……凄く変な夢を見ていた気がする……」
「疲れてるんだよ、きっと」
ルカの手が伸びてきてそっと髪を撫でられる。
「そうかもしれない……」
「さあ、朝ご飯食べよう。今日はフレンチトーストを作ったんだ」
そう言ってルカの唇にキスを落とす。
リビングに行くとテレビがついており、朝のニュースが流れている。
『ファッションモデルの嵐さんの自宅マンションが火事になり、嵐さんは命に別状はないものの、大火傷を負う重症という事です』
ルカはそっとノエルを見ると、優しい笑みを浮かべていた。
嵐は商売道具である顔に大火傷を負ったとしたならば、モデルとしての人生は終わりだろう。
「は、はは……天罰……天罰が降ったんだ……」
ノエルはそんなルカを見てほくそ笑んだ。
その後、嵐がモデルとして継続していく事が実質不可能となったため、ルカのエリオット・ワンの契約継続が決定した。
ルカの中で、罪の意識に苛まれるという思いが徐々になくなっていった。
自分のモデル人生において、邪魔なものは排除する──。ノエルがいれば自分は無敵だ。
しかし──、
自分の老いはどうする事もできなかった。
ノエルと暮らし始めて十年。ルカは四〇歳になろうとしていた。顔のシワは増え、心なしかたるんできているように見える。明らかに、十年前の自分とは違う。モデルとしてまだ仕事のオファーはきていたものの、いつ仕事がなくなるのか毎日不安になり、鏡を見る事が怖くなっていった。
一方、ノエルは出会った頃から全く変わらず、ずっと美しかった。その変わらない美しさに嫉妬と嫌悪が膨れ上がっていった。
「嫌いだ……ノエルなんか嫌いだ!どっか行け!」
とうとうルカの中で燻っていたものが爆発した。
ノエルはその言葉に動揺する。
「ルカ、落ち着いて。嫌いだなんて……!そんな事冗談でも言わないで!」
ルカを落ち着かせようとノエルはルカに近付こうとするが、クッションを手に取るとノエルに投げつけてきた。
「近寄るな!なんでオマエは変わらない?!なんで美しいままなんだ……俺は老いていく一方なのに……」
そう言ってルカは涙を溢す。
「ノエルの隣にいるのが辛いんだ……もう死にたい……このまま老いて醜くなっていくくらいなら、死んだ方がマシだ」
「ルカ……僕はどんなルカでも愛してるよ?」
その言葉にルカは血走った目でノエルを睨む。
「オレはモデルなんだぞ!オマエだけに愛されても意味がないんだよ……オマエといると自分が酷く醜く見えてくる……オマエに憎しみが湧く時だってあるし……本当にオマエを嫌いになりそうになる事だって……」
「ルカ!」
ノエルはその言葉にルカの肩を強く掴んだ。ノエルのが浮かべる表情にルカはゾッとする。
「許さない……そんな事……絶対に」
「ノエル……痛い……」
ノエルの指が肩に食い込み激痛が走る。
「そうだ、ルカ。いい事を思いついた」
その言葉と同時にノエルの表情が急に明るくなる。
「僕がルカを若返らせてあげる」
「え……そ、そんな事できるのか?」
「うん、できるよ。ずっと若くて美しいままのルカでいられる」
「本当か?」
そんな魔法のような事ができるのか、そう疑問に思うも、天罰を降せるノエルなら可能かもしれない。ノエルはおそらく人ではない何かだ。生物の生死を自由に操れる、人では成し得ない事ができる存在だ。
ノエルはルカの顔をゆっくり撫でる。
「鏡を見てご覧」
そう言われルカは近くにあった手鏡を手に取る。明らかに若返っていた。十年前どころの話ではない。二十代前半、一番注目されていた時の自分だ。
「本当に若返った……信じられない……」
「ルカが望む事ならなんでもしてあげる。だからずっと僕を愛してほしい」
後ろからノエルが抱きしめてくる。
「何言ってるんだ、俺はずっとノエルだけだろ……」
正面からノエルを抱きしめ返した瞬間、力が抜けた。ガクッと膝から崩れ落ち倒れる瞬間、ノエルが受け止める。
「うん、だから一緒にいこうルカ……」
どこに──?
聞かずとも想像はついた。
ああ──、それもいいかもしれない。美しいままでそして、愛するノエルと逝けるのならば、それもいい。
「ノエル……愛してる、嘘じゃない……本当に愛してるんだ……だからずっと一緒に……」
そう言い残し、ルカは目を閉じた。
ノエルの瞳から涙が溢れた。ずっとルカの『愛している』は嘘だと思い信じていなかった。ルカは自分の欲には逆らえない人で、その欲を満たすために自分にたくさんの嘘を吐き自分を利用しているだけなのだと、ずっとそう思っていた。それでもルカの側にいたかった。けれど、嘘ではなかった。本当に愛していてくれたのだと、その事実を知りノエルは嬉しいと言うよりも安堵したのだった。
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