163 / 169
第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-75 地獄の釜の底の天使
しおりを挟む
「あの巨大蜘蛛にどれくらいの力があるのかなあ。
邪神の格納庫を破壊できるようだと困るんだが。
まあそいつは確かめる方法は、あるにはあるんだけど」
「へえ? どうやって?」
ようやく腕が千切れた人をかろうじて繋いでみせたのだが、今度は足が一本千切れていて、腕が肩ごとざっくりと体から外れそうになっている人がきた。
かろうじてポーションで命を繋いでいるようで、それを見て本来は専門外の人種であるエラヴィスが、話の途中で顔を引き攣らせていた。
時には盗賊などの人間をバッサリと情け容赦なく切り裂く事もある彼女なのだが、治療で血塗れになっている人間はまた別なものだ。
さすがに頭に来た俺はマグナム・ルーレットを起動し、しかし出目は冷静に三を引き当てた。
クールタイムは短く十分間だ。
ちゃんと他の人にもスキルはお裾分けしておく。
今姐御が、両手で重傷者を強引に一息に治療してのけたので、まるで姐御に殺されるかのような凄まじい悲鳴が救護所中に響き渡った。
やめなよ、それ。
他の人が皆ビビっているじゃないの。
でもそれくらいしないと、かなりヤバイような、体の中からはみ出して千切れかけていた腸や、内臓を突き破っていて折れた骨をなんとかできなかったらしい。
そういう人は時間をかけると死んでしまうので姐御も腹を括って、マグナム・ルーレットの恩恵タイムに敢えて荒療治した模様。
はあ、セルフコントロール、セルフコントロール。
俺の担当していた人は、ちゃんと取れた足も届いていたのでよかった事だ。
もし足が届いていなかったら、俺は六の出目を強制的に呼び出して、『足の再生』に挑むところだった。
この人は、この街に来て以来いつも親切にしてくれる人で、俺は大好きな人だったのだ。
絶対に死なせはせんから!
足も必ず付ける。
そこまで治療はやめないからな。
そして会話を再開した。
「そいつは簡単さ。
あの格納庫の一部を、うちの大蜘蛛モンスパーに部分的に壊せるかどうか試してみればいいのさ」
「馬鹿ね、リクル。
そんな事をして、もしそのまま格納庫が全部壊れたら邪神が外に出てきちゃうでしょうに」
「まあそれの可能性があるから、ちょっと提案しにくいんだけど」
「絶対に却下よー!」
「とりあえず、大神殿はあいつらに守らせておくか。
俺も宝箱探索に行きたいしさ。
というか行かないと、またお金が足りないんじゃないの。
また酷い事になったもんだ」
「そうねー。
また聖都の修理代が嵩むわ~」
「お金がどんどん飛んでいくから、なんとか経済だけは回りそうだけどね」
「せめて、そうだといいわね」
「あああ、お前達の会話を聞いているだけで頭が痛くなるのお」
姐御も、俺の担当している患者の次に重症な人達を、またしても三人まとめて治療していた。
そうしないと間に合わないと判断したようで、マグナム・ルーレットがまだ効いているおかげで、それがみるみるうちに回復していく。
さすがに千年物の聖女様は年季が違った。
だが自分の頭の痛いのを治療している余裕はないようだ。
「姐御も回復魔法かける?」
「いやよい。
まだまだ怪我人は大勢おるゆえ、そちらへ使ってくれ」
仲間とリズムよく会話をしながら、俺はなんとか知り合いの彼の命と手足を繋ぐ事に成功した。
もしかしたら彼も、治療されながら俺達の話を聞いていたので、ここで死んでいる場合じゃないと思って、心と治癒能力が奮起したのかもしれない。
俺は治療と同時に派生スキルで支援していたりもした。
補助支援スキル【縁の下の向こう側】はクールタイムがないので、かけては十分間で効力が切れるとまたかけてと、延々とかけっぱなしにしている。
おかげで患者の治癒力や、各種の治療などの効力は常時二十パーセントほど上昇していたはずだ。
これって、こんなデスマーチの状態で役に立つスキルだったんだなあ。
なんと、このバルバディア聖教国を丸ごと二十パーセントも常時ブーストしているのだ。
他の回復魔法持ちの神官さんもいたが、本人もそれなりの怪我をしている上に、次から次へと回復治療デスマーチに巻き込まれていき、魔力が切れて過労でバタバタと倒れている。
そこまで行くと回復薬を飲んでから、しばらく自分も寝ているしか出来なくなるのだが、今神殿の救護所はそれも止む無しの、白衣の戦士達の戦場と化していた。
俺達のような最前線組の戦士も何故かその戦場で引き続き戦っていた。
そこまでしないと、死んでしまいそうな重傷者を捌けないので。
酷い切傷や擦過傷、骨折などの中軽症者は、一般の神官が治療しているが、さすがに治癒魔法の使い手のようにはいかなかった。
一般市民の被害者を優先しているので、酷い人になると通常なら真っ先に診てもらえるような傷を自力で呻きながら手当てしていた。
中でも自力で手が動かせない人などは、隣にいる足は動かないが手の動く人が、またしても自分が呻きながら手当てをしてあげていたりする。
もはや、地獄の惨状であった。
勇者といえども、鎧を白衣に脱ぎ替えて救護所から一歩も出られないような酷い状態だ。
いや脱ぎ替える白衣さえ不足していた。
もう血塗れで殆ど白衣が赤衣と化しており、浄化の魔法に振り分ける魔力さえも存在しない、赤衣の天使が舞い続けるデスパレード。
まさに地獄の釜の底であった。
まあ自分が寝ている羽目になるよりはいいのだけれどね。
邪神の格納庫を破壊できるようだと困るんだが。
まあそいつは確かめる方法は、あるにはあるんだけど」
「へえ? どうやって?」
ようやく腕が千切れた人をかろうじて繋いでみせたのだが、今度は足が一本千切れていて、腕が肩ごとざっくりと体から外れそうになっている人がきた。
かろうじてポーションで命を繋いでいるようで、それを見て本来は専門外の人種であるエラヴィスが、話の途中で顔を引き攣らせていた。
時には盗賊などの人間をバッサリと情け容赦なく切り裂く事もある彼女なのだが、治療で血塗れになっている人間はまた別なものだ。
さすがに頭に来た俺はマグナム・ルーレットを起動し、しかし出目は冷静に三を引き当てた。
クールタイムは短く十分間だ。
ちゃんと他の人にもスキルはお裾分けしておく。
今姐御が、両手で重傷者を強引に一息に治療してのけたので、まるで姐御に殺されるかのような凄まじい悲鳴が救護所中に響き渡った。
やめなよ、それ。
他の人が皆ビビっているじゃないの。
でもそれくらいしないと、かなりヤバイような、体の中からはみ出して千切れかけていた腸や、内臓を突き破っていて折れた骨をなんとかできなかったらしい。
そういう人は時間をかけると死んでしまうので姐御も腹を括って、マグナム・ルーレットの恩恵タイムに敢えて荒療治した模様。
はあ、セルフコントロール、セルフコントロール。
俺の担当していた人は、ちゃんと取れた足も届いていたのでよかった事だ。
もし足が届いていなかったら、俺は六の出目を強制的に呼び出して、『足の再生』に挑むところだった。
この人は、この街に来て以来いつも親切にしてくれる人で、俺は大好きな人だったのだ。
絶対に死なせはせんから!
足も必ず付ける。
そこまで治療はやめないからな。
そして会話を再開した。
「そいつは簡単さ。
あの格納庫の一部を、うちの大蜘蛛モンスパーに部分的に壊せるかどうか試してみればいいのさ」
「馬鹿ね、リクル。
そんな事をして、もしそのまま格納庫が全部壊れたら邪神が外に出てきちゃうでしょうに」
「まあそれの可能性があるから、ちょっと提案しにくいんだけど」
「絶対に却下よー!」
「とりあえず、大神殿はあいつらに守らせておくか。
俺も宝箱探索に行きたいしさ。
というか行かないと、またお金が足りないんじゃないの。
また酷い事になったもんだ」
「そうねー。
また聖都の修理代が嵩むわ~」
「お金がどんどん飛んでいくから、なんとか経済だけは回りそうだけどね」
「せめて、そうだといいわね」
「あああ、お前達の会話を聞いているだけで頭が痛くなるのお」
姐御も、俺の担当している患者の次に重症な人達を、またしても三人まとめて治療していた。
そうしないと間に合わないと判断したようで、マグナム・ルーレットがまだ効いているおかげで、それがみるみるうちに回復していく。
さすがに千年物の聖女様は年季が違った。
だが自分の頭の痛いのを治療している余裕はないようだ。
「姐御も回復魔法かける?」
「いやよい。
まだまだ怪我人は大勢おるゆえ、そちらへ使ってくれ」
仲間とリズムよく会話をしながら、俺はなんとか知り合いの彼の命と手足を繋ぐ事に成功した。
もしかしたら彼も、治療されながら俺達の話を聞いていたので、ここで死んでいる場合じゃないと思って、心と治癒能力が奮起したのかもしれない。
俺は治療と同時に派生スキルで支援していたりもした。
補助支援スキル【縁の下の向こう側】はクールタイムがないので、かけては十分間で効力が切れるとまたかけてと、延々とかけっぱなしにしている。
おかげで患者の治癒力や、各種の治療などの効力は常時二十パーセントほど上昇していたはずだ。
これって、こんなデスマーチの状態で役に立つスキルだったんだなあ。
なんと、このバルバディア聖教国を丸ごと二十パーセントも常時ブーストしているのだ。
他の回復魔法持ちの神官さんもいたが、本人もそれなりの怪我をしている上に、次から次へと回復治療デスマーチに巻き込まれていき、魔力が切れて過労でバタバタと倒れている。
そこまで行くと回復薬を飲んでから、しばらく自分も寝ているしか出来なくなるのだが、今神殿の救護所はそれも止む無しの、白衣の戦士達の戦場と化していた。
俺達のような最前線組の戦士も何故かその戦場で引き続き戦っていた。
そこまでしないと、死んでしまいそうな重傷者を捌けないので。
酷い切傷や擦過傷、骨折などの中軽症者は、一般の神官が治療しているが、さすがに治癒魔法の使い手のようにはいかなかった。
一般市民の被害者を優先しているので、酷い人になると通常なら真っ先に診てもらえるような傷を自力で呻きながら手当てしていた。
中でも自力で手が動かせない人などは、隣にいる足は動かないが手の動く人が、またしても自分が呻きながら手当てをしてあげていたりする。
もはや、地獄の惨状であった。
勇者といえども、鎧を白衣に脱ぎ替えて救護所から一歩も出られないような酷い状態だ。
いや脱ぎ替える白衣さえ不足していた。
もう血塗れで殆ど白衣が赤衣と化しており、浄化の魔法に振り分ける魔力さえも存在しない、赤衣の天使が舞い続けるデスパレード。
まさに地獄の釜の底であった。
まあ自分が寝ている羽目になるよりはいいのだけれどね。
0
あなたにおすすめの小説
勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました
厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
ダンジョン出現から六年。攻略をライブ配信し投げ銭を稼ぐストリーマーは、いまや新時代のヒーローだ。その舞台裏、ひたすらモンスターの戦闘映像を解析する男が一人。百万件を超える戦闘ログを叩き込んだ頭脳は、彼が偶然カメラを握った瞬間に覚醒する。
敵の挙動を完全に読み切る彼の視点は、まさに戦場の未来を映す神の映像。
配信は熱狂の渦に包まれ、世界のトップストリーマーから専属オファーが殺到する。
常人離れした読みを手にした無名の裏方は、再びダンジョンへ舞い戻る。
誰も死なせないために。
そして、封じた過去の記憶と向き合うために。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる