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第一章 幸せの青い鳥?
1-7 お見合い大作戦
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それから、例によってガルさんに抱かれて件の彼女のところへ向かった。
たぶん、これってガルーダが自分のまだ飛べない子供を運ぶやり方だなと思ったが、見栄を張ったって私が飛べるようにはならないので、子供抱っこスタイルで飛んでもらうしかないのだ。
「ところで、ガルさん」
「なんだ」
「お相手の方は気難しい方なのです?」
「うむ、まあそういう訳でもないが、気位が高くて雄のガルーダには少々つっけんどんなところはあるな」
「人間には?」
「彼女、人間に会った事などないのではないか?
ガルーダも雄の方が圧倒的に行動半径は広いのでな。
そもそも、この辺境で人に遭うガルーダなど滅多におらんよ」
「そうでしたか、それじゃあまったく参考になりませんねー」
これから会わねばならない相手に対して情報がないのは不安だ。
任務の内容が内容だけに。
とりあえず眼下の風景に目をやっておいた。
ガルさんの飛行は安定していて、搭乗者に対して非常に気配りのある飛び方なので、地球の飛行機よりも却って安心できるくらいなのだ。
慣れてくればそんなに疲れたりはしない。
あまり人に遭わない種族のようなので、こういう体験が出来る人も限られているのだろう。
滅多に出来ない体験で、なかなか拝む事も出来ないのだろうから、今のうちに十分に堪能しておくとしましょうか。
そもそも、私のように魔獣とお話出来る人間自体が少ないみたいだし。
今まで会った人とはどうしていたのだろうか。
身振り手振り? 魔獣自体は知能が高く、このように言葉さえ通じれば互いの利益のために協力し合えたりはするのだろうけど。
でも言葉は通じても話が通じない事も多々ありそう。
優雅な大森林と大河の流れを遡り、人が自力では拝めない光景を大型3Dシアターのように楽しんでいたが、しばらくしてガルさんが高度を落とし始めた。
「もう着くのです?」
「ああ。
だが彼女を捜さねばならん」
「一所におられない方なので?」
「それは我とて同じ事よ。
狩りに行っていたり、縄張りの見回りに行っていたりと、日中はまず巣にはおらぬ」
「なるほど、じゃあ探してみて、どこにもいなかったら夜に巣の方へお邪魔すればよいという訳ですね」
「ああ、それはそうなのだが、夜になってから急に話を切り出しても怒り出しそうだしな」
「それはまた難儀な彼女ですね。
他の女じゃ駄目なのです?」
「それくらいなら、お前さんにこんな面倒な事を頼んだりはせんよ、サヤ」
「さいですか」
私は奥手というか、のんびりしているかというか、その辺の男女の心の機微が今一つわからない。
まあ、どっちかというと異性に対しては理想が高めな方かもしれない。
一度も男と付き合った事もないくせに、まことに図々しい事この上ないですが、やはりそこは年頃の少女という事で。
しばらく二人で心当たりを捜していたのだが、どうにもお相手の雌ガルーダさんがいらっしゃらない。
「いつもなら、これくらい探せば見つかるのだがな」
「まあ、世の中なんてそういうものですよ」
「お前、言う事がいちいち婆臭いな」
「もう酷いですよ。
そこは、歳の割には落ち着いているとか言えないのでしょうかね。
もしかして、あなたのそういうデリカシーの無いところが彼女を怒らせているのではないですか?」
「う、厳しいな、お前」
「ガルさんが女心を理解出来ないガルーダだからですよ。
なんかだんだんと、もしかするとお相手の方の反応の方が正しいのかもという気がしてきました」
「い、今更それはなかろう」
「ではこれからはナイスガルーダを目指して精進してください。
ところで、これからどうします?」
「うむ、しばらく休憩するか。
今日はたまたま遠出していて、そのうちにいつものコースへ戻ってくるかもしれん。
大体、このあたりは夕方に通ると思うので、最悪はここで待機だな」
「そうですか。
それでは御飯にいたしませんか?
もうそろそろお昼頃だし」
「そうだな、そうするか……」
それから、捜索の途中で発見した新しい香草の組み合わせに腐心した。
ガルさんも食材の調達に行ったようだ。
私は熱心にあれこれやっていたので、背後に現れた気配にまったく気がついていなかった。
「それは一体何をやってらっしゃるのです?」
「え、それは香草の調合に決まっているじゃないですか。
いろいろ試したので、なんとなく香りを嗅ぐだけで上手く組合せが出来るようになりましたよ。
女性には、こういう繊細な香りが合っている気がするのです。
ガルさんとは違うのですからね」
「ガルさんというのは?」
私は呆れたように言った。
チラっと頭を巡らせた視界の隅に、あのガルさんの見間違えようもない色合いの羽根を認めたので。
「何を言っているんですか、あなたの事に決まっているでしょう。
ちゃんと食材は獲れたのです?
変な物を狩ってきたんじゃないでしょうね。
爬虫類系はお断りですよ」
だが返事はなく、なんとなく戸惑いの雰囲気が醸し出されているようだったので、私は不審に思って振り向いた。
「大体、さっきから何を女みたいな言葉遣いを……」
そして気がついたのだ。
それがどうやらガルさんではない事に。
ガルさんのように強力な雄と比べると、確かに女性(雌)だというのがわかる。
なんというか体の線が優美な感じで、なんというか柔らかいムード。
そして表情も雄のように猛々しくない。
その代わり、美しいと感じられる顔立ちをしている。
普通の鳥などとは違い、ガルーダさんは雄雌の容姿が大きく異なるようだ。
大きさもガルさんよりは一回り半ほど小さい気がする。
私は間抜けに頭をかきながら彼女に挨拶をした。
「えーと、こんにちは。
私、サヤと言います」
たぶん、これってガルーダが自分のまだ飛べない子供を運ぶやり方だなと思ったが、見栄を張ったって私が飛べるようにはならないので、子供抱っこスタイルで飛んでもらうしかないのだ。
「ところで、ガルさん」
「なんだ」
「お相手の方は気難しい方なのです?」
「うむ、まあそういう訳でもないが、気位が高くて雄のガルーダには少々つっけんどんなところはあるな」
「人間には?」
「彼女、人間に会った事などないのではないか?
ガルーダも雄の方が圧倒的に行動半径は広いのでな。
そもそも、この辺境で人に遭うガルーダなど滅多におらんよ」
「そうでしたか、それじゃあまったく参考になりませんねー」
これから会わねばならない相手に対して情報がないのは不安だ。
任務の内容が内容だけに。
とりあえず眼下の風景に目をやっておいた。
ガルさんの飛行は安定していて、搭乗者に対して非常に気配りのある飛び方なので、地球の飛行機よりも却って安心できるくらいなのだ。
慣れてくればそんなに疲れたりはしない。
あまり人に遭わない種族のようなので、こういう体験が出来る人も限られているのだろう。
滅多に出来ない体験で、なかなか拝む事も出来ないのだろうから、今のうちに十分に堪能しておくとしましょうか。
そもそも、私のように魔獣とお話出来る人間自体が少ないみたいだし。
今まで会った人とはどうしていたのだろうか。
身振り手振り? 魔獣自体は知能が高く、このように言葉さえ通じれば互いの利益のために協力し合えたりはするのだろうけど。
でも言葉は通じても話が通じない事も多々ありそう。
優雅な大森林と大河の流れを遡り、人が自力では拝めない光景を大型3Dシアターのように楽しんでいたが、しばらくしてガルさんが高度を落とし始めた。
「もう着くのです?」
「ああ。
だが彼女を捜さねばならん」
「一所におられない方なので?」
「それは我とて同じ事よ。
狩りに行っていたり、縄張りの見回りに行っていたりと、日中はまず巣にはおらぬ」
「なるほど、じゃあ探してみて、どこにもいなかったら夜に巣の方へお邪魔すればよいという訳ですね」
「ああ、それはそうなのだが、夜になってから急に話を切り出しても怒り出しそうだしな」
「それはまた難儀な彼女ですね。
他の女じゃ駄目なのです?」
「それくらいなら、お前さんにこんな面倒な事を頼んだりはせんよ、サヤ」
「さいですか」
私は奥手というか、のんびりしているかというか、その辺の男女の心の機微が今一つわからない。
まあ、どっちかというと異性に対しては理想が高めな方かもしれない。
一度も男と付き合った事もないくせに、まことに図々しい事この上ないですが、やはりそこは年頃の少女という事で。
しばらく二人で心当たりを捜していたのだが、どうにもお相手の雌ガルーダさんがいらっしゃらない。
「いつもなら、これくらい探せば見つかるのだがな」
「まあ、世の中なんてそういうものですよ」
「お前、言う事がいちいち婆臭いな」
「もう酷いですよ。
そこは、歳の割には落ち着いているとか言えないのでしょうかね。
もしかして、あなたのそういうデリカシーの無いところが彼女を怒らせているのではないですか?」
「う、厳しいな、お前」
「ガルさんが女心を理解出来ないガルーダだからですよ。
なんかだんだんと、もしかするとお相手の方の反応の方が正しいのかもという気がしてきました」
「い、今更それはなかろう」
「ではこれからはナイスガルーダを目指して精進してください。
ところで、これからどうします?」
「うむ、しばらく休憩するか。
今日はたまたま遠出していて、そのうちにいつものコースへ戻ってくるかもしれん。
大体、このあたりは夕方に通ると思うので、最悪はここで待機だな」
「そうですか。
それでは御飯にいたしませんか?
もうそろそろお昼頃だし」
「そうだな、そうするか……」
それから、捜索の途中で発見した新しい香草の組み合わせに腐心した。
ガルさんも食材の調達に行ったようだ。
私は熱心にあれこれやっていたので、背後に現れた気配にまったく気がついていなかった。
「それは一体何をやってらっしゃるのです?」
「え、それは香草の調合に決まっているじゃないですか。
いろいろ試したので、なんとなく香りを嗅ぐだけで上手く組合せが出来るようになりましたよ。
女性には、こういう繊細な香りが合っている気がするのです。
ガルさんとは違うのですからね」
「ガルさんというのは?」
私は呆れたように言った。
チラっと頭を巡らせた視界の隅に、あのガルさんの見間違えようもない色合いの羽根を認めたので。
「何を言っているんですか、あなたの事に決まっているでしょう。
ちゃんと食材は獲れたのです?
変な物を狩ってきたんじゃないでしょうね。
爬虫類系はお断りですよ」
だが返事はなく、なんとなく戸惑いの雰囲気が醸し出されているようだったので、私は不審に思って振り向いた。
「大体、さっきから何を女みたいな言葉遣いを……」
そして気がついたのだ。
それがどうやらガルさんではない事に。
ガルさんのように強力な雄と比べると、確かに女性(雌)だというのがわかる。
なんというか体の線が優美な感じで、なんというか柔らかいムード。
そして表情も雄のように猛々しくない。
その代わり、美しいと感じられる顔立ちをしている。
普通の鳥などとは違い、ガルーダさんは雄雌の容姿が大きく異なるようだ。
大きさもガルさんよりは一回り半ほど小さい気がする。
私は間抜けに頭をかきながら彼女に挨拶をした。
「えーと、こんにちは。
私、サヤと言います」
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