異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-44 強権発動

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『またサヤが無茶苦茶な事を始めた~。
 僕もう知らないからねー』

「いずれ、誰かがやらにゃあならん事なのよ。
 言っとくけど最初に空気を読まずに事を始めやがったのは、あそこでチビ達と暢気に遊んでいる私の枕だからね!」

『ああ! そうだった。
 ねえ、手紙書いて。
 団長は僕と話せないから』

「うん。さらさらさらっとね。はい」

『うわ!
【スラムで戦争始めましたので、今すぐ来て】だって?
 また無茶を言うなあ』

「大丈夫。
 もうみんな、私の無茶には耐性が出来て慣れっこになってきてるはずだから!」

 チュールはただひょいっと首を竦めると、ふいっと姿を消した。

「あれえ。
 あの子、あんな隠密みたいな能力あったんだ。
 すごーい」

「なかなかやりますねえ」

 アメリのその台詞は、私とチュールのどっちに向かって言ってくれたものかな。

『聖女サヤの自由奔放ぶりには戦慄さえ覚えます。
 本官は、それがだんだんと快感になってきている自分を明確に感じますね。

 そして、聖女サヤにお報せです。
 三つの勢力の動きが慌ただしくなってきていると聖女サヤに具申します。

 先程のあれを本官は、聖女のスラム・パルマ開放宣言とでも名付けて称えたいと考察します。
 ビバ! 聖女サヤは痛快なり』

「ありがとう。
 あなたも、だいぶいい感じに私色に染まってきたわね」

『イエス、ユアハイネス!』

 そして、ブラウニー・ジョーンズ特務インスペクター率いるブラウニー小隊は、ガタガタと震えていた。

 そして私は彼らに対して無慈悲に宣告した。

「ああ、あなた達。
 いかに王都パルマの治安機関の人間が本件に対して、的確に迅速に絡んでいるかをアピールするために、ちょっと威圧的にその辺に立ってくれます?

 心配しなくても、うちの人間はあんたら五万人分くらい腕が立つし、もうじき鬼の王国騎士団長が騎士団を引き連れてやってくるから」

 だが、彼はなんというか面白いような顔をしてしまって、まともに話を切り出せなかった。

「あ、はあ、ひゃああ。
 あんた、あんた本当になんて事を。
 ここがどういう微妙なバランスの上に成り立っているのか知らんのか。
 騎士団だろうが、王国軍だろうが、我々警邏隊だって手が出せん場所なのだぞ」

 だが、私は神聖聖女徽章を首から外して、そいつの目の前にぶら下げて宣下した。

「そんなもの知っているのに決まっているじゃないの。
 だけどね、そいつを最初に始めた馬鹿は、そこで子供と遊んでいる、国王陛下が自らを給仕係か何かと勘違いするほど持ち上げている『神獣様』なんだから仕方がないじゃないのさ。
 男なら、うだうだ言うんじゃないの」

 それには彼も衝撃を受け、何故目の前にいる発狂した聖女が強硬手段に打って出ているのか明確に理解したようだ。

 彼にとっては、国王も神獣も聖女も所詮は雲の上の住人だ。

 それが二つも揃った現場にいて、しかもその二つの存在がやりたい事、やらねばならない事に対して国王が何もしないなどと考えるほど彼は馬鹿ではなかった。

「……イエス。
 イエス・ユアハイネス、聖女閣下」

「よろしい!」

 そして、神獣ポピー様(プフっ)並びにスラムの孤児達と聖女パーティを守るかのように、監視者達に向けて、明確に威圧的に立ち囲む警邏隊。

 言葉では表せない、その場に居合わせないと感じ取れないような奇妙な緊張感が、体の中を流れていくような感じで駆け抜けていき、そのスラムはそれまでの異様で無法な場所とは少し違う場所へと変貌していった。

 我々は勝ったのだ。
 このスラムを支配していた、あらゆる勢力に対して。
 たったこれだけの事で。

 まあこっちの面子がヤバイんだけどね。
 国王が崇拝してやまない神獣と希代の暴れん坊聖女によるタッグ。

 さっきのあの奇妙な波動は、彼ら監視者達の、一種の撤収の痕跡とでも言うようなもののようだ。

 何故か、そういう事に対して疎い私にさえ明確にわかるほどの。

「コングラッチレーション、聖女サヤ」

 アメリが、彼女にしては珍しい感じの呼び方をして私を称えてくれた。

「それを言うのなら、【コングラッチレーション、聖女サヤの草色枕】ってところじゃない?」

 生憎と、その枕様ときた日には、天真爛漫な感じで子供達と遊んでおられるのだが。

「もうすぐ、御飯の時間かな。
 アメリ、今夜は何を食べたい?」
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