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第一章 孤独の果てに
1-13 厳冬山岳の籠城
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「グーバンガルフ」
朝の陽光に目覚めた小鳥が鳴くような涼やかな少女の声に、俺は振り向いて自然な笑顔を見せた。
「グーバンガルフ、アリエス。
気分はどうだ」
「ありがとう、平気よ。
でもメリーベルは少し参っているみたい。
なんていうか、お友達というか弟みたいに可愛がっているシルバーが、あんな風に無残にやられちゃったのが凄くショックみたいで。
心配でしょうがないのよ」
「ああ、無理もない。
厳しい逃避行が続いた中で、まだ幼い自分にもっとも近しいような存在に出会って、やっと心が緩みかけたところでこんな事になってしまったのだからな。
すべては俺の不徳が招いたものだ、許せアリエス」
だが、彼女はくすくすと笑って近寄ってくると俺の下側の左手を取った。
「どうして、ジンはそんな風に自分を責めるの。
あなたは私達のために、あんなに一生懸命に戦ってくれて、今も皆を護ろうとしてくれているのに。
世界一強くて、世界一優しくて、世界一誇り高く気高い、私達の魔神の騎士」
そう言って、アリエスはそっと俺の手の甲に、まるで大切な物にするかのように何度も頬ずりした。
その寄せられた心に俺も思わず心が熱くなった。
なんとしても、この子達を親族の元に送り届けてやらねばなるまい。
この異形で、何者からも受け入れられぬ魔物の俺をこうも慕ってくれる、この子達を。
どうせ人ならぬこの身なのだ、異界から迷い込んだ魂は同じ魔物からさえも異形の物と見做されるだろう。
おそらくは何物にも相容れられないだろうよ。
俺の孤独は生涯尽きまい。
そしていつかは勇者だの最強冒険者などという輩達に、ただの化け物などという扱いで狩られてしまうかもと思っていた。
それくらいならば、この命、この異形を友と呼んでくれる小さな者達のために喜んで使おう。
だが、そう易々とこの首は獲らせはせん。
何故なら、この子達はまだ旅の鳥羽口にさえ立っていない。
陸路なり海路なりで、親族の待つ目的地への算段が付いて、初めてこの子達の旅は始まったと言えるのだから。
今はただ逃げ回って彷徨っているだけの状態なのだ。
まずは全員で生き延びる。話はそこからだ。
「アリエスよ、今この世界はどうなっている?
俺はその手の事にはあまり関心を払ってこなかった。
知ったところで特に関わる事もないだろうからな。
挑んできた冒険者から様々な話は聞かせてもらったのだが、政治や国家体制のような世界情勢は皆目わからぬに等しい。
お前の国は大国だったか?
お前の国を滅ぼしたという帝国とやらは強いのか」
アリエスは少し口籠った。
なんというか、話したくないとかいうのではなく、何から説明したものかというような様であった。
「それでは話は朝食を摂ってからにしよう。
いきなり敵が現れたならば、飯を食いっぱぐれるぞ。
メリーベルも起こしてきなさい」
「そうね。
この前も出がけに敵がわんさかと来ちゃったものね」
そう言って彼女は妹を揺さぶって起こしていた。
ルーは食事の用意をしてくれている。
寝ぼけ眼をこすりながらメリーベルは起きてきて、ほぼ出来合いの食事を始めた。
子供達は白雪で彩られた屋外のオープンテラスの中で、ただの木材を切り出したようなテーブルセットの上で定番の食事を始め、俺は雪の上に胡坐をかいたまま山羊の肉を齧った。
内臓に一撃もらってまだ弱っているシルバーには生肉ではなく、肉入りのスープが与えられ、奴ものそっと起き上がり伏せのような体勢を取った。
毒弾は既に取り出してあり毒はもう抜けているし、体も回復させたので別にシルバーもまったく動けないわけではない。
だが弱ってしまったあの子は以前の体を取り戻すまでに少し時間を要した。
だから俺は移動せずにここで待っているのだ。
新たな敵の攻撃を。
もう追撃者の存在はバレているから奇襲はしてくるまい。
敵は焦ってはいない。
むしろ、物量作戦で動きの取れない状態の俺達を押し潰そうとしてくるだろう。
俺は腹を括ってそいつを待ち受けて、大群相手に痛恨の一撃をくれてやろうというわけなのだ。
できたら昼中に大軍勢が来てくれると非常にありがたい。
一応考えている策はあるのだが、そいつが使えるかどうかは時間が鍵となる。
まあなければないで、こちらも物量というか、俺の圧倒的な攻撃で広範囲の面制圧を行うまでだ。
幸いな事にこの山岳地帯は無人に等しいので、というか完全に無人地帯だから死ぬのは奴らだけなので都合がいいといえば都合はいい。
無関係な人間は絶対に巻き込みたくないのだ。
それもあって戦場にこの無人地帯を選んだ。
ここで徹底的な戦いを演じて俺の力を示し、有人地帯で奴らが簡単に手を出せないようにするためだ。
ここはまだアリエス達の占領されてしまった国の中にあたるので奴らも大っぴらに行動できるのだが、この険しい山岳地帯を抜けてしまえば他国の領土での戦争となる。
そいつらがまた帝国の味方であるなら厄介な事になるのだが。
そういう事もあってアリエスと話がしたい。
とにかく、ここでの一戦が俺達の運命を死と生、あるいは虜囚とに分かつだろう。
別に俺が殺人狂な訳ではないが、無体に軍勢で追い詰めようというのであれば、こっちだって黙ってやられるわけにはいかない。
もう死にたい奴だけかかってこいという感じだった。
なんで、こんな事になってしまったのかねえ。
まあ軍勢を相手に十分に戦える力があるだけまだマシなのだが。
朝の陽光に目覚めた小鳥が鳴くような涼やかな少女の声に、俺は振り向いて自然な笑顔を見せた。
「グーバンガルフ、アリエス。
気分はどうだ」
「ありがとう、平気よ。
でもメリーベルは少し参っているみたい。
なんていうか、お友達というか弟みたいに可愛がっているシルバーが、あんな風に無残にやられちゃったのが凄くショックみたいで。
心配でしょうがないのよ」
「ああ、無理もない。
厳しい逃避行が続いた中で、まだ幼い自分にもっとも近しいような存在に出会って、やっと心が緩みかけたところでこんな事になってしまったのだからな。
すべては俺の不徳が招いたものだ、許せアリエス」
だが、彼女はくすくすと笑って近寄ってくると俺の下側の左手を取った。
「どうして、ジンはそんな風に自分を責めるの。
あなたは私達のために、あんなに一生懸命に戦ってくれて、今も皆を護ろうとしてくれているのに。
世界一強くて、世界一優しくて、世界一誇り高く気高い、私達の魔神の騎士」
そう言って、アリエスはそっと俺の手の甲に、まるで大切な物にするかのように何度も頬ずりした。
その寄せられた心に俺も思わず心が熱くなった。
なんとしても、この子達を親族の元に送り届けてやらねばなるまい。
この異形で、何者からも受け入れられぬ魔物の俺をこうも慕ってくれる、この子達を。
どうせ人ならぬこの身なのだ、異界から迷い込んだ魂は同じ魔物からさえも異形の物と見做されるだろう。
おそらくは何物にも相容れられないだろうよ。
俺の孤独は生涯尽きまい。
そしていつかは勇者だの最強冒険者などという輩達に、ただの化け物などという扱いで狩られてしまうかもと思っていた。
それくらいならば、この命、この異形を友と呼んでくれる小さな者達のために喜んで使おう。
だが、そう易々とこの首は獲らせはせん。
何故なら、この子達はまだ旅の鳥羽口にさえ立っていない。
陸路なり海路なりで、親族の待つ目的地への算段が付いて、初めてこの子達の旅は始まったと言えるのだから。
今はただ逃げ回って彷徨っているだけの状態なのだ。
まずは全員で生き延びる。話はそこからだ。
「アリエスよ、今この世界はどうなっている?
俺はその手の事にはあまり関心を払ってこなかった。
知ったところで特に関わる事もないだろうからな。
挑んできた冒険者から様々な話は聞かせてもらったのだが、政治や国家体制のような世界情勢は皆目わからぬに等しい。
お前の国は大国だったか?
お前の国を滅ぼしたという帝国とやらは強いのか」
アリエスは少し口籠った。
なんというか、話したくないとかいうのではなく、何から説明したものかというような様であった。
「それでは話は朝食を摂ってからにしよう。
いきなり敵が現れたならば、飯を食いっぱぐれるぞ。
メリーベルも起こしてきなさい」
「そうね。
この前も出がけに敵がわんさかと来ちゃったものね」
そう言って彼女は妹を揺さぶって起こしていた。
ルーは食事の用意をしてくれている。
寝ぼけ眼をこすりながらメリーベルは起きてきて、ほぼ出来合いの食事を始めた。
子供達は白雪で彩られた屋外のオープンテラスの中で、ただの木材を切り出したようなテーブルセットの上で定番の食事を始め、俺は雪の上に胡坐をかいたまま山羊の肉を齧った。
内臓に一撃もらってまだ弱っているシルバーには生肉ではなく、肉入りのスープが与えられ、奴ものそっと起き上がり伏せのような体勢を取った。
毒弾は既に取り出してあり毒はもう抜けているし、体も回復させたので別にシルバーもまったく動けないわけではない。
だが弱ってしまったあの子は以前の体を取り戻すまでに少し時間を要した。
だから俺は移動せずにここで待っているのだ。
新たな敵の攻撃を。
もう追撃者の存在はバレているから奇襲はしてくるまい。
敵は焦ってはいない。
むしろ、物量作戦で動きの取れない状態の俺達を押し潰そうとしてくるだろう。
俺は腹を括ってそいつを待ち受けて、大群相手に痛恨の一撃をくれてやろうというわけなのだ。
できたら昼中に大軍勢が来てくれると非常にありがたい。
一応考えている策はあるのだが、そいつが使えるかどうかは時間が鍵となる。
まあなければないで、こちらも物量というか、俺の圧倒的な攻撃で広範囲の面制圧を行うまでだ。
幸いな事にこの山岳地帯は無人に等しいので、というか完全に無人地帯だから死ぬのは奴らだけなので都合がいいといえば都合はいい。
無関係な人間は絶対に巻き込みたくないのだ。
それもあって戦場にこの無人地帯を選んだ。
ここで徹底的な戦いを演じて俺の力を示し、有人地帯で奴らが簡単に手を出せないようにするためだ。
ここはまだアリエス達の占領されてしまった国の中にあたるので奴らも大っぴらに行動できるのだが、この険しい山岳地帯を抜けてしまえば他国の領土での戦争となる。
そいつらがまた帝国の味方であるなら厄介な事になるのだが。
そういう事もあってアリエスと話がしたい。
とにかく、ここでの一戦が俺達の運命を死と生、あるいは虜囚とに分かつだろう。
別に俺が殺人狂な訳ではないが、無体に軍勢で追い詰めようというのであれば、こっちだって黙ってやられるわけにはいかない。
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