37 / 104
第一章 幸せの青い鳥?
1-37 モフモフ・スイーツタイム
しおりを挟む
「さてと、後は皮が焼き上がるのを待つだけですか。
カスタードクリームも、なんとか上手くできましたし」
『まだー? いい匂いがする』
「もうすぐですよ。
シュークリームは皮だけですから、中までビッシリ土台が詰まっているケーキじゃないので、そこまで焼くのに時間はかかりません」
『待ち切れないよー』
「というか、さっきからあなた誰です⁉」
だが、見回しても誰もいない。
「胡乱な」
もしかして幻聴だろうか。
いや、きっとモフモフ成分が足りないせいなのに違いない。
そして、やや大型の魔導オーブンの鉄板にびっしりと並べられたシュークリームの皮部分を取り出した。
さすが、そう取り計らっただけあって皮はしっかりしている。
失敗してペシャンと潰れたシュークリームの皮ほどみっともない物もそうない。
クッキーなんかだと、失敗して多少焦げてしまっても食べられない事はない。
そういう失敗品を男の子にあげるのは躊躇われますがね。
中には特にあげると言っていないのに勝手に持っていく奴もいますが。
中学の頃は特にボーイフレンドではなくても、女の子は普通に家庭科で作ったお菓子をクラスの男子にあげたりしていましたね。
日本での思い出を懐かしく思い出しながら、無事にシュークリームの中身を詰め終わって、試食に入ろうとしていた時、そいつと目が合いました。
テーブルの上に乗って膝を曲げたスタイルでしゃがんでいた、茶色の毛皮でクリクリの眼をした可愛い奴。
なんというか、日本でも幼児がよくやる、可愛らしいあの座り方です。
この子はお猿系の魔物だろうか。
全長四十センチほどの、図体も可愛いサイズの奴だった。
『食べていい?』
「いいよ」
さっそく、可愛らしく両手でシュークリームをとって齧り出す、そいつ。
魂の深底からうずうずしますが、ここは焦ってはいけないシーンです。
逸る指先は鎮めながら慎重に慎重に。
「あ、私が一番乗りする予定だったのに」
「ベロニカさん、大人気ない事を言わないでください。
元々、この子みたいな子が甘いものを好きだってあなたが言うからシュークリームを作ったんでしょうに。
はい、どうぞ」
こちらも無言で齧りついたので、自分も試食を始める事にした。
「うん、やっぱり皮が少々固めだな。
まあ失敗しないようにわざとそうしたんだけど。
でもこれなら、今度はもう少し柔らかめで大きくしても大丈夫そう」
『おいしいよ?』
「美味しいです。
また作りましょう」
「今度はホイップクリームも作りたいよね」
『甘い?』
「うん、あれはもっと甘いよ」
『作ろう』
「また今度ね。
あれは材料の試作から頑張らないと、いきなり作るのは無理だし」
『いつ?』
「とりあえず、今日はこれを食べようよ。
そういや、あんた一人だけなの?」
『他の子はダンジョン行った。僕だけお留守番』
「そいつは奇遇ね。
実はあたしも今日は、しがないお留守番なのよ」
『どこか怪我してるの?』
「え、いやそうじゃないけど」
そこまで言って気がついた。
その子は足に痛々しく包帯をしているのだ。
「大事にされているわね」
思わず頬が緩む。
従魔だからって無理して連れていったりはしない人なのだろう。
この子って可愛いしね。
「お姉ちゃん、聖女だから足見せてみ」
『聖女なの?』
「今のところ、馬専門だけどね」
本業は『ミス・ドリトル』で、副業が後天性聖女なのだ。
とりあえず、この子のために副業をする事にした。
「エクストラ・ヒール」
その子の足がピカーっと光る感じで、完治していくのが感じられた。
案外と酷い怪我だったようで、腱にもかなりのダメージがあったようだ。
そういう事も手ごたえがスキルを伝ってきて理解できる。
本当は隠れ家で大人しくしていないといけなかっただろうに、匂いにつられて出てきちゃったんだな。
可愛いなあ、もう。
「んー、よし治ったかな」
『わーい、嬉しいー。
お父さんは、治るまでしばらくかかるから当分お留守番で大人しくしてなさいって言ってたのに』
私も思わず顔が綻ぶのを押さえ切れない。
従魔に『お父さん』なんて呼ばせちゃっているんだ。
しかも、こんな可愛い子に。
ここの御当主様は、どうみても私の同類だった。
そして大喜びで飛びついてきたその子を思う存分モフったのであった。
「はあー、モフった後のシュークリームはまた格別っと。
あれえ?」
いつの間にか、並べてあったシュークリームが殆ど消え失せている。
「ベロニカさんっ!?」
「う、おかしいな。
サヤ、いつの間にかシュークリームが消えています。
一体、何者が」
「ベロニカさん。
口の周りをそんなにクリームだらけにしておいて、白々し過ぎますよ。
いいですけど、そこの残り二個はこの子の物ですからね?」
「あう、残りはじっくり味わって食べようと思っていたのに」
「もうっ。
また作ってあげますから!
今度はもっと美味しい奴を」
「約束ですよ、サヤ。
仕方がない。今日のところは諦めるといたしましょう」
「あんた一人で、軽く十五個以上食べてますよね⁉
はっきり言って私の分が無くなっているのですが」
とりあえず、なんとかおチビの分のシュークリームは、かろうじて確保出来たので、まあ今日のところはよしとしましょう。
私の分は見事に無くなってしまいましたが。
それにしても、まさかベロニカさんがこのような痴態を示すとは。
おそるべし、シュークリームの威力。
まったく期待していなかったのに、ちゃんと可愛い子も釣れたしなあ。
チビを抱っこしてシュークリームを食べさせていると、本日のお留守番の無念が綺麗さっぱり洗い流されて消えていくようです。
モフモフはやはり正義だ!
カスタードクリームも、なんとか上手くできましたし」
『まだー? いい匂いがする』
「もうすぐですよ。
シュークリームは皮だけですから、中までビッシリ土台が詰まっているケーキじゃないので、そこまで焼くのに時間はかかりません」
『待ち切れないよー』
「というか、さっきからあなた誰です⁉」
だが、見回しても誰もいない。
「胡乱な」
もしかして幻聴だろうか。
いや、きっとモフモフ成分が足りないせいなのに違いない。
そして、やや大型の魔導オーブンの鉄板にびっしりと並べられたシュークリームの皮部分を取り出した。
さすが、そう取り計らっただけあって皮はしっかりしている。
失敗してペシャンと潰れたシュークリームの皮ほどみっともない物もそうない。
クッキーなんかだと、失敗して多少焦げてしまっても食べられない事はない。
そういう失敗品を男の子にあげるのは躊躇われますがね。
中には特にあげると言っていないのに勝手に持っていく奴もいますが。
中学の頃は特にボーイフレンドではなくても、女の子は普通に家庭科で作ったお菓子をクラスの男子にあげたりしていましたね。
日本での思い出を懐かしく思い出しながら、無事にシュークリームの中身を詰め終わって、試食に入ろうとしていた時、そいつと目が合いました。
テーブルの上に乗って膝を曲げたスタイルでしゃがんでいた、茶色の毛皮でクリクリの眼をした可愛い奴。
なんというか、日本でも幼児がよくやる、可愛らしいあの座り方です。
この子はお猿系の魔物だろうか。
全長四十センチほどの、図体も可愛いサイズの奴だった。
『食べていい?』
「いいよ」
さっそく、可愛らしく両手でシュークリームをとって齧り出す、そいつ。
魂の深底からうずうずしますが、ここは焦ってはいけないシーンです。
逸る指先は鎮めながら慎重に慎重に。
「あ、私が一番乗りする予定だったのに」
「ベロニカさん、大人気ない事を言わないでください。
元々、この子みたいな子が甘いものを好きだってあなたが言うからシュークリームを作ったんでしょうに。
はい、どうぞ」
こちらも無言で齧りついたので、自分も試食を始める事にした。
「うん、やっぱり皮が少々固めだな。
まあ失敗しないようにわざとそうしたんだけど。
でもこれなら、今度はもう少し柔らかめで大きくしても大丈夫そう」
『おいしいよ?』
「美味しいです。
また作りましょう」
「今度はホイップクリームも作りたいよね」
『甘い?』
「うん、あれはもっと甘いよ」
『作ろう』
「また今度ね。
あれは材料の試作から頑張らないと、いきなり作るのは無理だし」
『いつ?』
「とりあえず、今日はこれを食べようよ。
そういや、あんた一人だけなの?」
『他の子はダンジョン行った。僕だけお留守番』
「そいつは奇遇ね。
実はあたしも今日は、しがないお留守番なのよ」
『どこか怪我してるの?』
「え、いやそうじゃないけど」
そこまで言って気がついた。
その子は足に痛々しく包帯をしているのだ。
「大事にされているわね」
思わず頬が緩む。
従魔だからって無理して連れていったりはしない人なのだろう。
この子って可愛いしね。
「お姉ちゃん、聖女だから足見せてみ」
『聖女なの?』
「今のところ、馬専門だけどね」
本業は『ミス・ドリトル』で、副業が後天性聖女なのだ。
とりあえず、この子のために副業をする事にした。
「エクストラ・ヒール」
その子の足がピカーっと光る感じで、完治していくのが感じられた。
案外と酷い怪我だったようで、腱にもかなりのダメージがあったようだ。
そういう事も手ごたえがスキルを伝ってきて理解できる。
本当は隠れ家で大人しくしていないといけなかっただろうに、匂いにつられて出てきちゃったんだな。
可愛いなあ、もう。
「んー、よし治ったかな」
『わーい、嬉しいー。
お父さんは、治るまでしばらくかかるから当分お留守番で大人しくしてなさいって言ってたのに』
私も思わず顔が綻ぶのを押さえ切れない。
従魔に『お父さん』なんて呼ばせちゃっているんだ。
しかも、こんな可愛い子に。
ここの御当主様は、どうみても私の同類だった。
そして大喜びで飛びついてきたその子を思う存分モフったのであった。
「はあー、モフった後のシュークリームはまた格別っと。
あれえ?」
いつの間にか、並べてあったシュークリームが殆ど消え失せている。
「ベロニカさんっ!?」
「う、おかしいな。
サヤ、いつの間にかシュークリームが消えています。
一体、何者が」
「ベロニカさん。
口の周りをそんなにクリームだらけにしておいて、白々し過ぎますよ。
いいですけど、そこの残り二個はこの子の物ですからね?」
「あう、残りはじっくり味わって食べようと思っていたのに」
「もうっ。
また作ってあげますから!
今度はもっと美味しい奴を」
「約束ですよ、サヤ。
仕方がない。今日のところは諦めるといたしましょう」
「あんた一人で、軽く十五個以上食べてますよね⁉
はっきり言って私の分が無くなっているのですが」
とりあえず、なんとかおチビの分のシュークリームは、かろうじて確保出来たので、まあ今日のところはよしとしましょう。
私の分は見事に無くなってしまいましたが。
それにしても、まさかベロニカさんがこのような痴態を示すとは。
おそるべし、シュークリームの威力。
まったく期待していなかったのに、ちゃんと可愛い子も釣れたしなあ。
チビを抱っこしてシュークリームを食べさせていると、本日のお留守番の無念が綺麗さっぱり洗い流されて消えていくようです。
モフモフはやはり正義だ!
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
その聖女は身分を捨てた
喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
奥様は聖女♡
喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる