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第一章 幸せの青い鳥?
1-3 夜中の特訓(水芸)
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異世界情緒溢れる風景を、大空から大パノラマでゲップがでそうなほど堪能させていただいて、到着した彼の塒である山の中腹に開いている洞窟の中で、疲労のあまり四つん這いになっている私がいた。
『男の人』に長時間抱きかかえられるという初めての体験が、その主な理由なのかもしれない。
「それくらいでへばってしまうとは、稀人というものは体力が無いものなのだな」
「いやいや、確かに私に体力がないのは認めますが、人間の女の子なら大体こんなもんだと思いますよ。
初めての体験なのだし。個人的な感想ですけど、男性でも厳しいかと思います」
たぶん、こっちの世界の人間でも。
「ふむ、そんなものか」
どうやら、人間の常識は通じない相手だったらしい。
一体どれだけの距離を飛行したものかわからないくらい飛んだ。
かなりの速さであったと思うので、百キロメートルくらいは余裕で飛んできたのかもしれない。
何か風を防ぐような力を使ってくれていたようで、更に付け加えると安定した飛行ぶりで酔いもしなかったが、流れる景色の速度からしてから相当速いと感じたものだ。
それに、もう空はすっかり茜色に染まっている。
それなりの時間を飛んできたのだ。
そして、私のお腹が可愛い音を奏で、彼がそれに素晴らしいバリトンで笑い声を重ねてきた。
「あうう」
「生き物として、腹が減る事を恥じる事など何もない。
腹が減ったら食えばよい。
さて、何の食い物が人の子の口に合うものかな」
そう言って彼は、洞窟の隅に詰まれた食料を漁った。
その後ろ姿は七色に耀き本当に美しいもので、こんな時ではあったが思わず見惚れてしまった。
彼はそれに気が付き、軽く振り向いてニヤリと笑った。
「ふふ、人の子はこの七色の羽根が大好きでな。
我らの事を七色ガルーダと呼び、羽根を欲しがる。
この羽根をいくばくか礼代わりにお前にやろう。
おそらく希少な物なので、高く売れるのではないか。
やたらなところで売りに出すと悪漢に狙われかねないらしいがな」
「へえ。
でもあなたの羽根って大きいよね。
嵩張るから、ちゃんと持ち歩けるかなあ。
私、そんなに体力ないし」
「何を言う。
ははあ、さてはお前、自分の能力に気がついておらぬな。
お前は収納の能力を持っておるぞ。
しかも、強力な無限収納を。
世界を越えてやってくる勇者などが、そのせいで持っておるものと同じだな」
「え、もしかして私って勇者として呼ばれたの⁉」
だが返ってきたものは、甲高い哄笑のみであった。
そして彼は悪戯そうな笑みを瞳に宿し言った。
「いくらなんでも、そんな訳がなかろう。
お前は単にこの世界に迷い込んだだけの者だな。
たまにいる奴だ。
お前が持っておるのは、収納に鑑定など、そして特殊な意思疎通を可能とするお前独特のスキルだな。
ユニークスキルという奴だ。
どう見ても勇者のチートの片鱗も見えぬ。
どちらかといえば、旅商人向きの能力だな」
「あう」
そして、彼が用意してくれた食料は!
生肉、しかも何の肉かよくわからない物。
ここの辺境ぶりからすると、何かの魔物のような物の可能性も低くない。
あとは木の実と果実が数種類、そして球根にその他の根菜、あとサラダなどに使えそうな葉野菜のようなもの。
思ったよりも、栄養のバランスがとれていて幸いである。
「うーん、洗ってない味付け無しの野菜に生肉ですか。
少し厳しいかな。
あの、洗い物をする水とかあると嬉しいのですが。
あと火を起こせませんか。
塩なんかもあると、大変ありがたいのですが」
「稀人という者は、なかなか贅沢な奴よのう。
水は魔法で出すので、教えてやるからお前も覚えろ。
塩は明日用意してやろう」
「え、私は魔法なんて使えないのですが。
というか、この世界に魔法なんてあったんですね」
「安心しろ、お前は物凄い魔力がある。
それで魔法を使えるようになるかどうかは知らないが。
少なくとも水魔法は覚えておいて損はないぞ」
「はあ、自信はないけど頑張ります……」
何しろ、水で洗わないとお野菜だって安心して食べられない。
変な寄生虫とかいそうだし。
昔は日本の畑にも物凄い奴らがいたらしい。
火も起こせないと、肉も焼けない、ただの生食文化になってしまう。
大きな川があるからそこには魚がいそうなのだが、あれこそ焼かないと絶対に無理。
とりあえず、水出しを習う事になった。
「いいか、娘。水を出す魔法はこうだ!」
すると、バシャーンと空中に水の塊が現れて、彼はそれを嘴状の口を上に向けると、それをガバっと開けて一息に飲み干した。
鳥っぽい頭にしては豪快な飲み方だなあ。
少なくとも、私の知っている鳥さんとは明らかに違う飲食方法のようだ。
食べる時のお作法が気になる。
「さあ、お前もやってみろ」
「ええっ、無理ですよお。
ちゃんとやり方を教えてください」
「手本を見せてやったではないか。
こんな物、我らは生まれつき覚えているものなので、詳しくやり方を教えろと言われても少々困るな」
ああ、こういうお方なのは半ばわかっていたのですが。
とりあえず、何度も実演していただきながら、お腹の方はとりあえず安全そうな果物や木の実で満たし、なんとか真夜中には私も水魔法(水出しのみ)を習得したのでありました。
『男の人』に長時間抱きかかえられるという初めての体験が、その主な理由なのかもしれない。
「それくらいでへばってしまうとは、稀人というものは体力が無いものなのだな」
「いやいや、確かに私に体力がないのは認めますが、人間の女の子なら大体こんなもんだと思いますよ。
初めての体験なのだし。個人的な感想ですけど、男性でも厳しいかと思います」
たぶん、こっちの世界の人間でも。
「ふむ、そんなものか」
どうやら、人間の常識は通じない相手だったらしい。
一体どれだけの距離を飛行したものかわからないくらい飛んだ。
かなりの速さであったと思うので、百キロメートルくらいは余裕で飛んできたのかもしれない。
何か風を防ぐような力を使ってくれていたようで、更に付け加えると安定した飛行ぶりで酔いもしなかったが、流れる景色の速度からしてから相当速いと感じたものだ。
それに、もう空はすっかり茜色に染まっている。
それなりの時間を飛んできたのだ。
そして、私のお腹が可愛い音を奏で、彼がそれに素晴らしいバリトンで笑い声を重ねてきた。
「あうう」
「生き物として、腹が減る事を恥じる事など何もない。
腹が減ったら食えばよい。
さて、何の食い物が人の子の口に合うものかな」
そう言って彼は、洞窟の隅に詰まれた食料を漁った。
その後ろ姿は七色に耀き本当に美しいもので、こんな時ではあったが思わず見惚れてしまった。
彼はそれに気が付き、軽く振り向いてニヤリと笑った。
「ふふ、人の子はこの七色の羽根が大好きでな。
我らの事を七色ガルーダと呼び、羽根を欲しがる。
この羽根をいくばくか礼代わりにお前にやろう。
おそらく希少な物なので、高く売れるのではないか。
やたらなところで売りに出すと悪漢に狙われかねないらしいがな」
「へえ。
でもあなたの羽根って大きいよね。
嵩張るから、ちゃんと持ち歩けるかなあ。
私、そんなに体力ないし」
「何を言う。
ははあ、さてはお前、自分の能力に気がついておらぬな。
お前は収納の能力を持っておるぞ。
しかも、強力な無限収納を。
世界を越えてやってくる勇者などが、そのせいで持っておるものと同じだな」
「え、もしかして私って勇者として呼ばれたの⁉」
だが返ってきたものは、甲高い哄笑のみであった。
そして彼は悪戯そうな笑みを瞳に宿し言った。
「いくらなんでも、そんな訳がなかろう。
お前は単にこの世界に迷い込んだだけの者だな。
たまにいる奴だ。
お前が持っておるのは、収納に鑑定など、そして特殊な意思疎通を可能とするお前独特のスキルだな。
ユニークスキルという奴だ。
どう見ても勇者のチートの片鱗も見えぬ。
どちらかといえば、旅商人向きの能力だな」
「あう」
そして、彼が用意してくれた食料は!
生肉、しかも何の肉かよくわからない物。
ここの辺境ぶりからすると、何かの魔物のような物の可能性も低くない。
あとは木の実と果実が数種類、そして球根にその他の根菜、あとサラダなどに使えそうな葉野菜のようなもの。
思ったよりも、栄養のバランスがとれていて幸いである。
「うーん、洗ってない味付け無しの野菜に生肉ですか。
少し厳しいかな。
あの、洗い物をする水とかあると嬉しいのですが。
あと火を起こせませんか。
塩なんかもあると、大変ありがたいのですが」
「稀人という者は、なかなか贅沢な奴よのう。
水は魔法で出すので、教えてやるからお前も覚えろ。
塩は明日用意してやろう」
「え、私は魔法なんて使えないのですが。
というか、この世界に魔法なんてあったんですね」
「安心しろ、お前は物凄い魔力がある。
それで魔法を使えるようになるかどうかは知らないが。
少なくとも水魔法は覚えておいて損はないぞ」
「はあ、自信はないけど頑張ります……」
何しろ、水で洗わないとお野菜だって安心して食べられない。
変な寄生虫とかいそうだし。
昔は日本の畑にも物凄い奴らがいたらしい。
火も起こせないと、肉も焼けない、ただの生食文化になってしまう。
大きな川があるからそこには魚がいそうなのだが、あれこそ焼かないと絶対に無理。
とりあえず、水出しを習う事になった。
「いいか、娘。水を出す魔法はこうだ!」
すると、バシャーンと空中に水の塊が現れて、彼はそれを嘴状の口を上に向けると、それをガバっと開けて一息に飲み干した。
鳥っぽい頭にしては豪快な飲み方だなあ。
少なくとも、私の知っている鳥さんとは明らかに違う飲食方法のようだ。
食べる時のお作法が気になる。
「さあ、お前もやってみろ」
「ええっ、無理ですよお。
ちゃんとやり方を教えてください」
「手本を見せてやったではないか。
こんな物、我らは生まれつき覚えているものなので、詳しくやり方を教えろと言われても少々困るな」
ああ、こういうお方なのは半ばわかっていたのですが。
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