異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-37 進軍せよ、聖女パーティ

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 とりあえず、私の武装は諦めた。
 変な物を持ったって危ないだけだから。
 転んで刺さったなんていったら!

 その代わりチュールを命綱代わりに抱いて、冒険者ギルドで借りてきた、もう返せない事を前提にしたデポジットを設定してあるギルドの紋章入りの馬車を『チャックに』引かせてみた。

 格好だけで御者台に座るのは、もちろん冒険者装束のアメリだ。

 そう、今は『物好きにも仕事の打ち上げでスラム街にて宴会しようと目論む駄目駄目な冒険者パーティ』という設定にしている。

 スラムに迷い込んだ『うっかり逃がしてしまった従魔の一匹』を捜索しがてらという強引な口実でね。

「いくらなんでも無茶が過ぎるのではないか」

 リュールさんは、そう言って呆れ返っていたが、もう他にどうしようもないのでヤケクソなのだ。

 あの草色の馬鹿を放っておくわけにもいかないしね。

 人見知りを自己アピールポイントにしているチキン野郎の分際で、何をこんな一般人が立ち入らないような『壁で囲まれている隔離地区』へわざわざやってきているのか、小一時間どころか今夜寝るまでたっぷりと説教タイムだああああ。

 その後はモフモフ枕の刑ね。

 一応、何かあった時のために近くに騎士団の精鋭が待機してくれている。

 いつの間にか復旧していたらしい、あの団長ときたら「ほお、そのようなでっかい魔物が来るかもだと? そいつぁ楽しみだなあ」とか抜かしていたらしい。

 むしろ、あの人の方が問題児なのではないだろうか。
 復活したばかりのサリタスさんが頭を抱えていそうだ。

 ベロニカを連れてきたかったけど、さすがに騎士団員をあの柵というか壁の向こうへ連れて行くのは駄目らしい。

 まだ聖女サヤならば、何かあった時には王命にて軍勢を送る事が可能らしい。
 それに。

「この神聖聖女徽章って『どこにでも入れる』という触れ込みの国王発行の最強の身分証なのよね。
 それって、たとえ神殿本部だろうが、スラム街だろうが入っていいって事じゃない?」

 それは屁理屈というか、単なる無茶というか、そういうものだとはわかってはいるんだけど、『あれ』を放っておくと何かまた更に悪い方向へ話が進むような気がして仕方がないのだ。

 何が神獣だ。あの疫病神め。
 君も寝具(枕)にしてやろうか!

「さて、ここの住人がこの変態的な傾奇者集団を放っておいてくれるものかしらね」

「さあどうでしょう。
 それにしても、サヤ。
 あなたといると次々と楽しい事ばかりで、本当に退屈しませんね」

「君だけはそう言ってくれると信じていたよ、アメリたん」

『だからサヤは冒険者には向かないと、あれほど……以下略』

「文句なら、あの草色ゴンスに言ってやってよね、チュール先輩。
 頼りにしているわよ」

『後で新作のおやつをもらえるなら頑張る』

「そうだった!
 あれの披露をするのをすっかり忘れていた。
 女子会が思わぬほど盛況だったもんでさ」

 そして、私は閃いた。

「よし、いい事を思い付いた」

「へえ、何か奴を捕獲する良い手でも?」

「うん。別に特に難しい事じゃないんだ。
 あんな七色ガルーダ張りの表六玉なんか、まともに探したって見つかるもんか。
 要はあいつの方から寄ってくるようにしてやればいいのだから」

「ああ、なるほど」

「じゃあ、場所の物色からね。
 出来れば、背後からの襲撃を考えなくてもいいような、頑丈な壁を背にした広場っぽいところが最高なんだけど」

「それなら心当たりがあります」
「アメリはここに詳しいの?」

「いえ、それほどではないですが、冒険者の中にもここの出身者はいますので、何かの折に聞いたくらいで。
 私もここへは仕事関係で何回か入った程度ですね」

「ちなみにどんな仕事?」

「大体、失せ物探しですね。
 その大方は人間、しかも子供が殆どです」

「それはつまり、君をそうやって目立つ感じに連れて歩いていると、ここのヤバ系住人に喧嘩を売っているようなものだって事かな?」

「まあそうお考えいただければ、限りなく正解に近いのではないかと本官は通告いたします」

「何故、本官!」

「私、チャックの事は好きですよ。
 だって世の中にあんな面白い魔物がいたなんてねえ」

『お褒めに預かり恐悦至極です。
 討ち入り前の空気の中でなんですが、ミス・アメリに本官から少しばかりの感謝を』

「チャックがアメリにありがとうだってさ」

「ふふ。荒事の前に、パーティの結束が高まりましたね!」

「みんなの中ではもう、荒事が始まるのは決定事項なんだね……」
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