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第二章 世直し聖女
2-43 聖女一座
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「聖女サヤの名において命じる。
速やかに諸君らの所属姓名官名を述べよ。
これは、この神聖聖女徽章による、正式な尋問である。
虚偽があった場合には王命により処罰が与えられる」
『サヤ、さすがに可哀想なんじゃない?
敵じゃないんでしょ、その人達』
「甘いよ、チュール。
敵じゃないからって、別にあたしらの手下として大人しく働いてくれる訳じゃないんだからね。
こういう事は最初が肝心なの」
『ああ、悪魔聖女は健在なり』
「うっさい」
男達は最初もごもごと口籠っていたが、私が表情を段々と固くしていき、チャックにこう言ったので、連中も態度が軟化した。
「チャック、どうやらこいつらってアースデン王国の味方じゃなくってマースデンの手先だったみたいね。
全員あんたのご飯にしちゃってもいいわよ」
『イエスマム』
そして、彼の触手に依然として拘束されていた連中が体を持ち上げられて、あーんと大口を開けたチャックに齧られそうになって悲鳴を上げた。
チャックはあの体の真ん中にある部分に口がある。
彼の名前の由来であるイソギンチャクと同じなのだ。
結構大口で、チャックの生態を知らない奴らがあんな風にされたら怖いだろうな。
まさにクトルゥー風ですな。
実際には何でも食べて処理できる、魔物型ディスポーザーのような奴なのだ。
チャックは決して人間は食べない。
普通の食い物すら、滅多に食べないくらいだからな。
「うわあ、止めてくれ。
お、俺達は王都警邏隊の者だ。
ここの勢力の監視を命じられている。
そこへ、貴女が来たので単に職務上の理由で監視していただけだ。
お許しを~」
「王都警邏隊ねえ。
いわゆる一般の警察、ここは王都だから日本でいえば東京警視庁みたいなものか」
そしてチャックに命じて彼らの身分証を捜させた。
見ると確かに、そのようになっている。
まあもしかしたら嘘なのかもしれないけど、アメリは治安機関の人間の気配といった。
それに、なんというかこいつらは緩い。
ここ王都をホームグランドとする人間なのだろう。
あとなんというか、いわゆる私にも理解できるほどの役人臭が濃厚に漂っている。
おそらく身分に偽りはあるまい。
「いいでしょう。
それでは、少し私の御手伝いをしてくださるかしら」
「あ、いや。自分達は任務中でして、その」
「チャック、どうやら彼らは敵だったみたい。
やっぱり御飯に」
またしてもチャックに「あーん」をされて悲鳴を上げる男達。
「わかった、わかりました。
あなた様のお手伝い、喜んでやらせていただきます。
だからっ!」
「よろしい」
そして、チャックに手で彼らを降ろすように合図をした。
そして彼も楽しそうに言ってくる。
『こんな事を言うのは些か不謹慎ではありますが、今回の小芝居に関しては、本官も少し楽しかったと聖女サヤに報告しておきます』
「あたしもよー」
『ヤバイな。僕もなんだか楽しくなってきた。
だんだんとサヤに毒されてきてる⁉』
もちろん、アメリも実に楽しそうだった。
「えー、それで我々に何をせよと仰られるので?」
「決まっています。
その子達の御世話をしてください。
大体、卑しくもこの聖女サヤが『君臨する』この王都パルマで、こんな子供達が、この崩れそうな一枚壁しかないような場所を自分達で孤児院なんて呼んでるんだぞ。
お前ら、大人として恥ずかしくないのかあああああ」
いきなり聖女様に激怒されて目を白黒させている『警官』達。
まあ滅茶苦茶に理不尽な無理を言っているのはわかっているんだけど、とりあえずこいつらにやらせないと他に誰も人材がいないからね。
我が敬愛する王国騎士団はこの中へ入れないしな。
本来は、私も入っちゃ駄目なんだろうけど、この聖女小夜の枕さんが言う事を聞いてくれないんだもの。
本当に困った寝具だな。
「そういう訳で、ブラウニー・ジョーンズ警邏隊長。
あなたに聖女サヤから称号を授けます。
インスペクター、聖女付きの特務インスペクターの称号を与えます」
インスペクター、要は『警部さん』の事である。
たぶん、この人って東京警視庁で言うところの犯罪取り締まり関係の警部さんくらいの役職かなと思って。
残りは刑事さんかな。
もれなく全員に、ちょっと生活安全課の方に出向してもらった。
この茶番を見ている、他の勢力の連中は困惑しているのだろうな。
あの聖女は何をやりたいのかって。
あろうことか敵じゃなくって味方を捕縛しているし。
こっちだって、あのモフモフが何を考えているものなのか、さっぱりわからなくて困っているのですがね。
「えー、それで我々にその何をしろと」
「とりあえず、その子達が暮らせる家を建てたいの。
正式な奴は『王様に建ててもらうから』仮の物でいいわ。
だって、あたし王様から国家レベルの褒賞をいただく権利を二つも残してあるのよ?」
「うわあ、マジですか……」
「あくまで仮なのですがね。
アースデン王国国王陛下からの褒賞として……このスラム・パルマは、たった今よりこの聖女小夜の直轄地とするっ。
誰か、この神聖聖女徽章に向かってケチを付ける度胸のある奴はいるか!」
当然、私が叫んでいる相手は残りの三つの監視者だった。
「チュール。悪いんだけどさ。
スラムから出たその辺にいるはずの、団長を含む王国騎士団の連中を連れてきてくんない?
もう警邏隊も巻き込んだ事だしさ。
吐いた唾は飲めないから」
速やかに諸君らの所属姓名官名を述べよ。
これは、この神聖聖女徽章による、正式な尋問である。
虚偽があった場合には王命により処罰が与えられる」
『サヤ、さすがに可哀想なんじゃない?
敵じゃないんでしょ、その人達』
「甘いよ、チュール。
敵じゃないからって、別にあたしらの手下として大人しく働いてくれる訳じゃないんだからね。
こういう事は最初が肝心なの」
『ああ、悪魔聖女は健在なり』
「うっさい」
男達は最初もごもごと口籠っていたが、私が表情を段々と固くしていき、チャックにこう言ったので、連中も態度が軟化した。
「チャック、どうやらこいつらってアースデン王国の味方じゃなくってマースデンの手先だったみたいね。
全員あんたのご飯にしちゃってもいいわよ」
『イエスマム』
そして、彼の触手に依然として拘束されていた連中が体を持ち上げられて、あーんと大口を開けたチャックに齧られそうになって悲鳴を上げた。
チャックはあの体の真ん中にある部分に口がある。
彼の名前の由来であるイソギンチャクと同じなのだ。
結構大口で、チャックの生態を知らない奴らがあんな風にされたら怖いだろうな。
まさにクトルゥー風ですな。
実際には何でも食べて処理できる、魔物型ディスポーザーのような奴なのだ。
チャックは決して人間は食べない。
普通の食い物すら、滅多に食べないくらいだからな。
「うわあ、止めてくれ。
お、俺達は王都警邏隊の者だ。
ここの勢力の監視を命じられている。
そこへ、貴女が来たので単に職務上の理由で監視していただけだ。
お許しを~」
「王都警邏隊ねえ。
いわゆる一般の警察、ここは王都だから日本でいえば東京警視庁みたいなものか」
そしてチャックに命じて彼らの身分証を捜させた。
見ると確かに、そのようになっている。
まあもしかしたら嘘なのかもしれないけど、アメリは治安機関の人間の気配といった。
それに、なんというかこいつらは緩い。
ここ王都をホームグランドとする人間なのだろう。
あとなんというか、いわゆる私にも理解できるほどの役人臭が濃厚に漂っている。
おそらく身分に偽りはあるまい。
「いいでしょう。
それでは、少し私の御手伝いをしてくださるかしら」
「あ、いや。自分達は任務中でして、その」
「チャック、どうやら彼らは敵だったみたい。
やっぱり御飯に」
またしてもチャックに「あーん」をされて悲鳴を上げる男達。
「わかった、わかりました。
あなた様のお手伝い、喜んでやらせていただきます。
だからっ!」
「よろしい」
そして、チャックに手で彼らを降ろすように合図をした。
そして彼も楽しそうに言ってくる。
『こんな事を言うのは些か不謹慎ではありますが、今回の小芝居に関しては、本官も少し楽しかったと聖女サヤに報告しておきます』
「あたしもよー」
『ヤバイな。僕もなんだか楽しくなってきた。
だんだんとサヤに毒されてきてる⁉』
もちろん、アメリも実に楽しそうだった。
「えー、それで我々に何をせよと仰られるので?」
「決まっています。
その子達の御世話をしてください。
大体、卑しくもこの聖女サヤが『君臨する』この王都パルマで、こんな子供達が、この崩れそうな一枚壁しかないような場所を自分達で孤児院なんて呼んでるんだぞ。
お前ら、大人として恥ずかしくないのかあああああ」
いきなり聖女様に激怒されて目を白黒させている『警官』達。
まあ滅茶苦茶に理不尽な無理を言っているのはわかっているんだけど、とりあえずこいつらにやらせないと他に誰も人材がいないからね。
我が敬愛する王国騎士団はこの中へ入れないしな。
本来は、私も入っちゃ駄目なんだろうけど、この聖女小夜の枕さんが言う事を聞いてくれないんだもの。
本当に困った寝具だな。
「そういう訳で、ブラウニー・ジョーンズ警邏隊長。
あなたに聖女サヤから称号を授けます。
インスペクター、聖女付きの特務インスペクターの称号を与えます」
インスペクター、要は『警部さん』の事である。
たぶん、この人って東京警視庁で言うところの犯罪取り締まり関係の警部さんくらいの役職かなと思って。
残りは刑事さんかな。
もれなく全員に、ちょっと生活安全課の方に出向してもらった。
この茶番を見ている、他の勢力の連中は困惑しているのだろうな。
あの聖女は何をやりたいのかって。
あろうことか敵じゃなくって味方を捕縛しているし。
こっちだって、あのモフモフが何を考えているものなのか、さっぱりわからなくて困っているのですがね。
「えー、それで我々にその何をしろと」
「とりあえず、その子達が暮らせる家を建てたいの。
正式な奴は『王様に建ててもらうから』仮の物でいいわ。
だって、あたし王様から国家レベルの褒賞をいただく権利を二つも残してあるのよ?」
「うわあ、マジですか……」
「あくまで仮なのですがね。
アースデン王国国王陛下からの褒賞として……このスラム・パルマは、たった今よりこの聖女小夜の直轄地とするっ。
誰か、この神聖聖女徽章に向かってケチを付ける度胸のある奴はいるか!」
当然、私が叫んでいる相手は残りの三つの監視者だった。
「チュール。悪いんだけどさ。
スラムから出たその辺にいるはずの、団長を含む王国騎士団の連中を連れてきてくんない?
もう警邏隊も巻き込んだ事だしさ。
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