異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-39 旅するシュークリーム

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 なんだかんだ言って、王太子様は前回よりもサイズがやや大きめなシュークリームを五個も平らげて、その弟もなんと意外な事に四個も平らげた。

 おチビのチュールは頑張って六個も食べてしまったし、私も四個はいただきました。

 そして、あまりにも残念過ぎて、私からもう「さん付け」をしてもらえなくなったベロニカはというと。

「ふう、記録更新ですね。
 三十個は、さすがに食べ過ぎでしたか」

「多めに作っておいて大正解でしたね」

 今回は、ちゃんと公爵夫人の分まで先に確保しておいたのです。
 前回はその前にベロニカさんにほぼ食われましたのでね。

「女の胃袋という物はどうなっているんだろうな」

「王太子殿下。
 私の国には、『デザートは別腹』という格言がありまして、そういう事はあまり言ってもヤボという事になっているのですが、ここまでスイーツばかりを食べる人は、そう滅多にいませんね」

「確かにこいつは美味いな」

「だから作ったのですよ」

「なあ、こいつのレシピを売ってくれと言ったら売るか?」

「無料で差し上げますよ」

 彼は妙な顔で、片方の眉を上げた。

「対価については、きちんとやりとりをしたいものだが。
 そうでないと俺が他者より誹られる」

 もう、この王子様ってば言う事がいちいちイケメンですね。
 思わず惚れてしまいそうです。

「あなた様に無料でこれのレシピを差し上げると、自動的に私のもとへ恩恵が回ってくる事になりますのでね」

「というと?」

「わかりませぬか?」
「わからんな」

 私は軽く溜息を吐くと、説明して差し上げた。

「本来、これは私のような素人の、しかも子供も同然の人間が作る物ではありません。
 一流のプロが作るべきものなのです。

 わかりますか?
 私が作る物とプロが作る物との違いが」

「まあ、言いたい事はなんとなくわかるが」

「そうでしょう?
 そして無料で公開されたレシピは旅をします。
 次元を超えて持ち込まれたレシピはこの世界を旅します。

 そして各地で改良され、また姿を大きく変え帰ってくるのですよ。
 この私のところへ、大いなる福音として。
 端金はしたかねで買えてしまう、全世界のプロによる作品に生まれ変わってね」

「なるほどな。理解した」

「これが有料でのレシピ提供という事になると、レシピの奴め。
 なかなか旅をせずに引き籠りますのでね」

「わかった。
 では無料でお願いしたい。
 その方が世の者達も喜ぶであろう」

「その代わり、もう少しお待ちを。
 実はこのお菓子、もっといろいろなバリエーションがありますので、そっちも用意しないと」

 すると休眠していたベロニカがシュパっと起き上がってきた。

「そんな話を私は聞いていないのですが⁉」

「言ってませんからね」
「そんな、サヤ!」

 ただのシュークリームでそんな事になっているくせに、何を言っているものやら。

「他にも地球の最新のお菓子はあるのですよ?
 今までの稀人とは時代が違う、まだこの世界へやってきていないだろう物がね」

「全部、作りましょう!」

「すぐは無理。
 それに私一人にやれる事なんて限界があるのです。
 でもそこはプロの調理人を頼ればいいので」

「王宮も協力しよう」

「ふう、これで地球のスイーツが食べ放題です。
 私だけで全種類作るなんて無理なんですから。
 作るだけの凄い技量もないし」

「その姦計にいたく感服いたしますわ、サヤ様」

「また壊れ加減が一つ進みましたね、ベロニカさん。
 あなたって王国騎士団の一番重要な幹部なんですから、そのうちにちゃんと再起動してくださいね。
 王国騎士団が崩壊する前に」

「それは困るな。
 地球の菓子はちゃんと食わせてやるから、仕事はちゃんとやってくれ。
 というか、騎士団に仕事をさせてくれ。

 まあ今日くらいは浮かれていたっていいがな。
 お蔭で、騎士団と俺の名誉は守られた。
 感謝する」

 結局、そういう事をわざわざ言いに来てくれるイケメンなんですよね、この人は。

 よし、当分は地球スイーツの伝道師として頑張ろうかな。
 大食漢の試食係が二人も出来た事だし。
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