異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
34 / 104
第一章 幸せの青い鳥?

1-34 再び無職に

しおりを挟む
 それから、無事に通常の傷などを癒すヒールポーションを作成できた。

 よくわからなかったのだが、こう指先から瓶の中の水に、何かが流れるように充電していくようなイメージだろうか。

 聖水の本質は、魔法を蓄える一種のバッテリーだ。

 命の水、化学的にはシンプルな記号で書き表されるH2Oという物質は、物理的にいろんな形態を持っており、物理的にあらゆるエネルギーを蓄える機能が元から備わっているのだ。

 だからこそ生命の基幹物質でいられる。

「うーん、これってもしかして……」

「ベロニカさん。
 ドクターは、一体何を唸っているの」

「お前はドクターの話を聞いていなかったのか?
 あれこそ、ドクターが生涯をかけて研究していた究極の聖水なのかもしれんのだぞ」

「へええ」

 マリエールさんは、私のそのあまりにも軽過ぎる返事に溜息で返してきて、さらにこう付け加えた。

「ただし、そんな物は表に出せないから、お蔵入りにしておかないといけないって事ね。
 それに、そんな物をホイホイと作れちゃうのが国にバレたら、あんたは幽閉ものよ」

「えー、そうなんですかー?」

「今、この国に纏わる国際情勢がキナ臭いのは知っているでしょう。
 あんたが敵にさらわれたりしたらエライ事でしょうに。

 まあここは緘口令を敷いて、みんなで口を噤むしかないわね。
 という訳で申し訳ないんだけど、一旦あなたを王国騎士団の回復魔法士から解雇します」

「えー、そんなあ」

「サヤ、幽閉されたくなかったら、その回復魔法は人前で絶対に使わないように。
 まかり間違って第二王子フランクにでもバレたりした日には一体どうなる事やら」

「うえええ」

 そういう訳で、就職したその日に私は職を失って再び無職になりました。
 なんのこっちゃ。

 そういう訳なので、今私は無事に騎士団の馬達と遊んでいるのです。

 ミス・ドリトルとしてはこれで本望のような、あるいは不用品扱いをされて少し寂しいような。

「ねえ、みんな。
 もう酷いんだよー。
 またお仕事が無くなっちゃったー」

『まあまあ、姐さん。
 世の中には理不尽な事なんてたくさんありやすから』

『お姉ちゃん、元気出してー。
 あ、僕人参もう一個欲しいなー。
 すりすり』

 ちょっと足の具合が悪い子とか、お腹の調子が悪い子とか、なんやかやで体の具合の悪い子達は私が全部治しておいた。

 人間には使えないけど、馬なら問題なし。
 馬には緘口令を敷く必要もないしね。

 一応、ベロニカさんは付き添いで一緒にいる。
 さすがに私を野放しには出来ないと考えたようだ。

 彼女の分の仕事は、団旗の件がなんとかなったので、それなりに手の空いたサリタスさんがやってくれているようだ。

 問題児である騎士団長のお守りは、リュールさんがついている。

 どの道、騎士団交流会の日も近づいているので、副騎士団長である彼も本部に詰めている必要があるらしい。

 とりあえず、私は騎士団の馬専任のエセ聖女様に就任した。
 他にする事なんて何もないんだもの。

 ああ、工作員用にカラスでもティムしにいくといいんだけど、この国には日本みたいにカラスがウジャウジャといないんだよね。

 ああ、こんな時には癒しのワンコが欲しい。
 もちろんニャンコも。

 日本に残してきた愛しのあの子達は元気でやっているだろうか。

 そして、話を聞いた副団長様が様子を見に来てくれた。

「なんだ、さっそく仕事をクビになってしまったのか。
 マリエールが、がっかりしていたぞ」

「しょうがないじゃないですか。
 普通っぽい回復魔法なんて覚えてませんし」

「今から覚えられんのか」

「それが無理らしいです。
 かなり上級に相当する、人外の凄い回復魔法を覚えてしまったので、今更普通の魔法なんて上手く使えないらしくて。
もpのが
 魔力の流し方というか、体の中に作った魔力回廊のようなものというか、そういう物が根本的に違うようです」

 あれかな。デジカメとかってパワーが要るアルカリ乾電池じゃないと動かないみたいな。

 この場合はそれとは逆だし。
 パワーがあり過ぎて魔法の中にある術式みたいな物が破綻するとか。

「また、お前って奴は難儀な奴だな」

「そうなんですよねー」

「まあいい。
 うちにいれば、そう暮らしには困らないだろう。

 騎士団預かりなのだから、そうそうお前には誰も手は出せない。
 まだ金も充分あるはずだから生活に困る事もあるまい」

「まあ、それはそうなのですがね。
 無職のニートであるというのは、まことに困ったものです」

 という訳で日々騎士団本部に通いつつ、人参と回復魔法の威信により馬達から礼賛される事だけを心の糧としていた。

 もちろん、公爵家の馬達も同様なのであった。

 青い鳥の情報を持っていそうな方々も一向に戻っては来ないし。
 馬車で通う道すがら、御者のアルバートさんに訊いてみた。

「そういや、公爵家には他の動物もいるとか聞いたのですが、見かけませんね」

「ああ、動物というか御当主達が使役している魔物達だな。
 従魔という奴だ」

「へえ、可愛いのです?」

「どうだろうね。
 どっちかというと、雄々しいとか凛々しいとかなのではないかね。
 そういや、待機で家に居残っている奴もいたはずなのだが」

「その子はどこに?」

「よくわからんのだが、専用の空間があって、何かの事情でお留守番をしているような奴はそこで暮らしているらしい。

 わしらにもよくわからんなあ。
 うちの部署は馬の世話だけだし」

「そうですかあ、それはとっても残念ですね~」

「そんな事を言うのは、サヤ様くらいのものだね。
 何しろ、あれらは基本的に戦闘用の魔物なんだからね」

「ちなみに、その子達ってモフモフですか?」

「さあねえ」

 一応は探してみようかな。
 どこにいるものやら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

その聖女は身分を捨てた

喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...