それが運命というのなら

藤美りゅう

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それが運命というのなら#26

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瓜生が病室を出て行くと同時に、
「いい先生だけど、変わってるよね」
 少し呆れた口調で言った。
「だな……」
 理月も同調せずにはいられない。
 研究熱心なのは分かるのだが、夢中になるとどうも空気を読めなくなるようだ。
「で、理月は、将星を運命の番だと思うの?」
 楽人の問いに、一瞬言葉が詰まる。
「そんなの……わかんねえよ。だって、何か目印とかあるわけじゃねえんだからよ。ただの特異体質な気がするけどな」
 そう言ったものの、将星もあまりオメガのフェロモンに反応しないと言っていたのを思い出す。お互いに特異体質と済ませるには都合が良すぎるかもしれない。だが、運命の番の方が余程非現実的だと思えた。
「まぁ、番ってる人は、大抵相手を運命の番だと思ってるよね。あーあ、俺も運命の番に出会いたい! もしくは、スパダリなアルファ!」
 (運命の番ね……)
 そんな楽人の叫びに理月は他人事のように思えた。

 面会時間が終わりだと看護師に告げられ、理月は病室を後にした。
 エレベーターに向かう廊下で瓜生の背中が見え、理月は気になる事があり、瓜生に声をかけた。
「帰るのかい?」
「はい……あの、先生……今週空いてる日あったら予約入れていいですか? 診察とかそういうんじゃないんですけど……」
「相談的な事?」
「まあ、そうですね……」
 将星と再会してから理月にはずっと気になっている事があり、瓜生の意見を聞きたかった。
「今でもいいなら聞くけど」
 エレベーター横の談話室に二人は移動し、ソファに並んで腰を下ろした。
「もしかして、さっきの、運命の番の事?」
 瓜生の言葉に理月は首を振ると、脳内で言葉を選び、どう言えば上手く伝わるのか考える。
「俺のヒートは……将星が現れなかったら……ずっとないままだったんでしょうか」
 自分の手元に目を落とし、そう尋ねた。
 ずっと気になっていた。三年前、将星を前にし初めてヒートを起こした。そして、将星と離れた三年間、ヒートらしいヒートは起こらなかっのに、再び将星と再会し激しいヒートに襲われた。
 先程の話ではないが、まるでフェロモンが将星に反応しているように思えた。もし、将星との再会がなかったら、ヒートはなかったのではないか、将星は自分に依存するようなことはなかったのではないか。再会しない方がお互いの為には良かったのではないか、そう思えてしまうのだ。

 瓜生の視線を横で感じながらも、顔を向ける事ができない。
「そうだとしたら……彼を恨む?」
 その言葉にハッとし、理月は何度も首を振った。
「恨みたいけど……恨めません……」
 すんなり将星を恨む事ができたら、幾分楽だったかもしれない。でも、それができない。理月の中で将星の存在は日に日に大きくなっていき、いつの間にかすっかり将星の存在が心に根付き始めていた。
「彼の存在が、天音くんのフェロモンを刺激した可能性は高い。けど、ヒートがないオメガはいないんだよ」
 その言葉に理月は顔を上げ、瓜生を見た。瓜生は微笑んでいるように見える。
「天音くんは、確かにヒートが起きにくい特異な体質だ。けど、それは体がオメガとして完全ではなかったからだと思う。遅かれ早かれヒートは必ずくるものなんだ。天音くんの安定していなかった体が、彼に刺激されて安定し始めたんだ」
「でもなんで、将星だけに反応が?」
「うーん……それは、分からない。それこそ、天音くんの特異体質なのか…………もしくは、運命の番だから? とか?」
 再び出たその単語に理月は顔をしかめた。瓜生は笑いを溢すと、
「とにかく、彼と会わなければヒートはなかった、という事はないと思うよ。だから安心しなさい」
 そんなに不安そうな顔をしていたのだろうか。理月自身、瓜生の言葉に安心したかったのだと、その時気付いた。

 理月はどこかで、将星といてはいけない理由を探していたのかもしれない。
『将星がいるから、自分のヒートが起こる』
 そう言い放てば将星と一緒にいられない理由ができたはずだ。そうすればオメガと自覚しながら生きていく事はなかったはずだ。だが、そうではない事に安心している自分がいた。
 《将星と離れなくてはならない理由》がなくなったのだ。
 その事に酷く安心していた。
 理月自身、将星に少なからず想いを抱いているのだと気付いた瞬間だった。
 元々の将星はあまり感情がないように思っていた。怒りも悲しみも喜びも内に秘める、そんなイメージだった。しかしその将星が、泣く程自分に依存している。それが堪らなく愛おしく感じたのだ。

 病院を後にし、その足でバイトに向かった。バイト先に着くと店長から、休みの間にガラの悪い男たちが理月らしき人物を訪ねてきたと聞いた。店長は機転を効かし、上手く誤魔化してくれたのだという。将星にその事を言うと、バイトの送り迎えをする、と言って聞かなかった。それを宥めるのに理月は酷く精神を消耗した。

 それから数日後。
 バイトを終え、店に出て駐輪場に向かう途中、数人の男に囲まれた。
 キャップをかぶり変装紛いな事をしていたが、あまり役には立たなかったようだ。人目がある為、さすがに相手も派手に手を出しては来ない。
 路地裏に入ると、男たちも理月の後を追うように着いてくる。
「で? 何か用?」
 そう男たちに尋ねると、無意識に人数を確認した。
 (四人……)
 なんとかなる人数だったが、将星に手を出すなと言われている。よくよく見れば、一人だけ明らかに歳が三十前後に見える男がいた。楽人が言っていた、ヤクザのケツ持ちかもしれない。
「おい上田! 本当にこいつオメガなのか? そうは見えねえけど」
 そのヤクザらしき男が胡散臭げに自分を見ている。
「それが本当なんですよ! 加々谷さん!」
「ふーん」
 そう言って、加々谷と呼ばれたヤクザは不躾に理月をジロジロと見ている。
「もう一人はどうした?」
 おそらく将星の事を言っているのだろう。
「もう一人?」
 分かったはいたが、わざとそう尋ねる。
「山口の腕折ったやつだよ! あいつ入院してんだぞ!」
 上田は噛みつくように言うと、今にも飛び掛かって来そうだ。
「へえー、そりゃ、ご愁傷様」
 理月はニヤリと笑みを浮かべた。
「てめぇー!!」
 理月の煽りにまんまと頭に血を昇らせ、男は理月に向かってこようとした。が、「やめろや、上田」そう言って加々谷が上田を止める。
「それでこいつケガさせてたら、意味ねぇだろ」
 加々谷は意味深に笑みを浮かべると、
「とりあえず、山口の慰謝料百万用意しろ」
 そう言った。
「……」
 理月は何も言わず黙っていると、加々谷が理月の目の前まで歩み寄ってきた。
「親でも何でも頼れば、百万くらい余裕だろ?」
 ニカッと加々谷は笑うと、口の中が見えたがその前歯がなかった。腕にはこれ見よがしに、刺青が両手首まで入っている。半袖のシャツを着て、それを隠そうともせず見せびらかしているようだった。その時点で理月は、こいつは大したことないただのチンピラなのだと悟った。

「なんなら、オメガ専門の風俗紹介してやるよー」
 加々谷は理月の顎を掴むと、グイッと無理矢理上に向かせた。
「ふーん……確かに小綺麗な顔はしてるかもなぁ。色っぽさには欠けるけど」
 理月はその手をやんわり右手でいなす。
「一週間後、同じ時間のここに百万持ってこい。俺は神場会の加々谷だ」
 ご丁寧に名乗り、加々谷たちは去って行った。
 (やっぱりヤクザ絡んでたか……)
 そうなると、当然一人でどうする事もできない。仕方なく携帯を取り出し将星にダイヤルした。

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