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第一章 王太子様御乱心

1-45 必殺の時間

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 アリエッタは隠し持ったオリハルコン製らしき短剣を引き抜き、私は切りかかってきたアリエッタを愛杖バルバロッサで軽く受けると、そのなまくらは粉々に砕けました。

 これには双眸を驚愕の光に染めて驚くアリエッタ。こちらの得物ごと、この私を切り裂く算段だったのでしょう。

 何せ、こちらはドヴェルグの親方だけが代々隠し持っている、今では精製法が失われてしまった古代の超魔法金属ベスマギルで作られているのですから。

 金を積まれても決して出してはくれない、本来なら門外不出の品なのですが、この私の頼みを断る彼ではありません。

「嬢ちゃんなら、こいつを扱うのに相応しいだろう。何しろあんたは、オリハルコンの杖でもその尋常ではない魔法の威力で壊しちまったんだからな。しかも、あんたの莫大な魔力がなければ、こいつベスマギルの加工すらも難しい」

 杖自体はドヴェルグの親方が作ってくれたのですが、魔法の術式は魔法の天才であるシナモンが私の言いなりに組んで完成させてくれたものです。

 これは更に硬度・強度の強化がなされている逸品なのです。ですがアリエッタは憎々し気に叫びました。

「馬鹿な、オリハルコンの剣が砕けてしまうなんて! お前は本当に人間なのか⁉」

「だから国王陛下からの御紹介にあったでしょう。この私が超獣マリーだっ」

 そして奴に向けて杖を振るいました。それを見て思いっきり顔を引き攣らせている、うちのお母様。

 心配しなくてもいいのです、もう小さい頃とは違いますよ。多少は分別というものくらい持ち合わせているのですから。あくまで多少はね。

 だが、私が放った強烈な電光をあっさりと片手で払うアリエッタ。

 激しいステップで参加者達を盾にしようと動き回るアリエッタの奴を追尾する電光の飛んだ先で、巻き添えを恐れて慌てふためいて逃げ回る人々。

 くー、邪魔な人達ですね。人質を取られているようなものです。それにしてもやってくれる。アリエッタめ、このパワーを片手で弾き返しますか。

 何ですか、その鉤爪でもついているかのような指の曲げっぷりは。本当に何なのよ、あんたは。確かに王宮のホールなので手加減しないわけにはいかないのでありますが、それにしてもねえ。

「は、アリエッタ。やはりあなたは見た目通りではない化け物という事ですか」

 そして爆炎魔法などは使えませんので、隙を見て火焔放射器のように使い勝手のよい強力なブレス魔法を放ちましたが、その炎の中で平然としているアリエッタ。

 火焔中和の魔法を纏っているのかな。まさしく古の魔女を彷彿とさせる女狐です。これはもう、只の若い女などではありえませんよね。

 まさか、まさかとは思いますが。よし、この必殺の禁断魔法を試してみますか。

 できれば人前では使いたくなかった魔法なのですが、致し方ありません。特に御婦人方の前では使いたくなかったのですが。

「必殺! 化粧分解魔法、クレンジング・ウルトラ! 前世魔人の正体見たり~」

 最後の一言は魔法にまったく関係ありません。ただのノリです。しかし、その魔法名を聞いて、ホールのあちこちから悲鳴が巻き起こりました。

 あのう、貴婦人の皆さん? こ、この魔法はターゲット単体に作用する指向性魔法ですので、あなた方の正体を暴くものではないのですが。

 ですが、御婦人方は誰も私の心の声など聞いておらず、いくつも存在する控室になだれ込んでいきました。

 ああ、これはまた場外で酷い惨事になりましたね。まずいわあ、諸国の大使の奥方やそのお付きの方々までが、そのお仲間なのですから。

 この情報は、光の速さで伝搬しそうです。いえ、こういう時だけは光の速さを越えられるのかもしれないと思う事が時々ありましてですね。

 うちの若さ溢れる容姿のお母様と来た日には、そのような魔法が放たれようとも平然としているのですが、なんともはや。

 今日は、なんとスッピンではないですか、ありえませんわ。

 私は遺伝の力を信じたい気持ちでいっぱいです。それにしても前世魔人ですか。前世の正体を見破られて困るのは、転生者たる私の方なのですがね。

「ぐぎゃああああ」
 そう言いながら、魔法で空中に巻き上げられたアリエッタ。

 ですが激しい抵抗を感じます。激しい魔法抵抗が魔法の完全な発言を拒んでいます。このバルバロッサの力をもってして完全に効力を発揮できないですって。そんな馬鹿な。

 国丸ごとを吹き飛ばすような水爆魔法を使用しようというのではないのですよ、この魔法はただの御化粧落としの超強力版なのですが。

 際限なく魔力を食ってしまっていて、どうにもなりません。魔力絶縁状態? そんな馬鹿な。

「何なの、この抵抗力は。まるで……魔女!?」
 ありうる!

 スフレを騙し、諜報を手玉に取り、あっさりとあのような有り得ない婚約破棄劇にこぎ着けた手腕。

 それが一介の男爵令嬢にできた事だろうか。そうか、諜報の連中め、情報を得るためにわざと私を情弱に仕立て上げて敵地に送り込んで囮に使ったわね。許すまじ!

 きっと陛下やうちの親たちもグルに違いないわあ~。

 そして凄まじい、本来なら有り得ないほどの抵抗を続けるアリエッタ。

 うぬう、魔力最大でぶち込んでいるのに、本当なら爆炎魔法なんかを使っていれば、この国が丸ごと吹き飛ぶほどの魔力を込めているというのに!

「ええい、手強いな。くそう、もっと魔力を~」
「それなら僕に任せてー」

「え?」
 私の苦し紛れの悪態に間髪入れずに返答するシナモン。

 一体どうする気なの? さすがの私も、今は結構一杯一杯なのですが。

 ほぼ千日手かと思うような拮抗する攻めと受け。こんなにもアリエッタが手強いなんて。ただのホルスタインだと思っていたら大誤算でしたわ。

 ですが、あの小僧は何かを、ホールの外に置いてあったらしい大量の大きな何かを運んできました。

 大きな台車の上に布がかけられていて中身は見えません。それを大勢の王宮にいる使用人達に手伝わせて持ってきました。

 何をするつもりなのかしら、このような時に。そして、その布が取り払われた瞬間、思わず叫んでしまいました。

「え、あんた! そ、それは~」
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