異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-45 スラム・パルマの夜明け

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 間もなく、王国騎士団がやって来た。
 あの方を先頭に。

 英雄。
 まさにそう呼ぶのが相応しい、相当な髭面で半端ない体格をした威厳のある漢。

 すべてにおいて豪快過ぎるのが玉に瑕。
 だが今の私にとって、これ以上頼もしいと思える男もそうはいない。

「やあ、バルカム騎士団長。御機嫌いかが?」

「燃料満タンですこぶる快調ですな。
 して、戦はどこですかな、聖女閣下」

「とりあえず、あなたが来ると言ったら戦すら逃げていきましたよ。
 このスラムは、私が『スラム・パルマ開放宣言』により、正式に聖女権限を用いて開放いたしました。

 ここは私、聖女小夜の直轄地といたします。
 以後は王国の治安維持機関の手により秩序を回復します。

 そちらは、私が聖女サヤの特務インスペクターに任命し、任務遂行中のブラウニー・ジョーンズ警邏隊長ですわ」

「御疲れ様です」

 英雄騎士団長から敬意の籠った敬礼をいただき、目を白黒して返す特務インスペクター。

「お、お疲れ様です、王国騎士団長閣下」

 団長としては、また聖女サヤが始めた無茶に付き合わされて、いきなりの職務を遂行しているこの隊長に素直に敬意を払っただけなのだろう。

 まあそれで何も間違っちゃいないからね。

「それでサヤ、お前の枕はあそこか」

「そうですね。
 もうすっかり可愛らしい天使様の僕のようでゴンス」

「ふはははは、さすがは俺のマブダチだけあるでごわすな」

 ああ、そういや確か二晩続けて『マブダチ』だったもんなあ。
 王太子殿下も含めて。

 そういや、この人私の枕を勝手に使っていたんだった。
 アレも今夜はきっと天使様専用の枕なんだな。
 そういや、ここには敷き布団すらないんだった。

「団長」
「なんだ」

「とりあえず、ベロニカを呼んでくれませんか。
 それと出来たら冒険者ギルドのサンドラも。

 この【孤児院】の今夜の塒を設営したいので。
 子供達の世話もあるし。

 冒険者ギルドの下っ端の人なんか、そういう仕事があったらいいかもだし。
 その費用は私が支払うから」

 そういや、この小夜様自身も冒険者ギルドの下っ端の、そのうちの一人なんだった。

「そうか。手配させよう」

「チャック」

『イエスマム』

「他勢力の動きは?」

『本官の知覚をベースとした見立てによれば、マースデン並びに犯罪組織系の敵は撤収完了。

 マースデン王国では、他国におけるこのような活動に関しては、こういう不測の収集不可能な事態が発生した場合は、まず何をおいても全軍が撤収し証拠を残さないようにしますから、すべての敵は一旦撤収したはず』

「それは喜ばしいわね。それから?」

『ただし、彼らに便宜を図るアースデンの貴族もいるでしょうから貴族街に潜む者はいますし、残りの者も速やかに王都以外の近隣の拠点に移動したのみと思われます。

 なお犯罪組織系の場合は、聖女の直轄支配宣言並びにマースデン勢力逃亡により街の勢力図が書き換えられてしまったせいで治安組織に追われるのを恐れ、もれなく近隣他都市へと速やかに撤収するのが普通だろうという考察を聖女サヤに捧げます』

「ありがとう、チャック」

 それから警邏隊のメンバーに向かって言った。

「ジョーンズ・インスペクター」

「は。何でございましょう、聖女様」

「速やかに、この街の治安を回復させたいです。
 なお、住人達の中には止むを得ず犯罪に加担していた者も大勢いますが、彼ら一般住人を逮捕しないでください。
 彼らには聖女サヤの名において恩赦を与えます」

「は、ではそのように手配を」

 それからは素晴らしく慌ただしい動きとなった。

 ここがもうスラムではなくなった事実は、彼らへの恩赦の福音と共に街中を疾風の如くに駆け巡った。

 そして、彼らがやってきた。
 我々を最初に監視していただろう敵対意思の薄かった組織の者だ。

 彼らはここの住人だから逃げたりはしない。
 顔には悲壮が張り付けられているものの、悪相ではないのが一目で見て取れた。

 それは総勢五人の男と女だった。

 騎士団長は、私の後ろで腕組みをして目を瞑っているだけで、アメリはいつの間にか馬車で着替えてきたのかメイド姿に戻っている。

 チュールが私に抱かれているだけで、チャックはペタンと身体を降ろし、臨戦態勢にはない事を相手に伝わるようにしていた。

『我々はお前達を敵とは認識していない』という無言のメッセージを、一切の打ち合わせもせずに全員で意思表示している。

 このチーム、なんか凄いな。
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