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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-70 聖なる山

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 俺は自分の心の内にある聖なるイメージを思い浮かべる。

 壊れにくい安定した、低いなだらかな形。
 万人が見て美しいと思うような形。

 山頂の形は先輩に対抗して、やや歪というか形を崩すというか、それすらも美しく雅な形に設える。

 内部は乾かしやすいように少し肉抜きしておく。

「ようし、イメージはできた。
 スキル発動!
 まずは【マグナム・ルーレット】発動。

 そして【レバレッジ並行展開×4】を使用。
【冒険者金融】【神々の祝福】【祈りの力×x】【邪気の封印】発動」

【レバレッジ並行展開×4】並びに【冒険者金融】はバージョン8.0で得た能力だ。

 冒険者金融はパーティを組んだ相手の能力を自在に借りてくる力なのだ。

 先輩の、あの分解スキルのような魂のスキルは借りられないのだが、いわゆるスキルといえないような物も借りられる。

 今借りたのは本日の仲間である『工房の親方』の陶芸に関するスキルなのだった!
 究極のインチキだ。

 そして昨日の俺の信者さん? から頂いた、あの祈りの力を込めてみる。

「みんな、オラに力を貸してくれ。
 あの先輩の邪悪さを、心の闇を皆の清き心で打ち砕くのだ」

 俺の身体は昨日のように聖光を放ち、ルーレットは3の目を叩き出した。

 さあ十分クッキング、じゃあなくて粘土細工の始まりだ。

 祝福の力を浴びて粘土が虹色の日暈にちうんに輝いていた。

 まずは山の形が崩れないように軽く台座を整える。
 趣のある、敢えて少し形がやや不均一に作られた料理皿のように作ってみた。

 今の無敵モードの俺になら最高の物できるはずだ。

 俺は信念の下に、聖光を纏いながら今まで培ったパワーで、神の虹色の祝福を受けし、聖なる粘土に挑んだ。

 俺は二十四倍に増幅された力と、親方から勝手に借りた技能、神々に祝福された粘土に対し、昨日の万に達するほどの多くの人々から捧げられた時の聖なる祈りを再現した力を込めて、丹精を込めて捏ね上げた。

 それらの作業すべてに、レバレッジ8.0にルーレットの出目三をかけた二十四倍ブーストが、強烈にかかっているのだ。

 今の俺の手は、まさに神の御手にも等しい代物であった。

 みるみるうちに造形されていく粘土製の山。

 山肌にはなんというか、一本一本が異なる生命を帯びた、生きた細かい文様を再現し、その一つ一つがうねり重なり合って素晴らしい造形を見せていく。

 なだらかな曲線が尖っていく山頂はギザギザな感じに、若干斜めに切り取られた自然の厳かな調和をデザインとして象徴してみた。

 美しい、そして神々しい。この作品は肉厚を越えて完全にフルボリュームだ。

 乾燥を考えて直径八十センチくらいに抑えてみたものの、それでも乾かすのには相当の時間がかかる。

 もしかしたら上手く乾ききらずに割れてしまうかもしれないが、それでもいい。

 全身全霊をもってこれを創造し終えた俺には、何一つ些かの悔いもなかった。

 そして、仕上げを丁寧にやり終わってから時間ギリギリでスキルは霧散した。

 俺は、そのスキルがもたらした、あまりの神々しさに自分がやられてしまった感じだ。

 こいつはいけない。
 通常のクールタイムだけでは己を取り戻せそうもない。

 なんか『魂を持っていかれてしまいそうな』気がする。

 油断すると先輩と真逆の方向へと心が持ち去られ、二度と人間らしい生活には戻れないだろう。

 思わぬ自分のスキルの副作用を発見した。

 組み合わせによっては非常に有用でありながらも、これを変な事に使い過ぎると廃人になりそうな害があるな。

 だが、俺はその悟りの境地というか、神々の住まう神聖でありえないほどしずやかな気持ちに満たされていた。

 俺はもうこの理想郷、いや桃源郷の世界に骨をうずめてもいいのではないだろうか。

 そのような幻想に囚われ、顔は女神を思わせるような神々しささえ浮かべていたような気がするのだ。

 だが無粋にも、俺をくだらなく、そして穢れた現世へと呼び戻そうと言う、誰かの呼び声が聞こえてくる。

 五月蠅いなあ、誰だよ一体!

「おいリクル、おいったら。
 生きているか、このスキル馬鹿。
 俺に殺される前に、こんな事で死ぬんじゃないぞ」

 俺は恍惚として、名を呼ばれても返事をせずにその場に立ち尽くす。

 たとえ、この先輩がキスしてこようとしていても抗えまい。

 まあもし、そのような事をされていたとしたら、後で今の俺の全力をもって殺しに行くしかないのだが。

 どうせ俺に対する悪ふざけに決まっているので。

 なんかこう、いつもとあれこれと立場が逆になったような。
 まあ先輩も言っている事は相変わらず、何も変わらないのだが。

「こいつはたいしたもんじゃのう。
 おそれいったわい。
 でも何かインチキしておったようじゃが、そういう事はやり過ぎると心がもたんぞい?」

 うん、親方。
 そいつは今、物凄く実感していますよ。

 よかった、ルーレットの出目が六じゃあなくって。

 いきなり強烈過ぎる体験をすると、二度と『向こうの世界』から帰ってこれなくなっていたかもしれない。

「いや、こいつは物凄い傑作だな。
 いやはや完成作は是非王宮に飾らせてほしいものだ」

 いや王様、それは勘弁していただきたい。
 何しろインチキしまくった作品なので。

 この世界のすべての芸術家に対する冒涜以外の何物でもないわ。

「お兄ちゃん、すごーい」

「なんか見ていると心が洗われるようだね。
 でも、あたしは王子様の作品の方が好き」

 待て、そこの幼女。
 早まるな、人の道に立ち返るのだ。

 俺は崇高な使命感から強制的に現状に復帰してみせた。
 そして楽しそうに笑う子供達に言っておく。

「二人とも!
 あのお兄ちゃんの作品だけは絶対に参考にしないようにね」
「はーい」

 もしかすると、一見すると明るく振る舞っているように見えても、両親を失ったこの子達の心の傷は深い物があるのかもしれない。

 普通ならば、そうであるのが正常だといえば、それまでなのだが。
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