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第一章 荒神転生
1-10 お別れの儀
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そうこうするうちに、あっという間に一週間が過ぎ去った。俺が陽だまりでうつらうつらと寝ていると、おっとりしたご様子で村長がやってきた。
俺が寝そべったまま片目をそっと半目に開けると、傍にやってきて腰を屈めた村長が話しかけてくる。
「スサノオ様。もう一週間が経ちましたな」
「え、一週間って何の話だったっけかな」
「あー、そのう、蜘蛛を警戒する期間なのですが。その後で姫様を王都の王宮にお連れする予定だったのでは?」
「あ」
いけねえ、あまりにも平和ボケしていたので、すっかり忘れ切っていた。俺は蜘蛛を待っていたんだよなあ。
こうしている間も、警戒だけは怠っていない。さすがに狼なだけあって、元は人間でも、こういう芸当が可能なのだ。こういう事は自然体で無意識にやっているので、その目的さえ忘れていた。
この一週間というもの、子供達と遊んでいるか昼寝しながら、来るのか来ねえのかよくわからない客を待っていたのだ。とうとう来なかったようなのだが。
まあ連中を特別に招待したいわけではなかったので別にいいのだが。それに奴らに来られると、また追加で次の客を待っていなくちゃならないんでなあ。本当にきりがねえや。
ふっと見たら、腰に帯剣したまま薄青色の地球風のワンピースを着た、少しいかつい体付きの金髪美女が子供、幼い兄妹を両手にぶらさげて歩いている。
サリーと、彼女があの時助けた子供達だ。懐かれているな、女騎士。保母さんでも食っていけそうだ。まあ今も絶賛ルナ姫のお世話中なのだが。
「あ、スサノオ殿。そろそろ期日と相成りましたが、いかがいたしますか」
「ああ、もう蜘蛛は大丈夫じゃないのかな。状況証拠から見ても、当面の敵は殲滅したものと思って問題はなかろう」
一年後にやってきましたよとか言われても困るな。来るんなら、あらかじめ予約を入れてくれよ。キャンセルはしてもいいから。
「それでは、もう出発なさいますか」
「それはいいが、お前の体はいいのか」
すると彼女は子供達の手を離し、助走もつけずにトランポリン抜きで特撮ヒーローのような素晴らしい動きを見せてくれた。
なかなか激しい挙動で、空中でキックやパンチに剣まで抜いて見事な型を披露してくれた。思わず肉球を打ち鳴らしたくなるな。子供達はパチパチと拍手をしていた。
「ほら、もうこの通り。外傷を負っていたわけではありませぬゆえ。スサノオ殿からいただいた薬や栄養食品のおかげで、もうすっかりよくなりましたよ」
この世界にはバイクなどはないので、特撮なら馬とコンビを組んでの撮影かなあ。和装は似合いそうにないから忍者物は無しだな。
特撮にはありがちなお色気担当の女性キャラも務まりそうだ。サリーってばもう、一応は女の子なのだからワンピースで空中大回転は、やめた方がよくてよ。
しかもそいつは俺が提供した現代風の派手な下着なのだから。一見すると武芸者風なのに、下着はそういうものをチョイスするのだな。いつもは鎧を着たままやっているのかねえ。
「サリー、行っちゃうの?」
「えー。いてえ、もっと一緒にいてえ」
あー、こういう問題があったのか。これに関しては俺も他人事じゃねえんだが。
「はは、お前達。私はルナ姫様の騎士だ。もう行かなくては。だが、お前達ありがとうよ。お前達のおかげで、私は姫様の命令を全うし、そして人としても誇りを持つことができた。ありがとう、お前達の事は一生忘れない」
そう言って彼女は子供達を抱きしめた。その台詞といい、その感無量といった感じの表情といい、やっぱりこいつは訳ありっぽいな。まあいいけれども。
その真摯な思いが子供に伝わったものか、子供達は聞き分けてくれたようだ。
「うん、僕達も絶対に忘れないよ。大好きだよ、サリー」
「あたしも~」
俺も立ち上がり、彼らに鼻面を寄せた。俺にも別れの儀式はあるのだ。
俺は村長に頼んで、村の子供達を残らず集めた。よく面倒をみていたおチビさんたちだけではなく、大きな子も集めるように頼んでおいた。そして大人達も仕事を中断して集まってくれた。
「諸君、いよいよ我々が出発する時がやってきたようだ。世話になった。おかげで出立の準備も整った。ありがとう、神の子の名において感謝する」
皆が別れを惜しんでくれた。だが、一人激しく泣き叫んでいる奴がいた。ベリーヌだ。
「いやあ、行っちゃいやあ、スサノオ~」
村中の連中が笑っているじゃないか。あれ? 別れは、しんみりやりたかったのになあ。まあ、これもいいか。俺は鼻面で涙を拭いてやりながら訊いた。
「おい、ベリーヌ。御前ったら全身からハチミツの匂いがするじゃないか。どれだけ食ったんだよ」
「ほんの二十瓶ほど」
「おい、食いすぎだ。一日三食それだったのか? もう一生分食ったんじゃないか」
「えー、だって好きなんだもん」
そして、子供筆頭のライナが頭をポンポンと叩いて宥めた。
「もうベリーヌったら。ハチミツくらい村でも手に入るんだからね」
「でも、ライナ姉。スサノオのハチミツは凄いんだよ。今まで食べたどんなハチミツよりも美味しいの!」
まあ、日本で手に入る最高のブランドハチミツだったからな。高いんだな、これが。俺も金は払っていないんだが。いやあ異世界の幼女、食通過ぎるわ。
「在庫は置いといてやっただろう。また来れたら遊びに来るよ。元気でな、ベリーヌ」
「絶対だよー、来てくれなかったら王宮まで押しかけちゃうからねー」
「もう、俺がそこにいるとは限らんぞ」
「じゃあ、あたしのところにおいでよ。また一緒にあそぼー。王宮って同じ年の子が殆どいないのー!」
「うん、行くよー。ルナ姫様も大好きだよー」
おい、どうやって行く気だ。この辺境の村からだと王都は結構遠いんだがな。まあ、いつか連れていってやるとするか。
俺が寝そべったまま片目をそっと半目に開けると、傍にやってきて腰を屈めた村長が話しかけてくる。
「スサノオ様。もう一週間が経ちましたな」
「え、一週間って何の話だったっけかな」
「あー、そのう、蜘蛛を警戒する期間なのですが。その後で姫様を王都の王宮にお連れする予定だったのでは?」
「あ」
いけねえ、あまりにも平和ボケしていたので、すっかり忘れ切っていた。俺は蜘蛛を待っていたんだよなあ。
こうしている間も、警戒だけは怠っていない。さすがに狼なだけあって、元は人間でも、こういう芸当が可能なのだ。こういう事は自然体で無意識にやっているので、その目的さえ忘れていた。
この一週間というもの、子供達と遊んでいるか昼寝しながら、来るのか来ねえのかよくわからない客を待っていたのだ。とうとう来なかったようなのだが。
まあ連中を特別に招待したいわけではなかったので別にいいのだが。それに奴らに来られると、また追加で次の客を待っていなくちゃならないんでなあ。本当にきりがねえや。
ふっと見たら、腰に帯剣したまま薄青色の地球風のワンピースを着た、少しいかつい体付きの金髪美女が子供、幼い兄妹を両手にぶらさげて歩いている。
サリーと、彼女があの時助けた子供達だ。懐かれているな、女騎士。保母さんでも食っていけそうだ。まあ今も絶賛ルナ姫のお世話中なのだが。
「あ、スサノオ殿。そろそろ期日と相成りましたが、いかがいたしますか」
「ああ、もう蜘蛛は大丈夫じゃないのかな。状況証拠から見ても、当面の敵は殲滅したものと思って問題はなかろう」
一年後にやってきましたよとか言われても困るな。来るんなら、あらかじめ予約を入れてくれよ。キャンセルはしてもいいから。
「それでは、もう出発なさいますか」
「それはいいが、お前の体はいいのか」
すると彼女は子供達の手を離し、助走もつけずにトランポリン抜きで特撮ヒーローのような素晴らしい動きを見せてくれた。
なかなか激しい挙動で、空中でキックやパンチに剣まで抜いて見事な型を披露してくれた。思わず肉球を打ち鳴らしたくなるな。子供達はパチパチと拍手をしていた。
「ほら、もうこの通り。外傷を負っていたわけではありませぬゆえ。スサノオ殿からいただいた薬や栄養食品のおかげで、もうすっかりよくなりましたよ」
この世界にはバイクなどはないので、特撮なら馬とコンビを組んでの撮影かなあ。和装は似合いそうにないから忍者物は無しだな。
特撮にはありがちなお色気担当の女性キャラも務まりそうだ。サリーってばもう、一応は女の子なのだからワンピースで空中大回転は、やめた方がよくてよ。
しかもそいつは俺が提供した現代風の派手な下着なのだから。一見すると武芸者風なのに、下着はそういうものをチョイスするのだな。いつもは鎧を着たままやっているのかねえ。
「サリー、行っちゃうの?」
「えー。いてえ、もっと一緒にいてえ」
あー、こういう問題があったのか。これに関しては俺も他人事じゃねえんだが。
「はは、お前達。私はルナ姫様の騎士だ。もう行かなくては。だが、お前達ありがとうよ。お前達のおかげで、私は姫様の命令を全うし、そして人としても誇りを持つことができた。ありがとう、お前達の事は一生忘れない」
そう言って彼女は子供達を抱きしめた。その台詞といい、その感無量といった感じの表情といい、やっぱりこいつは訳ありっぽいな。まあいいけれども。
その真摯な思いが子供に伝わったものか、子供達は聞き分けてくれたようだ。
「うん、僕達も絶対に忘れないよ。大好きだよ、サリー」
「あたしも~」
俺も立ち上がり、彼らに鼻面を寄せた。俺にも別れの儀式はあるのだ。
俺は村長に頼んで、村の子供達を残らず集めた。よく面倒をみていたおチビさんたちだけではなく、大きな子も集めるように頼んでおいた。そして大人達も仕事を中断して集まってくれた。
「諸君、いよいよ我々が出発する時がやってきたようだ。世話になった。おかげで出立の準備も整った。ありがとう、神の子の名において感謝する」
皆が別れを惜しんでくれた。だが、一人激しく泣き叫んでいる奴がいた。ベリーヌだ。
「いやあ、行っちゃいやあ、スサノオ~」
村中の連中が笑っているじゃないか。あれ? 別れは、しんみりやりたかったのになあ。まあ、これもいいか。俺は鼻面で涙を拭いてやりながら訊いた。
「おい、ベリーヌ。御前ったら全身からハチミツの匂いがするじゃないか。どれだけ食ったんだよ」
「ほんの二十瓶ほど」
「おい、食いすぎだ。一日三食それだったのか? もう一生分食ったんじゃないか」
「えー、だって好きなんだもん」
そして、子供筆頭のライナが頭をポンポンと叩いて宥めた。
「もうベリーヌったら。ハチミツくらい村でも手に入るんだからね」
「でも、ライナ姉。スサノオのハチミツは凄いんだよ。今まで食べたどんなハチミツよりも美味しいの!」
まあ、日本で手に入る最高のブランドハチミツだったからな。高いんだな、これが。俺も金は払っていないんだが。いやあ異世界の幼女、食通過ぎるわ。
「在庫は置いといてやっただろう。また来れたら遊びに来るよ。元気でな、ベリーヌ」
「絶対だよー、来てくれなかったら王宮まで押しかけちゃうからねー」
「もう、俺がそこにいるとは限らんぞ」
「じゃあ、あたしのところにおいでよ。また一緒にあそぼー。王宮って同じ年の子が殆どいないのー!」
「うん、行くよー。ルナ姫様も大好きだよー」
おい、どうやって行く気だ。この辺境の村からだと王都は結構遠いんだがな。まあ、いつか連れていってやるとするか。
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