DNAにセーブ&ロード 【前世は散々でしたが、他人のDNAからスキルを集めて、今度こそ女の子を幸せにしてみせます】

緋色優希

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第一章 渡り人

1-36 主たるものは

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 そして、さらに驚愕のイベントが発動した。全ての死体を収納した後、伯爵がひいひい言って休憩していると、いきなり狂王が吠えた。伯爵はお茶に咽て、残りをズボンの上に溢してしまった。

「なんだ、何事だ」
 奴は吠え続けたままで、俺はちょっと困ってしまった。

「ねえ、マリア。ティムって、こんなに吠えるものなの? お母さんに飼っちゃいけないって言われそう」
「さあ、どうだかね」

「お前な、犬じゃねえんだが。だが、あれは何かを呼んでいるような気がしねえか?」
 ストーガはやっぱり、いい勘をしていた。やってきたのは、かつての狂王の部下達。当然の如く、もれなくティムであるようだ。

「ほほう。これはまた壮観じゃのう」
「あわわわ」
 領主様もさすがに腰が引けているようだった。

 何しろ、ゴブリンキングが二百体、ゴブリンリーダーが二千体に、ゴブリンメイジが四千体、都合六千二百体が見事にティムと化しているようだった。雑魚のゴブリンはいなかった。もはやティム旅団といっていいよな、これ。

「これは同期じゃ。これこそ、神話の世界の戯言よ。こんな物をこの目で拝める日が来ようとはなあ。長生きはするものよ」
 だから、あんたは一体幾つなんだ。女の見かけに騙された事なんて星の数ほどあるけどね。

「同期?」
「ああ、賢者の部下達が、賢者に同調してティム化する事じゃ。敵が真の王、王の中の王なればこそ起きる現象よ。そして、その真の王を従える器の者がティムという現象を起こさねば、ありえないという奇跡のようなものじゃ」

「こんなに家で飼ってもらうのは無理だよね。マリア、どうしよう」

「だから犬じゃねえって言っているだろうが。だがマリア姉、なんとかならねえのか。この団体が成仏できずに迷ったなんていったらよ」

「安心せい、こやつらは世界に物理的に干渉できるが、実体はないも同然。下がらせておけば、邪魔にはならん」

「だとよ、坊主」
「やあ、一安心。僕はもう、こいつらの使い道に心当たりがあるのさ」

「ほお、聞かせてもらおうじゃねえか」

「くっくっく。いずれ俺は、おうちの畑で労働しなければならない運命なのさ。ならば、畑で草むしりしてくれる下僕がいるなら大歓迎なのよ。その間に勉強したり、何か金儲けのネタを探したりできるというものよ」

 さすがにストーガも呆れたようだったが、最前列にいる一体のゴブリンメイジが首を傾げている。ん? どうかしたのかな。

 すると、そいつはつかつかと歩いてくると、俺をひょいと後ろから抱き上げた。
「え? おいおい」

 だが、奴は体を捻って見上げる俺に、にっこりといい笑顔を見せて、俺を草地に連れて行って降ろした。えー、どういう事ー?

「あっはっは。偉大なるマイロードともあろう者なら自分の責務は自分で果たしなさいという事だよなあ。主人に過ちがあれば、それを正すのは臣下たるものの務めか。いい家来を持ったじゃないか、アンソニー坊」

 そのマリアの台詞にサムズアップで答えるゴブリンメイジ。なぜか、ティムと化した者は、血肉を備えていなくても俺と情報を電磁交換ができるらしい。何か電磁的な存在なのだろうか。俺はスキル『主の躾』を入手した!

「おおう!」
 それを覗いたマリアがまたしても、大笑いしていた。

 それから、彼らはめいめいの『魔核』を持ち寄って俺に捧げた。主従の誓いという事らしい。

「狂王、ごめんよ。お前の魔核はもう俺の手元にはないんだ」
「ぐふう。構わない、あれはもう、我には必要ない。でも主に貰ってもらえたら皆も嬉しい」

「そうか。わかった、ありがたくその気持ちを受け取っておくよ」

「なるほどな。道理で死体に魔核が一つもなかったわけだ。あのクラスなら大概は持っておるものなのだが」

 納得する伯爵。そして狂王は、何故か刀などの装備を大量に差し出してきた。

「それとこれ。主、碌な武器持ってない。それで、我ら倒した。すごい。でも、主も武器は持つ。人にとり、すべての敵の中で人間が一番恐ろしい。主もいつか人間と戦う時があるかもしれない。だから」

 うわあ、ティムと化したとはいえ、魔物さんにここまで言われてしまう人間様。

「うーん、それらはみんな、僕には大きすぎないかい?」
 そう言ってから気がついた。それがおそらく誰の持ち物だったのか。

 だが、アリエスがそっと後ろから俺の肩に手を置いた。
「あなたが使ってあげてちょうだい。彼らもその方が喜ぶだろうから」

「わかったよ、アリエス。ありがたく頂戴しておくよ。人生先に何があるかなんてわからないからね」
 そしてまだ事態を把握しきれていなくて混乱中の貴族様と一緒に帰還する事にした。

「ねえ、マリア。この子達は何かご飯を食べるの」

「さあな。そういう話は特に聞いた事がないが。それらも世界の理の中で存在する物よ。肉体は持たぬのであるから、食事は摂らぬのではないか? 魔法などが形を取ったとか思っておけばよかろう」

「じゃあ、彼らと最初の仕事をしますか」
 俺はそう言って例のカラスのお食事処を目指していった。

 俺は黙って彼らに向かい、蹂躙されるゴブリンの死骸を指し示した。奴らは何もしない。だが、ずんずんと徒党を組んで歩くだけだ。

 不穏な空気を感じ取ってカラスどもは飛び立った。あちこちに散らばって木に止まっていたが、伯爵がゴブリンの死骸を収納してしまうと、憎々し気に鳴きながら飛び去って行った。

 おそらくは、ゴブリンの兵団を前から見ていて敵わないと知っているのだろう。賢い奴等だ。ティムどもも、皆嬉しそうにしていた。いつまでも仲間の死骸を蹂躙させておくのはよくない気持ちだったらしい。俺の主としての役割第一号だ。
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