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第一章 幸せの青い鳥?
1-53 燃えよ、パルマ・リビングデッズ
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交代で戻ってきた他の騎士達も、話を聞いて同様の絶望を顔に張り付け口では文句を垂れたのだが、やらないという選択肢を取る人間が一人もいないのは、さすがは精鋭という他はない。
そこからまた順次戦闘要員を交代していき、打順が一巡して作戦は行き渡り、みんな心の準備も出来たようだ。
「さあて、では一丁いきますかー。
チュールもお願いねー」
『いやいいんだけどねー。
人間は本当に物好き。
まあ僕が串刺しになるわけじゃないし、別にいいかー』
「そういう事。はい、本番スタート!」
一瞬にして私のリジェネで煌めいた方々が、もはやヤケクソに近い感じで監督のその情け容赦のない号令によって駈け出した。
「セット・ハット・ハット!」
アメフトって、確かこんなような掛け声だったよね。
正式なアメフトのルールとかまったく知らないんだもん。
まあ気分ということで。
私の役割は監督兼チアガール!
もちろん、万が一の際の私のサポートはアメリさんだった。
もう、今日はずっとこんなんばっかりだ。
全メンバー中で、一度も命を張っていない奴が一人もいない!
まずチュールがスキルで敵の触手をすべて止めた。
だが、この状態では騎士達も一歩だって進めない。
人との連携に長けたチュールが、手を上げ鋭く鳴いて合図した。
『ギーっ(行くよ)』
騎士達は覚悟を決めた。
盾スキルが消えて、伸びてくる数十条の鈍色鼠色の高速槍。
たちまち悲鳴を通り越して断末魔のような騎士達の声がいくつも響き渡る。
だが、押す両の掌を触手に貫かれながらも、ようやく届いた敵の体を団長が押しまくる。
そして他の人達も胴体を貫かれ、あるいは頭を串刺しにされている。
敵と白兵戦というか、全員が敵に串刺しにされながら繋がっているため、全体の動きによってその患部を思いっきりぐりぐりされて劈くような苦鳴を上げ続け続ける。
私が連発で放つ圧倒的な回復魔法の群れは、彼らに訪れるはずの安らぎさえも容赦なく遠ざけ、今までで最高の生き地獄の真っ只中へ置き続けた。
前線でサポートに入っている私としては、もう耳を塞いでしまいたいくらい凄惨な状況なのであったが、それをやると現場の士気が絶対に急速低下してヤバイので出来ないのが辛い。
後で絶対に無茶苦茶に文句を言われるのに決まっているしなあ。
リアルなホラー映画でも見ているつもりで頑張るしかない。
うわああ、これはきっつう。
そして時折チュールが加減を見ては、一旦盾スキルで騎士達を引き剥がし、私が他の回復魔法をぶち込んでフォローしていく。
その際も体から強引にすべての敵槍が引き抜かれるので、悲鳴がシュプレヒコールの津波を引き起こす。
完全な刃物の槍ではなく、なんというか鈍器に近い槍を、怪物パワーと触手様の手が生み出す速度任せに捻じ込むような物なので、きっと引き抜かれる時も凄まじい苦痛なのに違いない。
そのあたりの加減も、ダンジョンにて強大な魔物相手に数々の地獄を潜り抜けてきた猛者の中の猛者であるチュールの厳しいジャッジにて決まるので、これまた情け容赦なし。
ある意味で、この子が対魔物戦で一番場数を踏んでいるスペシャリストなのだ。
あと、私はもう散々回復魔法は使ってきたので、その威力も凄まじくなってきている。
だから未だにメンバーは一人も死んでいない。
いや、死ねない。
そして一息つくまでもなく、チュールは情け容赦なく第二ラウンドを開始し、またもあの無数の槍の鈍い刺突を食らって悲鳴の連鎖がアメフトチームをぐるりと、あるいは急反転の逆回しにと、何度も周回していった。
多少はそいつを押し込めたのがわかるが、それもほんの十~二十センチのみだ。
まだまだドアの前から奴をどかすには程遠い。
「うわあ、自分でやらせておきながら、なんていうかもう。
ドン引き~」
他の回復係の人達も顔が真っ青だ。
マリエールも、数十本もの、あの触手の数に負けないほどの垂れ線を顔の眷属として張り付けながら言った。
「あ、あのねえ、サヤ。
あたしゃ、あの怪物よりもアンタのやり方にドン引きだよ。
うわああああ」
「うっさいな。
他にどうしろっていうのよ。
よし、そこだ。
押せ、1ヤード・ゲイン!」
もう無茶苦茶を通り越して、何がなんだかわからない。
あの人達、あれでよく死んでないな。
私の回復魔法って一体どうなっているのか。
血液や脳細胞なども瞬時に再生しているのだろう。
そしてまた次の瞬間に、瞬時にして脳味噌や内臓をかき回され、肉や骨も引き千切られ、発狂しそうなほどの苦痛に見舞われる。
もはや、あれはゾンビ。
しかも、やけくそゾンビだ。
なんかもう意味不明な、自分を鼓舞するためだけの何かを発音しているだけの生ける死人にも等しい。
きっと針地獄で永遠の苦痛を与えられる亡者があんな感じなのかな?
そして、それを永遠に回復させながら見張る鬼の役が私なのかあ。
こっちも、もうヤケクソだな。
「よし、このアメフトチームのチーム名が決まったね。
パルマ・リビングデッズで決まりよ」
まあパルマ・ゾンビーズよりは、この方がまだ語感いいよね。
だが、その甲斐はあって奴はじりじりと下がっていく。
奴にとってもこれは予想外の展開なのだろう。
今までの奴と違い、手強いけど体自体は小さいのでなんとかやれる作戦だ。
奴も少し慌てたらしいのだが、そのせいか体が少し浮いてしまった。
バランスを崩したのだ。
その隙を見逃す団長ではない。
「ぐぬおおお。ふんばらぶみまん!」
団長が何か意味不明な言葉で気合を入れながら、とっておきのパンプアップを行なった。
傷口から溢れかえる真っ赤な液体を噴出させながら、全身をまた新たな十本ほどの魔物槍で貫かれながら根性で押し、奴をたった一人で三十センチほど一気に押し込みながら言い切った。
「皆、押せーーっ。
たとえ死んでもここで押せええ」
「団長、死ねないからこそ、こんな酷い事になっているんですがね。
野郎ども、押せえええ。
どうせ俺達はこいつを片付けるまでは死ねないんだから気力で押せええ」
ハッサンさんも叫んだ。
そして騎士達も叫んだ。
「どおりゃああああ」
「ぐああああ。
ぐはっ、痛てえー、チクショウ」
「この糞魔物がああ」
「ついでに、あの糞聖女がああ」
なんですって。
そこのあなた、顔は覚えましたからね!
ドサクサに紛れてなんて事を。
まあそんな風に言われたって仕方がないほどの酷い鬼畜のような仕打ちを与えている訳なのですが。
あれを自分でやれなどと言われたら、間違いなく相手をぶん殴りますわ。
そこからまた順次戦闘要員を交代していき、打順が一巡して作戦は行き渡り、みんな心の準備も出来たようだ。
「さあて、では一丁いきますかー。
チュールもお願いねー」
『いやいいんだけどねー。
人間は本当に物好き。
まあ僕が串刺しになるわけじゃないし、別にいいかー』
「そういう事。はい、本番スタート!」
一瞬にして私のリジェネで煌めいた方々が、もはやヤケクソに近い感じで監督のその情け容赦のない号令によって駈け出した。
「セット・ハット・ハット!」
アメフトって、確かこんなような掛け声だったよね。
正式なアメフトのルールとかまったく知らないんだもん。
まあ気分ということで。
私の役割は監督兼チアガール!
もちろん、万が一の際の私のサポートはアメリさんだった。
もう、今日はずっとこんなんばっかりだ。
全メンバー中で、一度も命を張っていない奴が一人もいない!
まずチュールがスキルで敵の触手をすべて止めた。
だが、この状態では騎士達も一歩だって進めない。
人との連携に長けたチュールが、手を上げ鋭く鳴いて合図した。
『ギーっ(行くよ)』
騎士達は覚悟を決めた。
盾スキルが消えて、伸びてくる数十条の鈍色鼠色の高速槍。
たちまち悲鳴を通り越して断末魔のような騎士達の声がいくつも響き渡る。
だが、押す両の掌を触手に貫かれながらも、ようやく届いた敵の体を団長が押しまくる。
そして他の人達も胴体を貫かれ、あるいは頭を串刺しにされている。
敵と白兵戦というか、全員が敵に串刺しにされながら繋がっているため、全体の動きによってその患部を思いっきりぐりぐりされて劈くような苦鳴を上げ続け続ける。
私が連発で放つ圧倒的な回復魔法の群れは、彼らに訪れるはずの安らぎさえも容赦なく遠ざけ、今までで最高の生き地獄の真っ只中へ置き続けた。
前線でサポートに入っている私としては、もう耳を塞いでしまいたいくらい凄惨な状況なのであったが、それをやると現場の士気が絶対に急速低下してヤバイので出来ないのが辛い。
後で絶対に無茶苦茶に文句を言われるのに決まっているしなあ。
リアルなホラー映画でも見ているつもりで頑張るしかない。
うわああ、これはきっつう。
そして時折チュールが加減を見ては、一旦盾スキルで騎士達を引き剥がし、私が他の回復魔法をぶち込んでフォローしていく。
その際も体から強引にすべての敵槍が引き抜かれるので、悲鳴がシュプレヒコールの津波を引き起こす。
完全な刃物の槍ではなく、なんというか鈍器に近い槍を、怪物パワーと触手様の手が生み出す速度任せに捻じ込むような物なので、きっと引き抜かれる時も凄まじい苦痛なのに違いない。
そのあたりの加減も、ダンジョンにて強大な魔物相手に数々の地獄を潜り抜けてきた猛者の中の猛者であるチュールの厳しいジャッジにて決まるので、これまた情け容赦なし。
ある意味で、この子が対魔物戦で一番場数を踏んでいるスペシャリストなのだ。
あと、私はもう散々回復魔法は使ってきたので、その威力も凄まじくなってきている。
だから未だにメンバーは一人も死んでいない。
いや、死ねない。
そして一息つくまでもなく、チュールは情け容赦なく第二ラウンドを開始し、またもあの無数の槍の鈍い刺突を食らって悲鳴の連鎖がアメフトチームをぐるりと、あるいは急反転の逆回しにと、何度も周回していった。
多少はそいつを押し込めたのがわかるが、それもほんの十~二十センチのみだ。
まだまだドアの前から奴をどかすには程遠い。
「うわあ、自分でやらせておきながら、なんていうかもう。
ドン引き~」
他の回復係の人達も顔が真っ青だ。
マリエールも、数十本もの、あの触手の数に負けないほどの垂れ線を顔の眷属として張り付けながら言った。
「あ、あのねえ、サヤ。
あたしゃ、あの怪物よりもアンタのやり方にドン引きだよ。
うわああああ」
「うっさいな。
他にどうしろっていうのよ。
よし、そこだ。
押せ、1ヤード・ゲイン!」
もう無茶苦茶を通り越して、何がなんだかわからない。
あの人達、あれでよく死んでないな。
私の回復魔法って一体どうなっているのか。
血液や脳細胞なども瞬時に再生しているのだろう。
そしてまた次の瞬間に、瞬時にして脳味噌や内臓をかき回され、肉や骨も引き千切られ、発狂しそうなほどの苦痛に見舞われる。
もはや、あれはゾンビ。
しかも、やけくそゾンビだ。
なんかもう意味不明な、自分を鼓舞するためだけの何かを発音しているだけの生ける死人にも等しい。
きっと針地獄で永遠の苦痛を与えられる亡者があんな感じなのかな?
そして、それを永遠に回復させながら見張る鬼の役が私なのかあ。
こっちも、もうヤケクソだな。
「よし、このアメフトチームのチーム名が決まったね。
パルマ・リビングデッズで決まりよ」
まあパルマ・ゾンビーズよりは、この方がまだ語感いいよね。
だが、その甲斐はあって奴はじりじりと下がっていく。
奴にとってもこれは予想外の展開なのだろう。
今までの奴と違い、手強いけど体自体は小さいのでなんとかやれる作戦だ。
奴も少し慌てたらしいのだが、そのせいか体が少し浮いてしまった。
バランスを崩したのだ。
その隙を見逃す団長ではない。
「ぐぬおおお。ふんばらぶみまん!」
団長が何か意味不明な言葉で気合を入れながら、とっておきのパンプアップを行なった。
傷口から溢れかえる真っ赤な液体を噴出させながら、全身をまた新たな十本ほどの魔物槍で貫かれながら根性で押し、奴をたった一人で三十センチほど一気に押し込みながら言い切った。
「皆、押せーーっ。
たとえ死んでもここで押せええ」
「団長、死ねないからこそ、こんな酷い事になっているんですがね。
野郎ども、押せえええ。
どうせ俺達はこいつを片付けるまでは死ねないんだから気力で押せええ」
ハッサンさんも叫んだ。
そして騎士達も叫んだ。
「どおりゃああああ」
「ぐああああ。
ぐはっ、痛てえー、チクショウ」
「この糞魔物がああ」
「ついでに、あの糞聖女がああ」
なんですって。
そこのあなた、顔は覚えましたからね!
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