異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1―44 戦士小夜?

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「さて、またえらい事になったもんだね。
 では、ちょっと君の装備を整えようか」

 そう言って、何故か回復魔法士のチーフ、マリエールに騎士団装備課へと連れていかれた。

「あたしらは、騎士団の演習についていっても重装で行くわけじゃないからね。
 まあ最低限は身を守るスタイルという事で」

 そしてチョイスしてくれたのは、ミスリルの全身鎖帷子だ。
 下はズボン式で、膝にはミスリル製のパットがついてカバーしてくれている。

 靴はそれこそ、軽金属鎧用みたいな短ブーツっぽい奴。
 ただし、これも鎖帷子のような構造になっていて、比較的自由に足先回りは動く。

 スキー靴のように窮屈な事はない。
 履いた事は無いけれど、たぶん軍用のブーツに近い感覚だろう。

 履き慣れないので靴摺れするかもしれないが、そこは自前の回復魔法でカバーする予定だ。

 この下半身の装備は、トイレの時の脱着も容易になっているのが凄いところだ。
 さすが女性向装備だけの事はある。

 地球の中世のフルプレートを着込んだ騎士なんか普通に垂れ流しだもんね。
 浄化の魔法もなかったのに。

 そして上は普通にベストっぽい鎖帷子で、その上から回復魔法士用のコートスタイルの軽装甲ジャケットを装備する。

 これらすべての装備には軽量化のエンチャントがかかっていて、なんとか軽量の革の服くらいの重量に収まっている。

 無論、強化のエンチャントもかかっている。

 あと薄手の鎖帷子手袋に、腕の部分には籠手っぽい感じに装甲が入っているため、ちょっとした剣戟なら、顔の前でクロスすれば受け止められるとの事だ。

 やだ、そんなの格好いい。
 頭には全体がすっぽりと収まるような兜を被る。

 兵士用のようなごつい物ではなく軽量だが、顔の前にも取り外しの利くような当てるパーツがあり、かなりの防御力がありそうだ。

 私はマリエールに手伝ってもらって、なんとか装着してみた。

 着慣れれば、素早く着替えは出来そうな感じ。
 この装備には『聖女専用機・銀麗壱号』などと名付けてみた。

 今晩、私の命を預ける『聖女の鎧愛機』なので。

「よっ、はっ、とっ。
 いやあ、鎧なんてなんとも着慣れないね」

「でも、ちゃんと着ていなさいよ。
 何があるかわからないからね。
 これはある程度の魔法は弾くようになっているから。
 本来はそのためのミスリル素材なのさ」

「へえ、そうなんだ。ありがとう」

「ちゃんと生きて帰ってきなさいよ。
 今晩を境に、もう幽閉の心配もないんでしょ。
 またこっちで働きたいのなら、うちへ働きに来てもいいわよ」

「考えておきますー」

 それから、また聖水の製造にかかった。

「突入する騎士に配る分も作るからな。
 お前は聖水化だけ終えたら、後の作業は応援の回復魔法士が手伝ってくれるから、食事に行っていいぞ。

 彼女達も作戦には参加する。
 後でお前の収納に入れてもらう分を受取りに来い」

 そしてテキパキと、もはや慣れ親しんだ感のある聖水化作業を終え、食堂で弁当を広げた。
 リュールは忙しいので、チュールと一緒に食べる。

「やった、特製卵が入ってる」

『僕のにもー』

「よかったねー」

 たっぷりと時間をかけて弁当を味わい、瓶詰作業の終わった聖水を受取ってきて、早くも昼の三時だった。

 そこから、可愛い用心棒君のためのおやつ作りを始める。
 何があるかわからないので、シュークリームも複数のオーブンを使ってたくさん作っておいた。

 アメリの他に料理人さん一人を助手に借りて、五台のオーブンを独占して二回戦で製作してみたが、ついでに焼き上がりの合間に自前の弁当もたくさん作っておいた。
 飲み物各種も頑張って作っておく。

 突入は何時頃になるんだろう。
 敵さんの事情次第なんだろうな。
 場合によっては作戦中止の場合もあるだろうし。

 情報が敵に流れている危険もある。
 ギリギリまで諜報部隊が活動をして、作戦開始のための情報を集めているのだ。

 もう絶対に予定通りになんか行きっこない。
 これは一種の戦争なのだ。

 この王都で、同じ国の王族が身内同士でやる、多くの国々を巻き込む不利益な大戦争の代わりに行う、命を刈り取るための儀式なのだ。

「いいのかねえ、そんな物に私みたいに場違いな人間なんかが参加しちゃって」

「サヤ様は彼らにとって命綱みたいなものですから」

 それでも、もう決まってしまった事なのだ。

 今回のようなタイプの荒事は、通常なら寝静まった夜中あたりに始まるのだろうが、早ければ日が落ちてすぐに始まる事さえ考えられる。

 時刻は、もうすぐ五時だ。
 あと一時間もすれば、この初夏の時期の王都も暮れなずむものらしい。

 裏舞台で始まる戦いを覆い隠すための、闇の帳が下りるのだ。

 とりあえず、トイレに行っておいてから鎧装束に着替え、チュールをモフモフして心を落ち着けて、その時を待つ事にした。
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