デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-12 警戒の朝

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 朝方になって、俺は愛犬の頭をそっと撫でた。

 彼は「くぅ~ん」と小さく一声、彼を想い、今も寄り沿ってくれている二人の少女を起こさないように甘えるように鳴いて、ペロリっと俺の手を舐めた。

 こいつが小さな子犬の頃もよくそういう仕草をしたな。

 こういう甘えた様子を見せるという事は、この子も少し心が弱っているのかもしれない。

 まあ無理もない。

 子犬からやっと大人に変わりかけている、いわゆる図体だけでかい子供のような物なので、いわゆる『こどな』という時期を迎えた若駒のフェンリルなのだ。

 俺はもう一度、彼の頭をくしゃくしゃと撫でてやり、その独特な金色の目を細めさせると辺りの様子を伺った。

 あれから少し移動して、よさそうな場所を見つけて隠れていたのだが、いかんせん俺やシルバーは図体がでかいので、隠れていられる場所は限定されてしまうのが痛い。

 まさか、この魔神とさえ呼ばれた俺ともあろう者が、このようにこそこそしないといけない破目に陥ろうとは夢にも思わなかった。

 想定外は許されない、とは日本にいた頃にはよく聞いた言葉であるものの、さすがにトリプルΩの魔神ギガント様でこれはないだろうに。

 俺は溜息と共に、肺活量がちょっとしたトラックの荷量並みにある肺から言葉を絞り出した。

「ふう。どうやら今のところ、攻めてきている者はいないか」

 俺は例の特別な知覚のカーテンで周囲を警戒しており、特にそれに引っかかる感触はないのだが、とても油断が出来る状況ではない。

 敵は強大な征服国家の莫大な金を惜しみなく使い、凄まじい精鋭を投入してきている。

 あの子達の祖国は帝国にとってそれほどまでに価値があり、帝国とやらはそこまでも力がある国なのか。

 そのあたりの事情を、一度あの子達に聞いてみねばなるまい。

 そして、なんとしてもここは凌がねばならないシーンなのだが、魔神とも言われる俺の知覚力は無敵に近いが、それでも膨大な情報全てを処理しきれるわけではない。

 逆に、なまじ能力が高すぎて流入する情報量が多過ぎるが故、その処理に対して膨大なリソースが要求されるのだ。

 今のような完全警戒態勢では、その範囲は非常に狭くなる。
 せいぜい半径二キロメートルといったところか。

 それでは、手練れに攻め込まれた時には、あっという間に詰められてしまうだろう。

 この前の敵達は、短距離とはいえマラソン選手の速度に倍するスピードを持っていた。

 この雪中の山地にて、人間がまるで熊並みの速度を出すのだから参る。

 彼らは魔法による速度ブーストをかけていた可能性もあり、それだと次の刺客達も、それを使って電撃戦を挑んでくるだろう。

 一般兵が加速装置付きとか本当に勘弁してくれ。

 俺一人であるならばそれでも何の問題もなく、周囲を地獄に変えてしまってもいいのであれば、多数の手勢を相手にしても負ける道理はどこにもない。

 だが、今は守る者達も複数おり、一緒に戦ってくれる戦力もない。
 子供達の足さえ奪われた。

 俺がそれを務めると、見つかりやすい上に戦い辛いので一気に情勢が詰んでしまう。

 だから今はここに身を隠し、じっと息を潜めているのだ。

 止むを得ないので、俺のセンサーを二種類に分けた。
 能力はそれぞれが各半分くらいになってしまうが、今は仕方がない。

 贅沢を言っていられるような場合ではないのだ。

 一つは完全防備のあらゆる知覚力を用いる絶対知覚圏だが範囲は著しく狭くなり、もう一つは地球でもよく使われる『赤外線センサー』のみの知覚圏の構成だ。

 これは熱センサーではなく、防犯などによく用いられる赤外線を何かが遮断した時に反応するレーザーセンサーのような知覚だ。

 大きさも、小さな物の動きは遮断した。

 あまり複雑な処理は行わずに、ただ知覚圏内で一定の大きさ以上の物が動いたら報せるという簡易な物だ。

 これなら半径十キロメートルくらいまでカバーできるので、平坦な地上なら地平線の向こうまでカバーできる。

 この辺りでも相当有用なスキルだ。
 ただし、手の込んだ斥候などは探知できない。

 たとえば、小動物に意識を憑依させて偵察する能力とか、ティムした小さな魔物を使い魔として使役されたような場合などは完全スルーとなってしまう。

 まあ今は状況が厳しいので、戦闘部隊が来たら探知するようセッティングしたという苦しい状況だ。

 これもシルバーがいてくれれば、この前の時のように補佐してくれるのでかなり助かるのだが、そんな事を言っていられる時ではないのだ。

 守らねばならない者達を、守りたい者達を俺が護り切らねばならん。

 幸いにして、この能力は平面だけに展開できるのではなく、ドーム状に広がるので半径一万メートル以内に接近する者は航空戦力でも捉えやすい。

 問題は俺の脳の処理能力にあるため、むしろ数が少なく敵の図体も大きそうな、空から来る敵にはそのリソースを食われずに済むだろう。

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