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第一章 渡り人
1-38 勤勉なる者へ
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「この子達は本当に働き者ねえ。よかったわ。もうすぐ私も畑に出られなくなりそうだし、あなたはまだ小さいからね」
この図体で小さいとか言われると非常に気恥ずかしいのでありますが。生前も女性から小さいなどと言われた事は一度もありませぬ。いや、何の話だ。
すると、草むしり中の例のメイジがやってきて俺を抱っこした。
「おいおい、まさか」
そして、自分の隣に置いて「早う、旦那様も早う」と草むしりするよう手招きした。
「あう」
それを見た母上ときたらコロコロとお笑いになられておる。
「マイロードは人(ティム)の上に立つお方。何事も率先してやらねば。そう、それは人の言葉で確か【ノブレス・オブリージュ】と呼ばれるもの」
なんで、お前らがそんな言葉を知っているんだよ。これも『世界』とやらの策略か⁉
だが、お母上はそんな俺の様子を可愛らしいと思ったのか、微笑ましそうに庭に置かれた父上謹製の藤家具である椅子に腰かけておられる。しゃあねえ、ここは気張るか。
「お前ら。雑草ごとき雑兵は一本たりとも許すな」
「「「おー」」」
後ろでポトっと音がしたので振り返ると、父上が鋤を取り落としていた。
「な、なにをやっているんだい、アンソニー」
若干声が震えるのは仕方があるまい。あの時絶望と共に、こいつらと対峙していたのだからな。
「んー、草むしりのお手伝い」
更に絶句している父がいる。ああ、無理もないけど。嘘は言っていないのは父も認めてくれたようだ。まさに見たまんまだからな。認識がついていっていないようだが。
「あら、あなた。この子達、アンソニニーが拾ってきたんですって。よく働くのよ」
「アンソニー。その子達はいったい……」
うん、兄さまは普通だな。兄さまは。だが。
「やったあ。なんだか知らないけれど、代わりに草むしりしてくれる奴を連れてきてくれるなんて。アンソニー、冴えてるー。二度寝しようっと」
それを聞いて呆れる両親。だが、やはり例のメイジが素早く小走りに駆けよってミョンデ姉をひょいっと持ち上げると、俺の隣に連れてきた。
「え? え? ええ? ちょっとアンソニー。どうなっているの、これは」
「馬鹿だなあ、お姉ちゃんは。僕が草むしりさせられているのが目に入らなかったの? さっさと布団の中に逃げ帰っておけばよかったのに、余計な事を言うから。
こいつら、躾には凄く厳しいんだから。僕を一人前の主に育て上げようとしているんだ。お姉ちゃんは、こいつらから僕の目上と判断されているようだから、さらに僕の規範となるようにという事で手厳しいと思うぜ」
「な、な、なんですってー。この馬鹿アンソニー。あんた、なんてものを拾ってきたのよ」
「しょうがないだろ、捨ててくるわけにはいかなかったんだから。まとめて懐いちゃったんだよ」
だが、その一幕は両親には馬鹿受けだった。
「いや、アンソニー。これだけ笑わせてもらったのは久しぶりだよ。そうか、そうか。それは悪しきものではないんだな?」
「ご覧の通り、勤勉、いや勤勉過ぎる僕の従者達ですが、それが何か」
ミョンデ姉が世界を呪う言葉と、家族の笑い声だけが畑を賑わしていた。
とりあえず、翌日にまず村長のところへ奴らを案内した。もちろん、その前にミョンデ姉ともども、例のメイジゴブリンに叩き起こされて草むしりはさせられたのだがな。
そして、当然のように村長も固まってしまった。彼らはもう緑色はしておらず、発光したかのような不思議なシルエットをしていたのだが、その雄姿は見間違えようはずもない。
「そ、それでアンソニー。お前はなんでそんな者たちを?」
「ああ、僕が引き取ってこないと、成仏できないで迷ってしまいそうなので」
「す、すると、あのゴブリン達の幽霊という事なのかね?」
「違いますね。別の存在に変わったという事らしいです。それでですね。せっかくたくさんいるんだから、少し村の守備に回しておいてもいいかなとか思って。あと村の手伝いが何かあれば。
ただ、いろいろ手厳しい連中ですから村の人から不満が出ちゃうかもしれないんで、そっちは本当に困った時だけで。こいつら勤勉なので怠け者が嫌いでしてね。かくいう二歳児の僕ももう畑で働かせられていますよ」
村長は少し考えていたが、訊いてきた。
「全部でどれくらいおるのかね?」
「六千二百」
「村の人口の十倍以上ではないか。わっはっは。お前ときたら本当にもう」
うちは小村でございますので。でも、うちを越えると山になってしまうので、うちの村を起点に金魚の糞のように村が伸びているのだ。
そして、隣の領地の村まで繋がっている。ただの村道だけど。でも、うちの村は裕福な方よ?
山の幸はあるし、水は豊富だし、街は日帰りできるし。おかげで、うちともう一つ前の村だけは、小村なのに宿屋兼食堂は二軒ずつあるのだ。
それだけが心のオアシスさ。料理してもらえる獲物には事欠かないし、毛皮や皮革の加工品でも食事代は払える。
奥の方の村なんか宿屋どころか食堂が一件も無い村もあるのだ。そもそも街道から大きく外れた奥地なんで旅人も商人も来ないからな。領主様も日頃は倹約されるはずだわ。
だが周辺領地では放蕩貴族の領主もいて大変なところもあるのだから、俺は幸せさ。いつか行くぜ、隣村の食堂。獲物肉をどんっと振る舞って、料理を作ってもらうのが夢なのさ。
たった5キロ先の村へまだ一人では行かせてもらえない、悲しき二歳児。新ロバは手に入ったのだが、あれで隣村に入ると矢がいっぱい飛んできそうだ。
この図体で小さいとか言われると非常に気恥ずかしいのでありますが。生前も女性から小さいなどと言われた事は一度もありませぬ。いや、何の話だ。
すると、草むしり中の例のメイジがやってきて俺を抱っこした。
「おいおい、まさか」
そして、自分の隣に置いて「早う、旦那様も早う」と草むしりするよう手招きした。
「あう」
それを見た母上ときたらコロコロとお笑いになられておる。
「マイロードは人(ティム)の上に立つお方。何事も率先してやらねば。そう、それは人の言葉で確か【ノブレス・オブリージュ】と呼ばれるもの」
なんで、お前らがそんな言葉を知っているんだよ。これも『世界』とやらの策略か⁉
だが、お母上はそんな俺の様子を可愛らしいと思ったのか、微笑ましそうに庭に置かれた父上謹製の藤家具である椅子に腰かけておられる。しゃあねえ、ここは気張るか。
「お前ら。雑草ごとき雑兵は一本たりとも許すな」
「「「おー」」」
後ろでポトっと音がしたので振り返ると、父上が鋤を取り落としていた。
「な、なにをやっているんだい、アンソニー」
若干声が震えるのは仕方があるまい。あの時絶望と共に、こいつらと対峙していたのだからな。
「んー、草むしりのお手伝い」
更に絶句している父がいる。ああ、無理もないけど。嘘は言っていないのは父も認めてくれたようだ。まさに見たまんまだからな。認識がついていっていないようだが。
「あら、あなた。この子達、アンソニニーが拾ってきたんですって。よく働くのよ」
「アンソニー。その子達はいったい……」
うん、兄さまは普通だな。兄さまは。だが。
「やったあ。なんだか知らないけれど、代わりに草むしりしてくれる奴を連れてきてくれるなんて。アンソニー、冴えてるー。二度寝しようっと」
それを聞いて呆れる両親。だが、やはり例のメイジが素早く小走りに駆けよってミョンデ姉をひょいっと持ち上げると、俺の隣に連れてきた。
「え? え? ええ? ちょっとアンソニー。どうなっているの、これは」
「馬鹿だなあ、お姉ちゃんは。僕が草むしりさせられているのが目に入らなかったの? さっさと布団の中に逃げ帰っておけばよかったのに、余計な事を言うから。
こいつら、躾には凄く厳しいんだから。僕を一人前の主に育て上げようとしているんだ。お姉ちゃんは、こいつらから僕の目上と判断されているようだから、さらに僕の規範となるようにという事で手厳しいと思うぜ」
「な、な、なんですってー。この馬鹿アンソニー。あんた、なんてものを拾ってきたのよ」
「しょうがないだろ、捨ててくるわけにはいかなかったんだから。まとめて懐いちゃったんだよ」
だが、その一幕は両親には馬鹿受けだった。
「いや、アンソニー。これだけ笑わせてもらったのは久しぶりだよ。そうか、そうか。それは悪しきものではないんだな?」
「ご覧の通り、勤勉、いや勤勉過ぎる僕の従者達ですが、それが何か」
ミョンデ姉が世界を呪う言葉と、家族の笑い声だけが畑を賑わしていた。
とりあえず、翌日にまず村長のところへ奴らを案内した。もちろん、その前にミョンデ姉ともども、例のメイジゴブリンに叩き起こされて草むしりはさせられたのだがな。
そして、当然のように村長も固まってしまった。彼らはもう緑色はしておらず、発光したかのような不思議なシルエットをしていたのだが、その雄姿は見間違えようはずもない。
「そ、それでアンソニー。お前はなんでそんな者たちを?」
「ああ、僕が引き取ってこないと、成仏できないで迷ってしまいそうなので」
「す、すると、あのゴブリン達の幽霊という事なのかね?」
「違いますね。別の存在に変わったという事らしいです。それでですね。せっかくたくさんいるんだから、少し村の守備に回しておいてもいいかなとか思って。あと村の手伝いが何かあれば。
ただ、いろいろ手厳しい連中ですから村の人から不満が出ちゃうかもしれないんで、そっちは本当に困った時だけで。こいつら勤勉なので怠け者が嫌いでしてね。かくいう二歳児の僕ももう畑で働かせられていますよ」
村長は少し考えていたが、訊いてきた。
「全部でどれくらいおるのかね?」
「六千二百」
「村の人口の十倍以上ではないか。わっはっは。お前ときたら本当にもう」
うちは小村でございますので。でも、うちを越えると山になってしまうので、うちの村を起点に金魚の糞のように村が伸びているのだ。
そして、隣の領地の村まで繋がっている。ただの村道だけど。でも、うちの村は裕福な方よ?
山の幸はあるし、水は豊富だし、街は日帰りできるし。おかげで、うちともう一つ前の村だけは、小村なのに宿屋兼食堂は二軒ずつあるのだ。
それだけが心のオアシスさ。料理してもらえる獲物には事欠かないし、毛皮や皮革の加工品でも食事代は払える。
奥の方の村なんか宿屋どころか食堂が一件も無い村もあるのだ。そもそも街道から大きく外れた奥地なんで旅人も商人も来ないからな。領主様も日頃は倹約されるはずだわ。
だが周辺領地では放蕩貴族の領主もいて大変なところもあるのだから、俺は幸せさ。いつか行くぜ、隣村の食堂。獲物肉をどんっと振る舞って、料理を作ってもらうのが夢なのさ。
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