同窓会

ツチフル

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同窓会

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 町田君の夢で同窓会が開かれる。
 会場は私たちが通っていた頃の、改築される前の小学校。六年二組の教室。
 みんな自分が一番輝いていた時代で来ているものだから、世代がバラバラだ。
 間島君は四十代半ばの紳士だし、須藤君は野球ユニフォームを着た少年、遠藤君はギターを背負った金髪頭の青年で、北原君は路上生活時代のみすぼらしい格好をしている。その後の劇的な成功よりも、あの頃のほうが良かったよと笑いながら。
 女性側はというと、大抵が(私も含めて)見栄えのしていた二十代の容姿で来ていた。例外は十三歳で時を止めた由美ちゃんと、五十二歳で熱愛結婚をした加奈ちゃんぐらい。
「恵子」
 呼ばれて振り返ると、モデル時代の明美がいた。たしか七股をかけて男に貢がせていた頃だ。
「その格好で山根君と白井君に会ったら修羅場になるよ。七股のうちの二人でしょ」
「さっき三人で笑いあってきたところ。あの頃は若かったねって」
「あそう」
「保坂先生は?」
「町田君たちと話してる」
 保坂先生は当時の保坂先生のままで来ていた。小柄で太り気味の体型。少し広がり始めている額。気のよさそうな赤ら顔は、朝からお酒を飲んでると生徒たちに良くからかわれていた。
「あとでお悔やみ言わないと。お葬式のとき顔をだせなかったのよ」
「私も。でも、お悔やみって本人に言っていいのかな」
「喜ぶんじゃない?」
「喜ぶかな」
 チャイムが鳴る。授業の始まりを告げる懐かしい音。
「そうだ。せっかくだから、先生に授業をしてもらおうよ」
 提案したのは、学級委員長だった金子君。芸人として活躍していた頃の半裸姿がまぶしい。
 金子君の提案はすぐ可決され、保坂先生は少し照れながら教壇へと上がった。
「じゃあ、出席をとるぞ」
 いつの間にか手にした出席簿を開いて、名前を読み上げる。
「相沢幸一」
「はい」
「朝倉仁志」
「はいっ」
 名前を呼ばれた生徒は元気よく返事をし、それが合図のように、私たちの姿は小学生へと戻っていく。
 久しぶりに受ける授業は、不思議なくらいに楽しくて、少しおかしかった。
 無駄話とあくびばかりしていた私たちが、真剣に先生の話を聞く。
 指名されないようにうつむいたり窓の外を眺めたりしていた私たちなのに、我こそはとばかりに手をあげる。
 全員参加の、理想的な授業風景だ。
 ずらりとあがる手を眺めて、保坂先生が笑う。
「まるで夢を見ているみたいだな」
 
 気がつけば、昼休みになっている。
 給食のメニューは、牛乳に揚げパン、ビーフシチューに白身魚のホイル焼き。それから、デザートにプリンとフルーツポンチがついてきた。
 でたらめな献立は、きっと町田君が主催者の特権を利用して自分の好物だけを選んだからだろう。
 教室の後ろでは、余分にあったプリンを賭けて男子たちのじゃんけん大会が開かれている。トーナメント方式の勝ち抜き戦。みんな、真剣な目。
 女子はというと、男子のくだらない争いを無視しておしゃべりに夢中だった。グループ違いで話しかけられなかった子も、今なら隔てなく話すことが出来るのが嬉しい。
 思いがけず意気投合して 「もっと早く話せば良かったね」 と笑いあったりして。
「よし、もらった!」
 教室の後ろで一際大きな歓声があがった。 
 大人げないガッツポーズにブーイングが起こる。
 熱戦を勝ち抜いてついにプリンを獲得したのは、保坂先生だった。


 最後の授業は、ホームルームをすることになった。
 保坂先生が順番に生徒を指名していき、指名された生徒は自分の歩んできた道を思い思いの言葉で紡いでいく。
 誰もが少し早口なのは、町田君がもうすぐ目覚めることを知っているから。
 全員の報告が終わる頃には教室の輪郭がぼやけ始めていた。
「そろそろ時間か?」
 保坂先生がたずねると、町田君は申し訳なさそうにうなずいた。
「はい」
「よし。それじゃあ、最後にみんなで町田にお礼を言って同窓会をしめくくろう」
 起立の呼びかけに全員立ち上がり、照れくさそうな町田君を注目する。
「こうしてみんなが集まれたのは、町田のおかげだ。ありがとう」
 保坂先生のありがとうに私たちのありがとうが続き、重なるように同窓会の終了を告げるチャイムの音が鳴り響く。
「今日は楽しかったな。またやろうぜ」
「期待してるからね」
 教室を出て行く前に、一人一人が町田君に声をかけていく。
「給食のメニュー、今度はオムライスにしてよ」
「私、ソフト麺がいい」
 じゃあな、じゃあねと手を振って教室の外へ。
「町田君」
 私の番がきた。
「今日はありがとう。すごく楽しかった」
「そう言ってもらえて良かったよ」
「また、できるかな。町田君の夢で同窓会」
「どうだろう。そろそろ僕も」
「できるできる」
 無責任に言う私に、町田君は苦笑する。
「…そうだね。こうやってみんなに会えるなら、もう少し頑張ってみるよ」
「長生きしてね」
「うん」 
 町田君は頷いてから、鼻にチューブを突っ込んで生きていくのも結構しんどけどねと笑った。  (了)
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