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第一章 幸せの青い鳥?
1-38 チュールリアリズム
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昨日の楽しい思い出に浸りつつ、どうせ今日も騎士団の本部には行けませんので、引き続きお菓子作りに邁進しようかと思っているのです。
だってなー。
『ねえ、サヤ。シュークリームは?』
「サヤ! いやサヤ師。
頑張らないと、シュークリームが七色ガルーダの羽根よりも希少な幻のお菓子になってしまいますよ!?」
見学者の督促が本当に煩い。
朝御飯の後に、殆ど一分おきに催促されるのですが。
しかもベロニカさんまで一緒になって。
お前ら、どれだけシュークリーム好きなんだよ。
「いいけど、ホイップクリームの開発が進んでいないから、普通にカスタードクリームの奴だよ?
今回は前回よりも味は向上するように冒険してみるつもりだけど」
「あなたの事を冒険者と呼ばせていただきますよ」
「いや、確かに冒険者資格は持っているけどね⁉」
もう完全にベロニカさんが壊れたな。
リュールさんが帰ってきたら、これを見て何と言う事やら。
ちなみに、おチビの名前はリュールさんと同じ韻をふむチュールだった。
こっちの世界の意味で『可愛い物』なんだと。
まあ語感的には合っていない事もない。
本人も名前も可愛いから許す。
リュールという言葉が、こちらの世界でイケメンという意味だとしても私は許そう。
あの公爵夫人が猫可愛がりだったのだから、あの方がリュールさんの名付け親でも何の不思議もないし。
もちろん、公爵夫人はこのチュールの事はよく知っていて、大変可愛がっている。
あの子の包帯を替えているのは、あの人らしい。
あの子の足が治った事を凄く喜んでくれた。
ちなみにチュールも彼女の事は『お母さん』と呼んで慕っている。
大好きなお父さんの奥さんだもんね。
私の事は名前でサヤと呼んでくれるし、基本的にはお姉ちゃんというポジションであるものらしい。
とりあえず、お母さんはチュールが邸内限定で自由に出歩く許可をくれたし、この子は頭も良くて言い付けはよく守るから外へは絶対に出ない。
私が厩へ行くのが日課なので、この子も馬とはすぐにお友達になった。
「さあ、ベロニカさん。
シュークリームを作る前に一つ約束をしていただきますよ」
「何でしょう」
「本日は必ずリュールさんの分のシュークリームは残しておいてください。
そもそも、ここってあなたの上司の家ですよね?
その上司の家で、上司の分までお菓子を食べてしまうのはどうかと」
「ぜ、善処します。たぶん……」
声も体も震えて目が完全に泳いでるし。
全然善処できそうにないな。
まあリュールさんの分はともかくとして。
少なくとも、おチビの分を確保した上で、私の分はアイテムボックスに確保しておかないとね。
せっせと私がおやつ作りに励んでいると、背後からやってきた影がある。
無論、魔物ではない。
「お帰りなさい、リュールさん」
「ああ、ただいま。
よく顔も見ないで私だとわかるな」
「だって、そんな常に足音を殺したような、そして重厚な感じの気配を放つ存在など、この家に二人とはおりません。
自分の家なのに。
それは私にだってわかるくらいのもの。
強いて言うなら、今はベロニカさんくらいですが、彼女今はあまり役に立たない人になっていますから」
さしもの彼も驚いたものらしい。
私の後半の台詞に。
「彼女がどうかしたのか?」
「知りたければ、ご自分でお訊きください。
私、今忙しいので」
彼は胡乱な目で、そこで私の作業を監視中のベロニカさんを見ていたが彼女はこう答えた。
「ああ、副団長。
私は今恋をしているのです」
「なんだと⁉」
ああ、なんて事を。
あの美貌とスタイルを持ちながら、あまりにも残念過ぎる。
「いや、それ自体はある意味喜ばしいのだが、何故そのようになっている‼」
たぶん、そのお姉さんは本当に恋をしたって、そこまで駄目になる事はないと思うのですがね。
『僕、お相手を知っているよ』
そのようにテーブルの上で可愛くドヤ顔をしているのは、もちろんチュールです。
「お前は⁉」
「あなたの弟ですよ、お兄さん」
「これが私の弟なのだと⁉」
「さあ、少なくとも、あなたのお父上をお父さんと呼び、母上をお母さんと呼ぶ可愛い奴なので。
ちなみに私はお姉ちゃん呼びですね。
今はよく懐いたので、もう名前で呼んでくれるようになりましたけど」
「どういう事だ?」
「要は、その子も私と同じでお留守番っ子だという事です。
足に酷い怪我をしていたんですよ。
お払い箱になった回復魔法が役に立って嬉しい限りです」
「あ、ああ。
義父の従魔の子か……」
「そういえば、そいつはさっき得意気に何かを言っていたな」
「彼はベロニカさんの恋のお相手を知っていると言ったのです」
「ほお、誰だ」
「今、私が作っているものですよ。
シュークリームと言う、私の世界のお菓子です。
それを与えただけで、彼女がこんなに壊れるとは思いませんでした。
どうしましょう、その恋する乙女」
「な!」
さすがに彼も絶句したようです。
落ち着いた感じで早々に帰宅したので、おそらく第二王子派へのザマアは成功したと思われますが、まさか自分の家でこのような惨事になっているとは思いもしなかったのでしょう。
彼女、もはや第二王子にも隣国の騎士団にも一切の関心を持っていないのではないかと思うほど恍惚としていますので。
「ほお、これは面白い事になっているようだな」
なんだか聞き覚えのあるイケメン・ボイスが聞こえてきましたね。
この人なら、今ここへ来ても全然おかしくはないなとは思っていたのですが。
「なんで、ここへいらしているのです?
あれだけの騒ぎになっていたのですよ。
王宮で何か事後の片付け仕事とかあるものなんじゃないのですか? 王太子殿下」
「何、あの素敵な羽根の群れを我が国にもたらしてくれた素晴らしい功労者に対して、俺自ら報告してやろうと思っただけなのだがな。
しかし、何か物凄くいい匂いがするな」
「本日の逸品の試食をご希望なら叶えますが、その前に王宮から毒見係を連れてきてください。
万が一の際に余所者の私に王太子暗殺の嫌疑がかかっては困ります。
さっき、あなたが第二王子に対して何をしてきたのか忘れたのですか?」
「そういう楽しいイベントがあったような気もするな。
いやもう最高の気分だ」
「向こうは、今ならあなたを百万回毒殺してもいいと思っているかもしれませんよ。
なんだったら、そこの少し壊れた女騎士が毒見係に立候補するかもしれませんが」
「はっはっは」
だってなー。
『ねえ、サヤ。シュークリームは?』
「サヤ! いやサヤ師。
頑張らないと、シュークリームが七色ガルーダの羽根よりも希少な幻のお菓子になってしまいますよ!?」
見学者の督促が本当に煩い。
朝御飯の後に、殆ど一分おきに催促されるのですが。
しかもベロニカさんまで一緒になって。
お前ら、どれだけシュークリーム好きなんだよ。
「いいけど、ホイップクリームの開発が進んでいないから、普通にカスタードクリームの奴だよ?
今回は前回よりも味は向上するように冒険してみるつもりだけど」
「あなたの事を冒険者と呼ばせていただきますよ」
「いや、確かに冒険者資格は持っているけどね⁉」
もう完全にベロニカさんが壊れたな。
リュールさんが帰ってきたら、これを見て何と言う事やら。
ちなみに、おチビの名前はリュールさんと同じ韻をふむチュールだった。
こっちの世界の意味で『可愛い物』なんだと。
まあ語感的には合っていない事もない。
本人も名前も可愛いから許す。
リュールという言葉が、こちらの世界でイケメンという意味だとしても私は許そう。
あの公爵夫人が猫可愛がりだったのだから、あの方がリュールさんの名付け親でも何の不思議もないし。
もちろん、公爵夫人はこのチュールの事はよく知っていて、大変可愛がっている。
あの子の包帯を替えているのは、あの人らしい。
あの子の足が治った事を凄く喜んでくれた。
ちなみにチュールも彼女の事は『お母さん』と呼んで慕っている。
大好きなお父さんの奥さんだもんね。
私の事は名前でサヤと呼んでくれるし、基本的にはお姉ちゃんというポジションであるものらしい。
とりあえず、お母さんはチュールが邸内限定で自由に出歩く許可をくれたし、この子は頭も良くて言い付けはよく守るから外へは絶対に出ない。
私が厩へ行くのが日課なので、この子も馬とはすぐにお友達になった。
「さあ、ベロニカさん。
シュークリームを作る前に一つ約束をしていただきますよ」
「何でしょう」
「本日は必ずリュールさんの分のシュークリームは残しておいてください。
そもそも、ここってあなたの上司の家ですよね?
その上司の家で、上司の分までお菓子を食べてしまうのはどうかと」
「ぜ、善処します。たぶん……」
声も体も震えて目が完全に泳いでるし。
全然善処できそうにないな。
まあリュールさんの分はともかくとして。
少なくとも、おチビの分を確保した上で、私の分はアイテムボックスに確保しておかないとね。
せっせと私がおやつ作りに励んでいると、背後からやってきた影がある。
無論、魔物ではない。
「お帰りなさい、リュールさん」
「ああ、ただいま。
よく顔も見ないで私だとわかるな」
「だって、そんな常に足音を殺したような、そして重厚な感じの気配を放つ存在など、この家に二人とはおりません。
自分の家なのに。
それは私にだってわかるくらいのもの。
強いて言うなら、今はベロニカさんくらいですが、彼女今はあまり役に立たない人になっていますから」
さしもの彼も驚いたものらしい。
私の後半の台詞に。
「彼女がどうかしたのか?」
「知りたければ、ご自分でお訊きください。
私、今忙しいので」
彼は胡乱な目で、そこで私の作業を監視中のベロニカさんを見ていたが彼女はこう答えた。
「ああ、副団長。
私は今恋をしているのです」
「なんだと⁉」
ああ、なんて事を。
あの美貌とスタイルを持ちながら、あまりにも残念過ぎる。
「いや、それ自体はある意味喜ばしいのだが、何故そのようになっている‼」
たぶん、そのお姉さんは本当に恋をしたって、そこまで駄目になる事はないと思うのですがね。
『僕、お相手を知っているよ』
そのようにテーブルの上で可愛くドヤ顔をしているのは、もちろんチュールです。
「お前は⁉」
「あなたの弟ですよ、お兄さん」
「これが私の弟なのだと⁉」
「さあ、少なくとも、あなたのお父上をお父さんと呼び、母上をお母さんと呼ぶ可愛い奴なので。
ちなみに私はお姉ちゃん呼びですね。
今はよく懐いたので、もう名前で呼んでくれるようになりましたけど」
「どういう事だ?」
「要は、その子も私と同じでお留守番っ子だという事です。
足に酷い怪我をしていたんですよ。
お払い箱になった回復魔法が役に立って嬉しい限りです」
「あ、ああ。
義父の従魔の子か……」
「そういえば、そいつはさっき得意気に何かを言っていたな」
「彼はベロニカさんの恋のお相手を知っていると言ったのです」
「ほお、誰だ」
「今、私が作っているものですよ。
シュークリームと言う、私の世界のお菓子です。
それを与えただけで、彼女がこんなに壊れるとは思いませんでした。
どうしましょう、その恋する乙女」
「な!」
さすがに彼も絶句したようです。
落ち着いた感じで早々に帰宅したので、おそらく第二王子派へのザマアは成功したと思われますが、まさか自分の家でこのような惨事になっているとは思いもしなかったのでしょう。
彼女、もはや第二王子にも隣国の騎士団にも一切の関心を持っていないのではないかと思うほど恍惚としていますので。
「ほお、これは面白い事になっているようだな」
なんだか聞き覚えのあるイケメン・ボイスが聞こえてきましたね。
この人なら、今ここへ来ても全然おかしくはないなとは思っていたのですが。
「なんで、ここへいらしているのです?
あれだけの騒ぎになっていたのですよ。
王宮で何か事後の片付け仕事とかあるものなんじゃないのですか? 王太子殿下」
「何、あの素敵な羽根の群れを我が国にもたらしてくれた素晴らしい功労者に対して、俺自ら報告してやろうと思っただけなのだがな。
しかし、何か物凄くいい匂いがするな」
「本日の逸品の試食をご希望なら叶えますが、その前に王宮から毒見係を連れてきてください。
万が一の際に余所者の私に王太子暗殺の嫌疑がかかっては困ります。
さっき、あなたが第二王子に対して何をしてきたのか忘れたのですか?」
「そういう楽しいイベントがあったような気もするな。
いやもう最高の気分だ」
「向こうは、今ならあなたを百万回毒殺してもいいと思っているかもしれませんよ。
なんだったら、そこの少し壊れた女騎士が毒見係に立候補するかもしれませんが」
「はっはっは」
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