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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-27 所詮は博打でした

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「さて次へ行くわよ」

 また少し場所を変えて、宝箱を出してみた。
 またしても六×六だ。

 もういい加減にヤバイよな。

 一応、合間にクールタイムを一時間ずつ挟んでいるんだけれども、これでナタリーから数えて四連続で最高の出目だ。

 そろそろ本格的にマズイ気がしてきた。
 このスキルって伊達に一の目が入っているわけじゃないと思うんだよな。

 まだそいつを出した事が一度もないのだけど。
 時間的にも押してきていて、そろそろ終盤の時間なんだし。

「これで一応最後にするからなあ」

「えー、まだ早いよー。
 収納アイテムのいいのが欲しいの」

「それはそうなんだけどな。
 ヤバイ物はヤバイんだよ。
 とにかく行くぞ、ラストもばっちり決めるぜ」

 そして宝箱は三つ現れたのだが……大中小とサイズが揃ってしまった。

「何が入っていると思う?」

「もしかしたら右の一番大きな奴はミミックかもね。
 でも出目はいいんでしょ。

 またオートマタとか入っていないかなあ。
 でも真ん中も駄目そうな気がするの」

「違う気がしますよ。
 右は、なんというか鼓動のようなものが感じられないです。
 むしろ、真ん中の宝箱から、はっきりと魔物の鼓動が聞こえてきますね!」

 その宣告を受けた俺とリナは沈黙した。

「奇遇だな、ナタリー。
 俺はスキルでこれを生み出した者として、感じるよ。
 真ん中は外れだと思うんだ」

「うーん、実はあたしもそう思うんだ。
 なんかこう見ただけで駄目っぽい感じなのよね」

「ほら、もう最高の目でも外れてきているじゃないか。
 こういう時はもう駄目なんだって。

 さあ、いよいよラストチャンス。
 大きい葛籠か小さな葛籠か、どっちを選ぶ」

「う、うーん。
 どうしようかしら。
 サイズから言うと、小さい方が当たりっぽいわ」

「俺もそう思うんだけど、なんか外れだしてきている気がするから自信がないな」

 彼女はしばし苦悩していたが、心を決めたようだった。

「では小さい方で!」

 そして小さい方は、なんとオートマタ用の装備であるパイルバンカーだった。

「うわ、これって当たりっていっていいのかなあ。
 実に微妙な物が出たわ」

「これを装備できるオートマタのいない俺の方に出たら、もっと微妙な結果だったと思うよ」

 そして、注目の大きな葛籠は!

「こ、これは~!」

 なんと無限収納アイテム六個セットだった。
 しかも全部ピンク色だった。

 これが流行のカラーという事なのだろうか。
 さすがに、ありえない話だった。

 俺はこれで収納アイテムは八個目だ。
 しかも全部無限収納ばかりなのだ。

 うちのパーティ全員に行き渡ってもまだ余る。

 そういや、俺の場合は自分のレバレッジもかかっているんだったなあ。
 うっかりと忘れてた。

 でもリナだって欲しかったナタリーが手に入って、収納アイテムまで取れたのだから十分じゃないだろうか。

「じゃあ、約束通りこれで終わりね」

「えー、リクルばっかり無限収納いっぱいでズルイー」

「そんな事を言ったってなあ。
 あ、ほらミミックを片付けるぞ。

 これって宝箱と違ってしばらく消えないから、残しておくと他の人に迷惑をかけるだけだから。

 お前がやらないなら俺がやる。
 お前が戦ってばっかりだから、俺のバージョンがちっとも上がらないじゃないか」

 今、バージョンは11.8だったのだが、並みのミミック六体をやったくらいじゃ上がらなかったのだ。

「わかったわよー。
 こいつは私がやるから、後もう一回やるからねー」

 そして開放した槌饅頭の中から現れたのはミミックではなかった。

 なんと、ドラゴナイトだった。
 そして、そいつはもちろん求道者のドラゴナイトではなかった。

 いきなり強烈な風魔法を撃ってきたが、俺達は二人とも従者によって護られた。

「あっぶねー。
 ありがとう、シリウス達」

「ありがとう、ナタリー。
 あなたは大丈夫?」

「もちろんでございます、お嬢様。

 おのれ、蜥蜴人間風情がお嬢様に向かってなんという無礼を。

 その狼藉の始末は、貴様の醜い体の素材であがなうがいい」

 うーん、男前だなー、ナタリー。

「よし、俺もバージョンアップを目指すとするか」

 だが、うちの狼達とナタリーの猛攻を受けて、たちまち討伐されるドラゴナイト。

「あれ」

 そうだった。
 うちの狼なんか群れれば先輩よりもずっと強いんだ。
 俺の出る幕なんか無し。

「ふう、びっくりしたー」

「ドラゴナイトの素材は山分けだな」
「そうねー」

 そして静かな沈黙の中、リナが無言でこっちをチラチラと見ている。

 もうコイツの性格はわかっている。
 まだ諦め切れないのだ。

 博打は引き際が大切。
 でも心はまだ勝負を求めている。
 リナの博打魂、熱いなー。

「やるの?」
「うん」

「どうしても?」
「絶対やる」

「言い切ったな」

「やりましょうっ、リクル殿!」
「おい、ナタリー」

 機械人形までやる気満々じゃないか。
 もう主人に似たのか。

 だが、うちの狼達は飼い主に似ずに、大いに慎重派らしい。

「駄目だよ、御主人」とでも言いたそうに、数頭がかりで俺の服を咥えて、明らかに分の悪そうな危ない賭けを引き留めようと、必死になって引っ張っている。

「うん、俺だって最初からわかっているんだけどなあ」

 そう、俺は引くつもりなのだが、リナの奴が一向に諦めないのだ。

 反対派の狼達を一頭一頭撫でながら話しかけて懐柔にかかっている。

 こいつ、こういうところは結構マメなんだなあ。

 結局狼達が諦めて折れた。
 降りかかる脅威とは戦って切り抜ける腹を括ったものらしい。

 俺はもうその時点で諦めていた。
 そう、俺のサイコロはそういう気分的な物に左右される能力なのだ。

「うおお、サイコロは一が出たぞ。

 しかもルーレットは六だから、そのマイナスの威力さえブーストされるという最悪の組み合わせだー!

 退避ー、総員退避ー!」

「嘘!」
「だから最初から言っただろうがー」

「うわ、見てあれ!」

 リナが指差した先には、何か物凄い勢いを持って土饅頭が膨れ上がり、恐ろしい大きさとなり天井までも覆い尽くした。

 もはや、完全に目の前を覆い尽くす巨大な壁になってしまっている。

「おい、ヤベエぞ、これは」

「うん、これは何が出るものなのかしら~」

「下がれ、リナ。
 こいつはかなりマズイ」

 そして、ついに勝手に弾けたその超特大土饅頭の中から現れたものは、なんと【終末の蜘蛛ラスター】の大群であった。
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