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第一章 渡り人
1-49 スキル電磁付与
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「いやあ、本当にお世話かけました」
そのペローと呼ばれる青年は、人が好さそうな童顔に笑顔を乗せてぺこぺこした。
狂王に。彼は巨大な狂王をまったく恐れていないようだ。救世主にしか見えないのだろう。他の連中は遠巻きにしているのだが。
「助けたのは、マイロード!」
そう言って狂王は俺を指さした。
「ああ、あなた様が主様でしたか。この度はどうも」
うーん、この世界は子供でも貴族だったりすると平民よりも身分が上なので、みんな子供に頭を下げるのには抵抗がないらしい。まあいいのだけれども。
「もういいですよ。じゃもう行ってもいいかな。先を急ぐので」
「どうも、どうも」
何か日本人みたいな雰囲気を放っている。まさか、こいつ? いや違ったようだ。一通りチェックしてみたが、彼らはたいしたスキルを持っていない。何もストックできなかった。ならば特に用はないのだ。
いらん事で時間を食ってしまった。まだ大丈夫だな。向こうでは伯爵の家に泊まれるので、宿泊の心配はないのだし。まあ遅くなるようなら少しスピードを上げてもらえばいいか。そして、いい塩梅の森があった。
「よーし、お昼御飯にしようよ」
「さんせーい」
「へえ、こんな森でかい?」
「だって獲物を獲らないと」
「今から狩るのかい!」
「ちょっと待っててねー」
もう獲物は見つけてある。鹿とウサギだ。狂王達は番をさせておいて、さっと狩りに出た。ティムを数体呼んで、勢子を務めさせてこちらへ追わせ、あっさりと弓で仕留めたのだ。
最近は彼らにもスキルを与えてある。彼らと俺の間で情報の電磁交換が可能なのは確認済みなので、解体スキルを電磁付与したティムに解体を任せ、俺は先にウサギを持って戻った。
「あれ、早かったね」
「うん、もう当たりをつけておいてから、あの場所で止まったから」
「そんな事できるのかね」
「できますよ。ばあや、はいウサギ肉」
「はいはい」
当然の事ながら、ばあやには料理スキルを与えてあるのだ。すでに下準備は整っていた。
竈の一つには水を入れた鍋がかけられていて、お湯が沸いている。もう一つの竈では串に刺して焼く準備が整えられていた。
「ウサギだけ?」
食い意地の張ったミョンデ姉がそう訊いてくる。まあ人生の一大関心事だものね。
「もうすぐ鹿が届くよ。あ、もう来た」
数体がかりでスキル解体を行っているので、とてつもなく早い。あれこれと差し出してきた。
付け合わせの新鮮な野草も届いた。彼らも調理を手伝ったので、次々と料理が作り上げられていく。残りはサンドイッチなどに作られていった。そして、ある物も作っていた。
「アンソニー、その丸いパンはなんだね?」
「これはバンズ。ハンバーガー用のパンですよ。収納に入れておけば温かいままだから、後で美味しく食べられる」
「ああ、私が持てばいいのだね?」
「いえ」
最初はキョトンとした伯爵だったが、すぐに気が付いて笑いだした。
「はっはっは。まったく油断がならん小僧だな。そうか、もう盗られていたのか。やれやれ。悪用はやめてくれよ。私が怒られる」
「わかってます。万引きとか絶対にやりませんよ」
もう悪用したら好きに盗み放題だからな、このスキル。
「万引きって何かね」
「お店で堂々と盗みを働く事です。正確には、店の人間のいる前でこっそりバレないように盗む事ですね。元いた世界では空き巣よりも多いですね」
「わからんな。何故簡単にバレるような盗み方の方が多いのか」
「素人の盗み方です。素人には鍵とか閉まっていたら開けられないでしょう」
「そういうものか」
それから出発したのだが、俺達は眠くなってそのまま寝てしまった。こういう時に狂王達は、揺り籠モードで走行してくれるので安眠できる。伯爵も寝かしつけられていたのではないだろうか。
だが誰かに起こされた。お願い、あと五分~。あれっ、よく見たら狂王だ。
「うー、なんだい。もう王都に着いたのー」
「マイロード、あれ」
「え?」
俺は寝ぼけ眼で狂王が指さした方を見たら、紋章のような物を入れた商人の物らしき馬車が止まっていた。
よく見ると周りを馬に乗った男達が各馬車を数人で囲んでいて、傍には十人くらいの矢で射られた男達の死体が転がっている。
風体からすると冒険者だ。護衛がやられちまったのか。足を溜めていた裸馬と歩きづめの馬車じゃ勝負にもならない。逃走は最初から諦めたのだろう。
男達は日除けに大きく鍔のついた帽子を被り、口元は布で覆っていた。まるで西部劇の襲撃者だ。生憎、二丁拳銃は持っていないようだった。
「あらまあ」
「どうする、マイロード」
「どうしようね」
だが、男達に脅されて馬車の中から出てきたのは、青ざめた顔色の、まるでお姫様のように綺麗なドレス姿をした緑の目の金髪女性だった。
これがこのキャラバンの主なのだろうか。一緒に出てきた、お付きの人は栗色で青い目か。もなかなか可愛いな。こっちは少し活動的なラフなドレスのようだった。他の人は中に引きこもっているようだ。
「よし! 騎兵隊が助けに行くとしよう」
彼らは間抜けな事に、少し離れたところにいた俺達に気がついていないようだった。
そのペローと呼ばれる青年は、人が好さそうな童顔に笑顔を乗せてぺこぺこした。
狂王に。彼は巨大な狂王をまったく恐れていないようだ。救世主にしか見えないのだろう。他の連中は遠巻きにしているのだが。
「助けたのは、マイロード!」
そう言って狂王は俺を指さした。
「ああ、あなた様が主様でしたか。この度はどうも」
うーん、この世界は子供でも貴族だったりすると平民よりも身分が上なので、みんな子供に頭を下げるのには抵抗がないらしい。まあいいのだけれども。
「もういいですよ。じゃもう行ってもいいかな。先を急ぐので」
「どうも、どうも」
何か日本人みたいな雰囲気を放っている。まさか、こいつ? いや違ったようだ。一通りチェックしてみたが、彼らはたいしたスキルを持っていない。何もストックできなかった。ならば特に用はないのだ。
いらん事で時間を食ってしまった。まだ大丈夫だな。向こうでは伯爵の家に泊まれるので、宿泊の心配はないのだし。まあ遅くなるようなら少しスピードを上げてもらえばいいか。そして、いい塩梅の森があった。
「よーし、お昼御飯にしようよ」
「さんせーい」
「へえ、こんな森でかい?」
「だって獲物を獲らないと」
「今から狩るのかい!」
「ちょっと待っててねー」
もう獲物は見つけてある。鹿とウサギだ。狂王達は番をさせておいて、さっと狩りに出た。ティムを数体呼んで、勢子を務めさせてこちらへ追わせ、あっさりと弓で仕留めたのだ。
最近は彼らにもスキルを与えてある。彼らと俺の間で情報の電磁交換が可能なのは確認済みなので、解体スキルを電磁付与したティムに解体を任せ、俺は先にウサギを持って戻った。
「あれ、早かったね」
「うん、もう当たりをつけておいてから、あの場所で止まったから」
「そんな事できるのかね」
「できますよ。ばあや、はいウサギ肉」
「はいはい」
当然の事ながら、ばあやには料理スキルを与えてあるのだ。すでに下準備は整っていた。
竈の一つには水を入れた鍋がかけられていて、お湯が沸いている。もう一つの竈では串に刺して焼く準備が整えられていた。
「ウサギだけ?」
食い意地の張ったミョンデ姉がそう訊いてくる。まあ人生の一大関心事だものね。
「もうすぐ鹿が届くよ。あ、もう来た」
数体がかりでスキル解体を行っているので、とてつもなく早い。あれこれと差し出してきた。
付け合わせの新鮮な野草も届いた。彼らも調理を手伝ったので、次々と料理が作り上げられていく。残りはサンドイッチなどに作られていった。そして、ある物も作っていた。
「アンソニー、その丸いパンはなんだね?」
「これはバンズ。ハンバーガー用のパンですよ。収納に入れておけば温かいままだから、後で美味しく食べられる」
「ああ、私が持てばいいのだね?」
「いえ」
最初はキョトンとした伯爵だったが、すぐに気が付いて笑いだした。
「はっはっは。まったく油断がならん小僧だな。そうか、もう盗られていたのか。やれやれ。悪用はやめてくれよ。私が怒られる」
「わかってます。万引きとか絶対にやりませんよ」
もう悪用したら好きに盗み放題だからな、このスキル。
「万引きって何かね」
「お店で堂々と盗みを働く事です。正確には、店の人間のいる前でこっそりバレないように盗む事ですね。元いた世界では空き巣よりも多いですね」
「わからんな。何故簡単にバレるような盗み方の方が多いのか」
「素人の盗み方です。素人には鍵とか閉まっていたら開けられないでしょう」
「そういうものか」
それから出発したのだが、俺達は眠くなってそのまま寝てしまった。こういう時に狂王達は、揺り籠モードで走行してくれるので安眠できる。伯爵も寝かしつけられていたのではないだろうか。
だが誰かに起こされた。お願い、あと五分~。あれっ、よく見たら狂王だ。
「うー、なんだい。もう王都に着いたのー」
「マイロード、あれ」
「え?」
俺は寝ぼけ眼で狂王が指さした方を見たら、紋章のような物を入れた商人の物らしき馬車が止まっていた。
よく見ると周りを馬に乗った男達が各馬車を数人で囲んでいて、傍には十人くらいの矢で射られた男達の死体が転がっている。
風体からすると冒険者だ。護衛がやられちまったのか。足を溜めていた裸馬と歩きづめの馬車じゃ勝負にもならない。逃走は最初から諦めたのだろう。
男達は日除けに大きく鍔のついた帽子を被り、口元は布で覆っていた。まるで西部劇の襲撃者だ。生憎、二丁拳銃は持っていないようだった。
「あらまあ」
「どうする、マイロード」
「どうしようね」
だが、男達に脅されて馬車の中から出てきたのは、青ざめた顔色の、まるでお姫様のように綺麗なドレス姿をした緑の目の金髪女性だった。
これがこのキャラバンの主なのだろうか。一緒に出てきた、お付きの人は栗色で青い目か。もなかなか可愛いな。こっちは少し活動的なラフなドレスのようだった。他の人は中に引きこもっているようだ。
「よし! 騎兵隊が助けに行くとしよう」
彼らは間抜けな事に、少し離れたところにいた俺達に気がついていないようだった。
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