35 / 66
第一章 渡り人
1-35 従者採用
しおりを挟む
「こ、これは!」
「なんなのだ?」
二人の貴族が理解できない事象を前にまた混乱していたが、マリアは溜息をついて言った。
「坊、こうなっては、もはや隠し事はできぬな」
「えー、そうなりますか~。なんで~⁉」
口裏合わすって言ってくれたやん、おばはん。
「そいつは、おそらくティムだ」
「ティム?」
俺は何の事かわからずに首を傾げたが、冒険者達の反応は違うものだった。
「え、まさか!」
「本当にあるんだな、都市伝説みたいなものだと思っていたよ」
「初めて見たわ、凄いわねー」
「確かに、本物とは違う。実体というには妙に輝いて見えるし。緑色でもない」
「まあ確かにティムの条件は揃っていた気もするな」
「条件?」
俺はそう言ったアネッサに問い質した。
「ああ、ティムっていうのはな。普通に戦ったら絶対に勝てないような、とてつもない強敵、強い魔物を打ち倒した時にのみ、起きる現象なのだ。その他にも条件はあるとされ、簡単に起こるものではないぞ。うちのメンバーでも見たのは、これが初めてだろう。アリエス、お前はどうだ」
「いえ、私も初めてです。うちのチーム……でもなかったと思います」
今は無き古巣のチームに久しぶりに触れた時、少し言葉に詰まったようだ。その肩をイケメンな叔父さんが、そっと抱いている。マリアも言葉を継いだ。
「そうじゃろうな。生半可な事では起きぬ現象よ。だが、そいつはそもそも二歳児じゃ。本当なら雑魚ゴブリンでさえ手に余る。それが、そやつを倒したのだ。
本来であれば、それだけでも十分過ぎるのじゃがな。あと、そやつが誇り高かったというのもあるのだろう。そやつの魂が、命懸けであれこれ大事な物を守ろうと命懸けで戦ったお前を認めたということであろう。のう、狂王よ」
「我、マイロード仕える。マイロード、誇りある者が仕えるのに相応しい方。そして、そんな我の誇りを認め、新しい名をくださった」
おおっ、貴様。こんなにも真っ黒な俺をそんな純真な目で見るなあ~。それを見て笑い転げんばかりのマリア。彼女にだけは俺の黒さを隠せないのだから。
「どうじゃ、坊。そやつを使ってやっては。そいつの魂が迷ってしまってもいかん。それは、そやつを倒したお前の義務でもある。
それにの、それほどのティム、得られることなど滅多にないぞ。冒険者はチームで戦う。それではティムを得られないだろうし、一人では殺されてしまうのが落ちよ。
それに、元の魔物ではない、肉体から解き放たれた存在だから力も凄く増している。このティムは、それ故に神様からのご褒美とも言われるものだ。勇者にだけ与えられる福音よ」
うーむ。これを引き連れて歩くのはちょっと抵抗があるが、少し考えた事がある。
「なあ、お前。俺を乗せて走れる?」
するとそいつは、やおら立ち上がり、俺を抱えると俊敏に走り出した。そして、あっけにとられる面々を置き去りに、あれこれと立体機動まで披露してくれて、原点復帰した。
「うおおっ、なんだ、この素晴らしい乗り心地は。それにこの速さは。採用! ストーガの奴がロバじゃなくってナメクジに思えてきた~」
それを聞いて、片手で頭を掻きながら苦笑いするストーガ。無理もない。その速さに翻弄されて死にかかったのだからな。従者に採用されて嬉しそうに笑う狂王が対照的だ。
「あのう、さっきから状況がさっぱりわからないのだがな。その……」
「まるで、その子がその怪物、ゴブリンの賢者らしき者を倒したかのように聞こえるのだが」
「ええ、その通りですよ」
はっきりとリーダーのアネッサが答えた。この人って、こういうところが男前なんだよなあ。
「ええっ」
「どうやって」
俺はにっこりと笑って胡麻化した。どうせ言っても信じてくれないのだし。
「ようし、これで乗り物は確保したぜー。町まで行くのに一人じゃ行かせてもれないしさ。困っていたんだよ。ね、ね、叔父さん。こいつとなら町に行ってもいいよね」
「う、うむ。どうかな。そいつを町に入れてもらえるだろうか。ね、ねえ領主様」
「お? そ、そうだなあ。どうせなら町の冒険者ギルドで従魔証でも発行してもらえれば、あるいは」
冒険者ギルド!
「それって冒険者にしてもらえるって事だよね!」
二歳にして冒険者資格か! 燃えるぜ。俺のキラキラした目に押されて、領主様もしどろもどろだ。
「あ、いや。ギルドは独立組織だからな。あまり私の方から言ってしまえないのだがね。さすがに二歳の子供を冒険者にしろとまでは」
「じゃあ【実力で】勝ち取るなら問題ないんですね?」
それを聞いて、けたたましく笑うマリア。
「坊、ギルドならわしが口を聞いてやろう。今のギルマスなど昔馴染みの子供だったから、おむつを替えてやった事もあるのじゃ。嫌とは言わさぬわ。はっはっは。まったく坊と一緒におると飽きぬのお」
年季がいっているなあ。ではお言葉に甘えて、そちらはお任せしよう。
「ところで狂王、ここのゴブリンは片付けてもらってしまってもいいかい?」
頷く狂王。そして伯爵はあたりにあった死体を収容して回った。かなり散らばっているから大変な有様だ。
「なんなのだ?」
二人の貴族が理解できない事象を前にまた混乱していたが、マリアは溜息をついて言った。
「坊、こうなっては、もはや隠し事はできぬな」
「えー、そうなりますか~。なんで~⁉」
口裏合わすって言ってくれたやん、おばはん。
「そいつは、おそらくティムだ」
「ティム?」
俺は何の事かわからずに首を傾げたが、冒険者達の反応は違うものだった。
「え、まさか!」
「本当にあるんだな、都市伝説みたいなものだと思っていたよ」
「初めて見たわ、凄いわねー」
「確かに、本物とは違う。実体というには妙に輝いて見えるし。緑色でもない」
「まあ確かにティムの条件は揃っていた気もするな」
「条件?」
俺はそう言ったアネッサに問い質した。
「ああ、ティムっていうのはな。普通に戦ったら絶対に勝てないような、とてつもない強敵、強い魔物を打ち倒した時にのみ、起きる現象なのだ。その他にも条件はあるとされ、簡単に起こるものではないぞ。うちのメンバーでも見たのは、これが初めてだろう。アリエス、お前はどうだ」
「いえ、私も初めてです。うちのチーム……でもなかったと思います」
今は無き古巣のチームに久しぶりに触れた時、少し言葉に詰まったようだ。その肩をイケメンな叔父さんが、そっと抱いている。マリアも言葉を継いだ。
「そうじゃろうな。生半可な事では起きぬ現象よ。だが、そいつはそもそも二歳児じゃ。本当なら雑魚ゴブリンでさえ手に余る。それが、そやつを倒したのだ。
本来であれば、それだけでも十分過ぎるのじゃがな。あと、そやつが誇り高かったというのもあるのだろう。そやつの魂が、命懸けであれこれ大事な物を守ろうと命懸けで戦ったお前を認めたということであろう。のう、狂王よ」
「我、マイロード仕える。マイロード、誇りある者が仕えるのに相応しい方。そして、そんな我の誇りを認め、新しい名をくださった」
おおっ、貴様。こんなにも真っ黒な俺をそんな純真な目で見るなあ~。それを見て笑い転げんばかりのマリア。彼女にだけは俺の黒さを隠せないのだから。
「どうじゃ、坊。そやつを使ってやっては。そいつの魂が迷ってしまってもいかん。それは、そやつを倒したお前の義務でもある。
それにの、それほどのティム、得られることなど滅多にないぞ。冒険者はチームで戦う。それではティムを得られないだろうし、一人では殺されてしまうのが落ちよ。
それに、元の魔物ではない、肉体から解き放たれた存在だから力も凄く増している。このティムは、それ故に神様からのご褒美とも言われるものだ。勇者にだけ与えられる福音よ」
うーむ。これを引き連れて歩くのはちょっと抵抗があるが、少し考えた事がある。
「なあ、お前。俺を乗せて走れる?」
するとそいつは、やおら立ち上がり、俺を抱えると俊敏に走り出した。そして、あっけにとられる面々を置き去りに、あれこれと立体機動まで披露してくれて、原点復帰した。
「うおおっ、なんだ、この素晴らしい乗り心地は。それにこの速さは。採用! ストーガの奴がロバじゃなくってナメクジに思えてきた~」
それを聞いて、片手で頭を掻きながら苦笑いするストーガ。無理もない。その速さに翻弄されて死にかかったのだからな。従者に採用されて嬉しそうに笑う狂王が対照的だ。
「あのう、さっきから状況がさっぱりわからないのだがな。その……」
「まるで、その子がその怪物、ゴブリンの賢者らしき者を倒したかのように聞こえるのだが」
「ええ、その通りですよ」
はっきりとリーダーのアネッサが答えた。この人って、こういうところが男前なんだよなあ。
「ええっ」
「どうやって」
俺はにっこりと笑って胡麻化した。どうせ言っても信じてくれないのだし。
「ようし、これで乗り物は確保したぜー。町まで行くのに一人じゃ行かせてもれないしさ。困っていたんだよ。ね、ね、叔父さん。こいつとなら町に行ってもいいよね」
「う、うむ。どうかな。そいつを町に入れてもらえるだろうか。ね、ねえ領主様」
「お? そ、そうだなあ。どうせなら町の冒険者ギルドで従魔証でも発行してもらえれば、あるいは」
冒険者ギルド!
「それって冒険者にしてもらえるって事だよね!」
二歳にして冒険者資格か! 燃えるぜ。俺のキラキラした目に押されて、領主様もしどろもどろだ。
「あ、いや。ギルドは独立組織だからな。あまり私の方から言ってしまえないのだがね。さすがに二歳の子供を冒険者にしろとまでは」
「じゃあ【実力で】勝ち取るなら問題ないんですね?」
それを聞いて、けたたましく笑うマリア。
「坊、ギルドならわしが口を聞いてやろう。今のギルマスなど昔馴染みの子供だったから、おむつを替えてやった事もあるのじゃ。嫌とは言わさぬわ。はっはっは。まったく坊と一緒におると飽きぬのお」
年季がいっているなあ。ではお言葉に甘えて、そちらはお任せしよう。
「ところで狂王、ここのゴブリンは片付けてもらってしまってもいいかい?」
頷く狂王。そして伯爵はあたりにあった死体を収容して回った。かなり散らばっているから大変な有様だ。
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる