異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
93 / 104
第二章 世直し聖女

2-36 最悪な事態

しおりを挟む
 チャックは同時にスケッチブックに私との会談の模様をしたためており、それを読んだリュールもさすがに米神を押さえる破目になった。

「サヤ、あそこは特別な問題地区なのは知っているな。
 そこに騎士団を送り込むと大暴動が起きるとまで言われている。
 おそらく、それはスラムを飛び出して、あっという間に王都全域に広がるだろう」

「それはもう典型的なアカンやつですね」

「そうだ。
 しかも、それはマースデンの奴らが場合によっては使う予定の手管であり、絶対に我々自身がやってしまう訳にはいかない。
 同じく国軍であろうと近衛兵であろうと駄目だ」

「神殿の炊き出しみたいなものは入れるんでしたっけ」

「ああ、だがそれがまた最悪の悪手だ。
 神殿は聖女のお前を欲しがっている。

 未だおかしなちょっかいがかけられていないのは、父が早々にお前を派手に聖女として認定し、正式に国王の保護下に置いたせいだ。

 しかも、お前は数々自分が有能である事を示した。
 だが、自ら神殿の懐に飛び込むというのならば!」

「もう、それだと本当に手がないじゃないですか。
 冒険者は?」

「まあ、そういう連中の中にもスラムの住人はいるし、逆のパターンもあるが、サンドラが犯罪傾向の強いスラムの住人には比較的厳しくしているのでな。
 そう覚えが目出度くもないぞ」

「でも、飼い主がペット探しをしにいくのは有りですよね」

「むう、だがお前に何かあると更に事は面倒になる。
 いっそ、奴が自主的に帰ってくるのを待つ……というのも悪手と、お前の優秀な部下であるマースデンの連中にもっとも詳しい騎士が言ったのだったな。
 八方塞がりで実に頭が痛い事だ」

「ちょっと待ってね」

 私は一つ気になる事をチャックに訊いてみた。

「ねえ、マースデンの魔物部隊がスラムにいる事は考えられる?
 なんというか、あなたとチュールとアメリが護衛でも厳しいのかどうかが知りたいの」

『あくまで汎用的な物の考え方として、可能性としてはイエスとお答えします。
 あの魔道魔導の手管で転移のスクロールを封じていた王宮の中にさえ私は召喚され得ました。

 魔物使いが魔物と共にスラムに常駐していたという知識はありませんが、私は急遽潜入工作のための戦力として別部隊より緊急で送り込まれただけの一介の魔物兵に過ぎませんので、その種の王都パルマ関連に関する知識は非常に限定的かつ過去のデータです。

 一応、魔物部隊にいた者としては特に聞いていないという程度の回答であります』

「そうかあ、そうだよね」

『さらに、誰か強力な魔物の召喚スクロールを持ってスラムへ潜入したテイマー工作兵がいた場合は最悪な戦場と化す可能性があります。

 あそこは王宮とは違い、必要とあらば超大型魔物の召喚が可能です。
 マースデンの魔物部隊には、三体しかいない師団壊滅級のウルトラ・モンスターがいたと記憶しています。

 本官は現在の主である聖女サヤに対し、あなたはマースデン王国から、あれら虎の子の魔物三体を全力投入してもいいくらいの殺意を持って、激しく恨みを買っているのだと、強く強く警告いたします』

「げはあっ」

 同時筆談通訳で会話の内容を知ったリュールは、その貴公子のような手で顔を覆ってしまった。

「サヤ……」

「行く!
 あたし、絶対行くからね」

「止めても無駄か」

「あたしの新モフモフ、まだ一回も枕として使っていないのにー!」

「そうだった。お前はそういう奴だったな」

「それでは、サヤ様。
 御支度をなさいますか。
 あの鎖帷子装束は推奨できません。
 あれはスラムでは喧嘩を売っているようなものですから」

 今までの話に、相変わらず顔色一つ変えずに、そのようにただのお出かけのような感じに言ってくるアメリ。

「アメリは一緒に来てくれる?」

「もちろんでございますよ。
 ただ、私の戦闘装備はあなたが収納に入れておいてください。
 あなた用の鎖帷子も。
 護身用の武器は皆が持ち歩いているような場所ですが、あなたはどうなさいます?」

 彼女は自分用のミスリルの武器を見せてくれた。

「えー、203ミリ榴弾砲とか大型の地対地ミサイルみたいな物ってないよね。
 車両搭載型の大口径連装ロケット砲とかないのかしら。

 あと四十ミリ機関砲で戦車などを狩りまくれる圧倒的な対地攻撃力を持つ、対ゲリラ戦に今でも超有効な地上攻撃機もいいな。

 ベトナム戦争あたりで使っていた三十ミリ機関砲や七十ミリロケット弾ポッドに各種機関銃なんかを装備した空中トーチカみたいな凄い攻撃ヘリとか、歩兵が使う強力なロケットランチャー系とか、やっぱりこっちにはないよね。

 敵が飛行魔物の場合には対空ミサイルが要るのかなあ」

「さあ、存じませんね。
 もしかして向こうの世界の武器の話ですか?」

「ああ、うんまあ」

 とりあえず、武器っぽいものは包丁や工作用のナイフくらいしか使った事がない。

 ああ、ソフトボールで使っていた金属バットやシャベルくらいはあるかなあ。
 後は体育で使った剣道の竹刀くらい?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

その聖女は身分を捨てた

喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...