異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-46 作戦会議

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「ふう、みんな大丈夫か」

 リュールの問いに対して、他の面子から応えがあった。

「かろうじて生きてます」

「まだ死んだ奴はいませんがね。
 しかし」

「こりゃあ参りましたね。満身創痍だ。
 自分、殿だったのであのブレスを五回も食らいました。

 多めに預かっていた手持ちの聖水が早くも半分を切っちまいましたよ。
 まだアレがあってよかった。

 リジェネは凄いですが、効果期間は思ったより短くて、もう五本中二本も使ってしまいました」

「こんな事なら冒険者ギルドに応援を頼んでおくんでした」

「こんな高位魔物を王宮内部に何体も連れ込むとは!
 これではまるでクーデター準備だ」

「まさしく、それそのものだろうな。
 そして我々の方が先手を打ったというわけだ。

 生憎な事にあっさりと返り討ちモードだがな。
 闇討ちのため、速度を重視して少人数と軽装備だったのがあだとなった勘定だ」

 六名編成の部隊の意見を、一周回って第二王子暗殺隊のリーダーであるリュール本人が静かに締めた。

 そこは、まさしく戦場であった。
 高めの天井に始まり、上から下まで綺麗に焼け焦げた王宮の左右の壁がその惨状を持って戦を語っていた。

 それらは、まるでダンジョンの通路か何かのような様相を示していた。

「おい、サリタス。
 お前、さっきブレスにまともにやられていなかったか。
 よく生きていたな」

「さっそく、サヤ姫謹製の聖水、とっておきの一本エリクサーをいっちまいましたよ。
 体半分をもろに焼かれて炭化してしまって聖水を取り出すのも難儀しました。

 もうちょいで追撃のブレスを食らって、完全に消し炭になるところでしたわ。
 まあケチケチなんてしていたら、あっという間に部隊が半減してしまいそうですな」

「サリタス副官、それは騎士団の規定によれば全滅というのでは?
 そういう事を口に出すのはよしましょうよ。
 そういうのって本当になりますから」

「予定通り、サヤが来てくれているといいのだが。
 このままだと、あっという間に聖水が尽きて全滅するぞ」

「あまり彼女に迂闊に前に出られても危険ですがね。
 たとえ我々が全滅しても、せめて聖女サヤ様は残しておきたい。
 そうでないと王太子殿下や陛下までが後で奴の毒牙にかかる」

「だが、奴はここで倒しておかんとな」

 あっさりと急襲が決まるかと思いきや、なんと第二王子の部屋に大型魔物三体がいたのだ。

 いずれも強力なブレスを吐くタイプで、それぞれにテイマーがついていた。
 奇襲自体は成功するタイミングなのだが、反撃があまりにもきつ過ぎたのだ。

「あんなもの、どうやって王宮というか、奴の部屋に連れ込んだんでしょうかねえ」

「空間トラップに使うような、違法な転移のスクロールを使ったんだろう。
 マースデン王国の魔法士が好んで使う物のようだし」

「やっぱり、あちらさん絡みですか」

「つまり、そいつらは絶対にやっつけておかんと駄目って事ですなあ」

「そういう事だ。だが、あのブレスが厄介だな」

「襲撃しているはずだったのが、いつの間にかこっちが追われる事になっていますな」

 騎士達も作戦会議をしているが、どうにも魔物の始末に困るようだ。

 この狭い通路にて、でかぶつ相手の白兵戦をやるのもまた厳しいものがあるのだが、強力なブレスをガンガンと惜しみなくぶっ放してくるので始末に負えない。

 少々の魔法を放っても、ブレスの勢いに蹴散らされてしまう。

「出来れば連中の上を取りたいものですな」

「相手がでかい。
 ここは狭い王宮の通路なれば、それも厳しい」

「応援の部隊は?」

「すでに団長に使いを出した。
 今頃は冒険者もかき集めてくれている事だろう。

 だが、この時間ではそれも厳しい。
 果たして、そっちの増援は間に合うか。

 一旦撤収して後方部隊と合流して補給を果たし、態勢を立て直す。
 他の連中にもそう伝えよ。
 これはかなりの持久戦になるぞ」

「王宮の近衛隊は?」

「彼らは賢いから無闇に損耗する愚は犯すまい。
 今は様子見に徹しているはずだ。

 無闇に出られても、あの怪物相手では騎士団と一緒に共倒れになるぞ。
 むしろ、狭い場所で互いに邪魔になりかねん。

 もはや王宮がダンジョン化したようなものだ。
 油断していると、敵が増援の魔物や兵士を送り込んでこぬとも限らん。

 人手が必要な時は頼まなくても近衛隊は出張ってくるだろう。
 あの近衛隊長は傑物だ」

 現在、六名編成のチームが三つに補給・回復隊が十二名の三十名だった。

 奇襲で人間を相手にするように編制した、拙速を貴ぶ暗殺部隊なので、さすがに高位魔物三体を相手にするための能力と装備は持っていない。

「リュール隊長、なんとか敵のテイマーをやれませんかね。
 このままじゃ蹴散らされちまう」

「誰か、戦場でそれを見たものは?」

「無理です。
 魔物の姿さえも、はっきりと種別の判別が出来ないほどですので。

 こんな状況でテイマーが前線には出てきませんよ。
 最初にその存在をチラっと確認したのみです。
 おそらく、連中も第二王子の居室にいるはずです」

「ああ、シュルツ。
 お前は冒険者上がりだったな」

「ええ、高位魔物を使役できるテイマーはダンジョンにおいて頼りになる連中でしたが、自分が相手にする役になるのはゾッとしませんな」

「まったくだ」

 すでに何度もブレスを食らい、多めに持たされていた聖水を既に五本も消費しているリュールも眉間まゆあいを寄せた。
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