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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-87 勇者の栄光
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それからも俺達の不毛な勝負は続き、マロウスはついにマイアを追い越す事に成功し、先頭集団の二人はその興奮に包まれた勢いのままに駆けあがった屋上で、ガッチリと熱い握手を交わしていた。
ちなみに塔の屋上は闘技場どころか休憩でもするような場所で、あちこちにベンチが置かれ、救護所や無料食事処に仮眠室まで作られていた。
この塔、マジで塔登りの鍛錬のためにあるんだ。
祈りの塔なんて呼ばずに、ちゃんと試練の塔とか鍛錬の塔って呼べよ。
信仰とか信念とかじゃなくて、確実に邪神と戦うための精神力や体力を養うための塔だよな。
その一方で俺と先輩の戦いは、もはやスタートで、どちらが先に相手の頭を踏むかというだけのための不毛な争いに発展していた。
だって、素じゃあの先頭争いをしている化け物二人に敵わないんだもの。
特にマイアって何者! 神官のくせに、最狂の踏破者や聖女パーティの勇者に影すらも踏ませないなんてありえねえ。
そして俺達の敗者決定戦は熾烈を極めた。
あの二人を倒して勝者になる道から俺が真っ先に脱落して、次に先輩も仕方がなく諦めたらしい。
そして俺はついに先輩の壁走りをマスターしたが、これも怖い。
まだまだ俺は気を抜くと落ちそうになるので先輩が怒鳴っている。
「リクルー、お前はそんな千鳥足で俺の上を走るんじゃない。
危ないだろうが。
他の連中を巻き込むつもりか」
「しょうがないでしょう。
俺が先輩の頭を踏むと自然にこうなっちゃうんですから。
コースをクロスすると二人まとまって一緒に落ちますから気をつけてくださいね。
先輩が下にいなけりゃ大丈夫ですから、年寄りは後ろに下がってくださいな」
「馬鹿野郎、誰が年寄りだ。
お前こそ下がれー。
というか、俺の頭を踏むなあ」
「嫌ですよー。
だって踏まないと、まだまだあんたに勝てないじゃないか。
速度を落として下がったら、俺まだ壁から落ちるし。
先輩こそ俺よりも速いくせに、俺の頭を踏むなんて反則だあ。
絶対に今日中にあんたを千切ってやるー」
「馬鹿野郎、たかがリクル風情が生意気を言っているんじゃない。
ぶち殺すぞ」
先輩は、いつもの狂気さえも引っ込めていて、口汚く俺を罵っていた。
俺と先輩はそんな目くそ鼻くその戦いを罵倒交じりに延々と繰り広げ、俺はなんとか先輩と互角な戦いを演じられるようになってきていた。
そして、ただいまのバージョンは10.9まで上がっていた。
このメンツで延々と本気でやりあっているんだもの、それはスキルのバージョンだって少しは上がろうというものだ。
まるで凄まじい強敵相手に戦っているかのようだ。
いつ塔の壁から堕ちてもおかしくないくらい命懸けの勝負なんだし。
なんとか、なんとか11.0に上がりたい。
そうすればブースト系スキルを使わずとも、絶対に先輩から素で逃げ切る自信がある。
俺はまだまだ伸び盛りのルーキー、向こうはもう伸び代はない完成された冒険者なのだから。
もっとも油断すると、向こうは底力だけで、あっさり状況はひっくり返されるのがオチなのだが。
そして記念すべき塔登り百回目を迎えた時の事だった。
「皆さん、時間が押してきましたので、本日はこれで最後にしてお開きにいたしましょう。
そろそろ夕食の時間ですから」
これまた涼しい笑顔でそのように宣言するマイア。
まるで午後の御茶会の締めの挨拶か何かのようだった。
この女、化け物か。
なんて体力をしていやがる。
もしかしたら冒険者上がりの神官なのだろうか。
この街って、大神殿とダンジョンが共存しているから、そういう奴も少なくないのかもしれない。
「くそう。
なんとか次で勝って先輩と引き分けに持ち込みたい。
今なら四十九勝四十九敗一引き分けまで持っていける」
「馬鹿野郎。
お前はリクルのくせに俺とタメを張ろうなんて百万年早いんだよ」
「大きな御世話っすよー。
絶対にあんたを抜いてやるからなあ」
そして、レバレッジ10.9が担保する渾身の神スタートで先輩の頭を見事に踏んだ時、その奇跡は起こった。
何のことはない。
ただの『バージョンアップ』だ。
いや、こいつはさすがに気持ちがいいな。
まるで、あの先輩を会心の一撃で倒したかのような快感だった。
【レバレッジ素晴らしき11.0】
「なんて素晴らしい響きなんだあー!
しかも、こいつの基本能力のスキルは~」
俺は猛然と壁をダッシュした。
先輩を一瞬にして千切り捨て、そして前方の二人に迫る。
なんというのか、この爽快感。
バージョンアップ・ハイとでもいうのだろうか。
体が軽い。
後ろの方で先輩が何かを叫んでいた。
「こら~。
お前、今絶対に反則しただろうー。
こういう勝負でブーストスキルを使うなあ」
俺も全力で叫び返した。
「そんなもん、特に使ってないもんね。
単にバージョンアップしただけなんだい!」
そう、今度の基本能力のスキルは【全能力×10】、こいつは凄まじいパワーアップだった。
俺は猛然と前方の二人に追いすがり、みるみるうちに追いついていく。
俺の迫る気配を感じ取った二人が驚愕の表情で振り返った。
だがゴールは近い。
俺は根性を入れて足をしゃにむに動かしまくった。
蹴る、蹴って蹴って蹴りまくる。
俺こそはこの塔の壁を蹴るためだけに生まれてきた漢なのだあ~。
そこまでの気概を巨大な塔の内壁にぶつけていた。
壁に与える衝撃は最低限にとどめつつも、全てを推進力に代えていた。
残りの距離僅か一メートル足らずで、俺は鼻差で競い合っていた二人の視界の住人となり、そのままゴールインしてみせた!
そして、そのままの勢いで一番上の階の壁をぐるぐると駆け、更に勢いよく屋上までの階段を登っていった。
そして両手を広げて、体を仰け反らせながら十メートルくらいジャンプし、ハイになって叫んだ。
「バンザーイ、ようやく一位を獲ったー」
後から屋上へ上がってきた先頭集団の二人が感心したように俺を称えてくれた。
「やるじゃないか、リクル」
「さすがは勇者様ですね。
いや実にその成長ぶりが頼もしい」
「ぎりぎりバージョンアップが間に合ったなあ」
そして憮然とした表情で屋上へとやってきた先輩が堂々と言い切った。
「ふん。
今日のところは、これまでにしておいてやろう」
「ふふん。
なんとか先輩と四十九勝四十九敗一引き分けまでは持ち込んだもんね」
「馬鹿野郎、お前なんかまだまだだ。
とてもじゃないが、今のお前なんか食う気になんかなれないね」
あ、なんとルーキーの俺が踏破者クレジネスに、見事な負け惜しみを言わせてみせたぞ。
「へっ。
これで明日からの探索に弾みがついたってもんだぜえ。
先輩もついに焼きが回ったなあ。
そろそろ自分の領地に引退なんじゃないのー」
「なんだと。
ルーキーの分際で生意気言うな、こら」
「へへん、文句があったら捕まえてみな~」
「待ちやがれ、この野郎」
そして俺と先輩の、不毛な互いに罵り合いながらの鬼ごっこは、そのまま高さ百五十メートルある塔の外壁を【駆け下りて】、さらに神殿に着くまで、猛然と続いたのであった。
ちなみに塔の屋上は闘技場どころか休憩でもするような場所で、あちこちにベンチが置かれ、救護所や無料食事処に仮眠室まで作られていた。
この塔、マジで塔登りの鍛錬のためにあるんだ。
祈りの塔なんて呼ばずに、ちゃんと試練の塔とか鍛錬の塔って呼べよ。
信仰とか信念とかじゃなくて、確実に邪神と戦うための精神力や体力を養うための塔だよな。
その一方で俺と先輩の戦いは、もはやスタートで、どちらが先に相手の頭を踏むかというだけのための不毛な争いに発展していた。
だって、素じゃあの先頭争いをしている化け物二人に敵わないんだもの。
特にマイアって何者! 神官のくせに、最狂の踏破者や聖女パーティの勇者に影すらも踏ませないなんてありえねえ。
そして俺達の敗者決定戦は熾烈を極めた。
あの二人を倒して勝者になる道から俺が真っ先に脱落して、次に先輩も仕方がなく諦めたらしい。
そして俺はついに先輩の壁走りをマスターしたが、これも怖い。
まだまだ俺は気を抜くと落ちそうになるので先輩が怒鳴っている。
「リクルー、お前はそんな千鳥足で俺の上を走るんじゃない。
危ないだろうが。
他の連中を巻き込むつもりか」
「しょうがないでしょう。
俺が先輩の頭を踏むと自然にこうなっちゃうんですから。
コースをクロスすると二人まとまって一緒に落ちますから気をつけてくださいね。
先輩が下にいなけりゃ大丈夫ですから、年寄りは後ろに下がってくださいな」
「馬鹿野郎、誰が年寄りだ。
お前こそ下がれー。
というか、俺の頭を踏むなあ」
「嫌ですよー。
だって踏まないと、まだまだあんたに勝てないじゃないか。
速度を落として下がったら、俺まだ壁から落ちるし。
先輩こそ俺よりも速いくせに、俺の頭を踏むなんて反則だあ。
絶対に今日中にあんたを千切ってやるー」
「馬鹿野郎、たかがリクル風情が生意気を言っているんじゃない。
ぶち殺すぞ」
先輩は、いつもの狂気さえも引っ込めていて、口汚く俺を罵っていた。
俺と先輩はそんな目くそ鼻くその戦いを罵倒交じりに延々と繰り広げ、俺はなんとか先輩と互角な戦いを演じられるようになってきていた。
そして、ただいまのバージョンは10.9まで上がっていた。
このメンツで延々と本気でやりあっているんだもの、それはスキルのバージョンだって少しは上がろうというものだ。
まるで凄まじい強敵相手に戦っているかのようだ。
いつ塔の壁から堕ちてもおかしくないくらい命懸けの勝負なんだし。
なんとか、なんとか11.0に上がりたい。
そうすればブースト系スキルを使わずとも、絶対に先輩から素で逃げ切る自信がある。
俺はまだまだ伸び盛りのルーキー、向こうはもう伸び代はない完成された冒険者なのだから。
もっとも油断すると、向こうは底力だけで、あっさり状況はひっくり返されるのがオチなのだが。
そして記念すべき塔登り百回目を迎えた時の事だった。
「皆さん、時間が押してきましたので、本日はこれで最後にしてお開きにいたしましょう。
そろそろ夕食の時間ですから」
これまた涼しい笑顔でそのように宣言するマイア。
まるで午後の御茶会の締めの挨拶か何かのようだった。
この女、化け物か。
なんて体力をしていやがる。
もしかしたら冒険者上がりの神官なのだろうか。
この街って、大神殿とダンジョンが共存しているから、そういう奴も少なくないのかもしれない。
「くそう。
なんとか次で勝って先輩と引き分けに持ち込みたい。
今なら四十九勝四十九敗一引き分けまで持っていける」
「馬鹿野郎。
お前はリクルのくせに俺とタメを張ろうなんて百万年早いんだよ」
「大きな御世話っすよー。
絶対にあんたを抜いてやるからなあ」
そして、レバレッジ10.9が担保する渾身の神スタートで先輩の頭を見事に踏んだ時、その奇跡は起こった。
何のことはない。
ただの『バージョンアップ』だ。
いや、こいつはさすがに気持ちがいいな。
まるで、あの先輩を会心の一撃で倒したかのような快感だった。
【レバレッジ素晴らしき11.0】
「なんて素晴らしい響きなんだあー!
しかも、こいつの基本能力のスキルは~」
俺は猛然と壁をダッシュした。
先輩を一瞬にして千切り捨て、そして前方の二人に迫る。
なんというのか、この爽快感。
バージョンアップ・ハイとでもいうのだろうか。
体が軽い。
後ろの方で先輩が何かを叫んでいた。
「こら~。
お前、今絶対に反則しただろうー。
こういう勝負でブーストスキルを使うなあ」
俺も全力で叫び返した。
「そんなもん、特に使ってないもんね。
単にバージョンアップしただけなんだい!」
そう、今度の基本能力のスキルは【全能力×10】、こいつは凄まじいパワーアップだった。
俺は猛然と前方の二人に追いすがり、みるみるうちに追いついていく。
俺の迫る気配を感じ取った二人が驚愕の表情で振り返った。
だがゴールは近い。
俺は根性を入れて足をしゃにむに動かしまくった。
蹴る、蹴って蹴って蹴りまくる。
俺こそはこの塔の壁を蹴るためだけに生まれてきた漢なのだあ~。
そこまでの気概を巨大な塔の内壁にぶつけていた。
壁に与える衝撃は最低限にとどめつつも、全てを推進力に代えていた。
残りの距離僅か一メートル足らずで、俺は鼻差で競い合っていた二人の視界の住人となり、そのままゴールインしてみせた!
そして、そのままの勢いで一番上の階の壁をぐるぐると駆け、更に勢いよく屋上までの階段を登っていった。
そして両手を広げて、体を仰け反らせながら十メートルくらいジャンプし、ハイになって叫んだ。
「バンザーイ、ようやく一位を獲ったー」
後から屋上へ上がってきた先頭集団の二人が感心したように俺を称えてくれた。
「やるじゃないか、リクル」
「さすがは勇者様ですね。
いや実にその成長ぶりが頼もしい」
「ぎりぎりバージョンアップが間に合ったなあ」
そして憮然とした表情で屋上へとやってきた先輩が堂々と言い切った。
「ふん。
今日のところは、これまでにしておいてやろう」
「ふふん。
なんとか先輩と四十九勝四十九敗一引き分けまでは持ち込んだもんね」
「馬鹿野郎、お前なんかまだまだだ。
とてもじゃないが、今のお前なんか食う気になんかなれないね」
あ、なんとルーキーの俺が踏破者クレジネスに、見事な負け惜しみを言わせてみせたぞ。
「へっ。
これで明日からの探索に弾みがついたってもんだぜえ。
先輩もついに焼きが回ったなあ。
そろそろ自分の領地に引退なんじゃないのー」
「なんだと。
ルーキーの分際で生意気言うな、こら」
「へへん、文句があったら捕まえてみな~」
「待ちやがれ、この野郎」
そして俺と先輩の、不毛な互いに罵り合いながらの鬼ごっこは、そのまま高さ百五十メートルある塔の外壁を【駆け下りて】、さらに神殿に着くまで、猛然と続いたのであった。
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