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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-28 バトルジャンキー×バトルジャンキー
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こうなったら先輩を応援して一緒に戦う他はないのだ。
といってもスキルでしか応援はできないのだけれども。
しかもスキルの使いどころを誤ると、少なくとも俺は確実に死ぬ事になりそうだ。
ここまで冷や汗が止まらないのは初めての経験だ。
初心者の時にパーティに入会した翌日から始まった遠征で、いきなり連れていかれた初めて行った下層で、そこの魔物相手に「一分持ちこたえろ」と言われて以来のヤバさなのだが。
ブライアンは、そういう事のために大変に高価な機械である時計を持っている。
あの時よりも今の方が確実にヤバイ現状なのであった。
幸いにして、そいつは今のところは俺に興味の欠片も示さないようだった。
う、こうやって、俺などが強さを測る事さえも無理な強者同士の睨み合いのもたらす、温度や湿度のような、いわば『死度』で表されるかのような黄泉の世界の空気の中に自分を置くだけで、なんとバージョンは勝手に4.7に上昇した。
馬鹿な、ありえない。
今がどれだけの危機なのかと、俺は心胆を寒からしめた。
そして魔物が笑った。
そのオオサンショウウオを思わせるような大きな口を開けて、そいつは確かに笑っていた。
単に不気味な貌をしただけのようにしか見えないが、何故か俺にはわかる。
震えあがっているだけの、この俺が無様だからか、あるいはこいつの目当てであるらしい先輩を殺せるのが嬉しいのか。
ああっ、奴に嗤われただけでバージョンが4・8に上昇した!
もしかしたら今日が俺の命日になるのかもしれない。
そんな俺の絶望にはついぞ構わずに先輩は動いた。
俺の目が捉えられない刹那の刻に、一瞬にして突き入れられる白銀の穂先、だがそいつはあっさりと弾かれて捻じ曲がった。
「なんて固いんだよ。
上級冒険者、しかも踏破者が放った金貨五千枚相当以上の値段がするミスリル槍の一撃を、苦も無く弾き返した!
いや曲がったー‼」
だが次の瞬間に、なんと槍は見事に復元した。
俺は驚いたが、こいつは特殊な付与がついていたらしい事を思い出す。
だから、これを欲したあれだけの襲撃者がいたのだ。
「ふむ。
捻じ曲がったところをみると不破壊属性のような物ではないな。
そうか素材レベルでの魔素吸収性復元が付与されているか。
こいつはいい」
おお、踏破者である超冒険者たる先輩の中で、俺の槍への評価が格段に上がったようだ。
俺の剣には、そのような良い物は付いていないから手出し無用だな。
あの怪物に掠っただけでポキンとへし折れるのが落ちだ。
その前に手を出したなら、あの双方から勝負に水を差した咎にて問答無用で仕留められてしまうだろう。
魔物は大口を開けて咆哮した。
「かかってこんかい」ってか。
そしてまた咆哮を受けただけで俺のスキルのバージョンが4.9に上昇する。
くう~、本当に生きて帰れるかどうか心許なくなってきた。
どうせなら、もう一声スキルのバージョンが上がってくれよ。
「小僧、お前のスキルを何か寄越せ」
ああ、先輩には俺のスキルの内容が見抜かれていましたか。
なんでわかるんだよ。
「では、【マグナム・ルーレット】をかけます。
こいつはブーストをかけるスキルで出目によって二倍から六倍かかり、そして時間制限と倍率別にクールタイムがあります」
「かまわん」
そして魔物も、こちらのお手並み拝見みたいな感じで、なんと大人しく前足を揃えて待っている。
こいつもバトルジャンキー系なんじゃないのか⁉
頼むからバトルジャンキーの二乗は勘弁してくれよ。
まるで俺が、戦士同士が死力を尽くして戦う試合のレフェリー、あるいは猛獣同士の戦いのリングのど真ん中にいる間抜けなセコンドか何かのようだ。
そして俺と先輩を対象にスキルを行使した瞬間に、俺のスキルはバージョン5.0になった。
「すいませーん。
マグナム・ルーレット二倍ぽっちでした~。
効力は十分で、その間はスキルを含むあらゆる能力が二倍になります。
クールタイムは効果終了から五分です」
「かまわん」
この先輩、本当に淡々としているなあ。
これがブライアンなら「何故六を出さん。気合が足りんぞ、リクル」とか言って拳骨が飛んでくるところだ。
そして襲い掛かる魔物。
そして先輩はそれを放った。
おそらく、それが先輩の持つ必殺の魂のスキル。
閃光と共に槍がそいつの背中にめり込む。
苦鳴を上げてのたうつ魔物は背中から緑色の血を噴出させていた。
あの頑丈で銘のありそうな超強力ミスリル槍さえも、簡単に弾いて捻じ曲げる図無の耐久力を秘めた怪物の身体に、ああもあっさりとダメージを通すだなんて。
「うわ、凄い」
その隙に俺は新しいバージョンのチェックに入った。
基本機能の上昇は、【バージョン上昇補正×2】というものだった。
そろそろバージョンが上がりにくくなってきたので補正機能がついたようだ。
こいつは二倍でもたいしたものだ。
派生スキルはやはり特殊技能を選択した。
もう俺も意地になっているのかもしれないが、そんな事を言っている場合ではない。
ここでいい物が来てくれないと辛い。
辛いどころか、へたをすると死ぬ。
手に入ったものは、【神々の祝福】。
これを使うと何が起こるのか不明なのだが、運否天賦な能力ではなさそうなので、これもサイコロの出目を失敗した時ほど酷い事態にはならないだろう。
だが本当に祝福的な感じの物を得られるだけの場合もあるかもしれない。
後で使ってみよう。
内容がよくわからないのが、いきなりここ一番というここでは辛いな。
だが、さっきの4.0の時じゃないが、俺の魂が、この絶望的な状況をひっくり返すために呼び起こしたスキルなのかもしれない。
そこに縋るしか俺の勝機はないだろう。
といってもスキルでしか応援はできないのだけれども。
しかもスキルの使いどころを誤ると、少なくとも俺は確実に死ぬ事になりそうだ。
ここまで冷や汗が止まらないのは初めての経験だ。
初心者の時にパーティに入会した翌日から始まった遠征で、いきなり連れていかれた初めて行った下層で、そこの魔物相手に「一分持ちこたえろ」と言われて以来のヤバさなのだが。
ブライアンは、そういう事のために大変に高価な機械である時計を持っている。
あの時よりも今の方が確実にヤバイ現状なのであった。
幸いにして、そいつは今のところは俺に興味の欠片も示さないようだった。
う、こうやって、俺などが強さを測る事さえも無理な強者同士の睨み合いのもたらす、温度や湿度のような、いわば『死度』で表されるかのような黄泉の世界の空気の中に自分を置くだけで、なんとバージョンは勝手に4.7に上昇した。
馬鹿な、ありえない。
今がどれだけの危機なのかと、俺は心胆を寒からしめた。
そして魔物が笑った。
そのオオサンショウウオを思わせるような大きな口を開けて、そいつは確かに笑っていた。
単に不気味な貌をしただけのようにしか見えないが、何故か俺にはわかる。
震えあがっているだけの、この俺が無様だからか、あるいはこいつの目当てであるらしい先輩を殺せるのが嬉しいのか。
ああっ、奴に嗤われただけでバージョンが4・8に上昇した!
もしかしたら今日が俺の命日になるのかもしれない。
そんな俺の絶望にはついぞ構わずに先輩は動いた。
俺の目が捉えられない刹那の刻に、一瞬にして突き入れられる白銀の穂先、だがそいつはあっさりと弾かれて捻じ曲がった。
「なんて固いんだよ。
上級冒険者、しかも踏破者が放った金貨五千枚相当以上の値段がするミスリル槍の一撃を、苦も無く弾き返した!
いや曲がったー‼」
だが次の瞬間に、なんと槍は見事に復元した。
俺は驚いたが、こいつは特殊な付与がついていたらしい事を思い出す。
だから、これを欲したあれだけの襲撃者がいたのだ。
「ふむ。
捻じ曲がったところをみると不破壊属性のような物ではないな。
そうか素材レベルでの魔素吸収性復元が付与されているか。
こいつはいい」
おお、踏破者である超冒険者たる先輩の中で、俺の槍への評価が格段に上がったようだ。
俺の剣には、そのような良い物は付いていないから手出し無用だな。
あの怪物に掠っただけでポキンとへし折れるのが落ちだ。
その前に手を出したなら、あの双方から勝負に水を差した咎にて問答無用で仕留められてしまうだろう。
魔物は大口を開けて咆哮した。
「かかってこんかい」ってか。
そしてまた咆哮を受けただけで俺のスキルのバージョンが4.9に上昇する。
くう~、本当に生きて帰れるかどうか心許なくなってきた。
どうせなら、もう一声スキルのバージョンが上がってくれよ。
「小僧、お前のスキルを何か寄越せ」
ああ、先輩には俺のスキルの内容が見抜かれていましたか。
なんでわかるんだよ。
「では、【マグナム・ルーレット】をかけます。
こいつはブーストをかけるスキルで出目によって二倍から六倍かかり、そして時間制限と倍率別にクールタイムがあります」
「かまわん」
そして魔物も、こちらのお手並み拝見みたいな感じで、なんと大人しく前足を揃えて待っている。
こいつもバトルジャンキー系なんじゃないのか⁉
頼むからバトルジャンキーの二乗は勘弁してくれよ。
まるで俺が、戦士同士が死力を尽くして戦う試合のレフェリー、あるいは猛獣同士の戦いのリングのど真ん中にいる間抜けなセコンドか何かのようだ。
そして俺と先輩を対象にスキルを行使した瞬間に、俺のスキルはバージョン5.0になった。
「すいませーん。
マグナム・ルーレット二倍ぽっちでした~。
効力は十分で、その間はスキルを含むあらゆる能力が二倍になります。
クールタイムは効果終了から五分です」
「かまわん」
この先輩、本当に淡々としているなあ。
これがブライアンなら「何故六を出さん。気合が足りんぞ、リクル」とか言って拳骨が飛んでくるところだ。
そして襲い掛かる魔物。
そして先輩はそれを放った。
おそらく、それが先輩の持つ必殺の魂のスキル。
閃光と共に槍がそいつの背中にめり込む。
苦鳴を上げてのたうつ魔物は背中から緑色の血を噴出させていた。
あの頑丈で銘のありそうな超強力ミスリル槍さえも、簡単に弾いて捻じ曲げる図無の耐久力を秘めた怪物の身体に、ああもあっさりとダメージを通すだなんて。
「うわ、凄い」
その隙に俺は新しいバージョンのチェックに入った。
基本機能の上昇は、【バージョン上昇補正×2】というものだった。
そろそろバージョンが上がりにくくなってきたので補正機能がついたようだ。
こいつは二倍でもたいしたものだ。
派生スキルはやはり特殊技能を選択した。
もう俺も意地になっているのかもしれないが、そんな事を言っている場合ではない。
ここでいい物が来てくれないと辛い。
辛いどころか、へたをすると死ぬ。
手に入ったものは、【神々の祝福】。
これを使うと何が起こるのか不明なのだが、運否天賦な能力ではなさそうなので、これもサイコロの出目を失敗した時ほど酷い事態にはならないだろう。
だが本当に祝福的な感じの物を得られるだけの場合もあるかもしれない。
後で使ってみよう。
内容がよくわからないのが、いきなりここ一番というここでは辛いな。
だが、さっきの4.0の時じゃないが、俺の魂が、この絶望的な状況をひっくり返すために呼び起こしたスキルなのかもしれない。
そこに縋るしか俺の勝機はないだろう。
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