デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-28 お見送り

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 ここの街の入り口で検問があるなどという事はない。

 ここは首都でも何でもない、ただの辺境の街なのだから、そのような事をしていたら街が益々寂れてしまうからだろう。

 俺達のような不審者が山脈を越えてやってくるなど滅多な事であるものではないというか、この季節では俺達以外にはあの頭のイカレた帝国が放った捨て身の捜索部隊くらいのもので、まず不可能な事なのだ。

 その他の怪しげな人間も、このような場所で暗躍してなどいないのだから。

 ただし、この世界を揺るがすほどの激しい人間狩りの最中である今現在を除いては。

 少なくとも、帝国の魔手も表向きはまだこの街には伸びてはいないようだ。

 帝国の例の人狩りが得意な将軍の手の者達は街中へ入り込んでいるのかもしれないが。

 王女達がこちら方面に逃げた時に、航空輸送で工作員などは高速で密やかに送り込まれたはずだろう。

 帝国の連中を、あの山脈で煙ならぬ吹雪に巻いてやったわけだが、その間の二週間ほどで、十分に待ち構えるだけの時間はあったはずだ。

 それがあるから余計に心配なのだが、この先都会になればなるほど色々と問題も増える。

 ここなら、まだ俺やシルバーが出張るチャンスもあるだろう。

 最悪はまた山脈に戻って立て籠もり、吹雪で身を守る事も可能だ。

 その代わり、あの子達も残りの一生を年中吹雪いて止まぬ、永久に雪と氷に閉ざされた深い山中で暮らさないといけなくなるので、それはまた避けたい事でもある。

 ああ、三歳の子供達を一人で『初めてのお使い』に出す父親のような気持ちだ。

 一応、軽い変装はさせておいたのだが心配だな。

 できれば、ビデオカメラを持って、そっと後をついていきたいくらいの気持ちだ。

 だがうっかりミスって見つかると、逆に俺が彼女達の足を引っ張ってしまいかねんので自重する。

 ここにビデオカメラも無いしね。

 無事に彼女達が街の門を潜っていったのを見てホッとする。

 門には衛兵のような人が二人いたが別に検問をしている訳ではなく、何か異常な事がないかとか、街を脅かすものがないかなどを監視しているだけなのだろう。

 実にのどかな表情をしていらっしゃるし、まさか身の丈十メートルにも及ぶ四本腕の大巨人とフェンリルが心配顔で、街に入る子供達のお見送りをしているとは露とも思ってもいないようだ。

 もしも、この場に本物? のギガンテスと血に飢えたフェンリルがいたとしたなら、とてもそのような暢気な事はしていられない筈なのだが。

「行っちゃったね」
「行っちまったなあ」

「二人とも、大丈夫かな」
「さあどうかな」

 俺達に出来る事は、今では家族同様に大切に思える、あの不憫な子供達が無事に用足しをして帰ってこられるか祈る事だけだった。

◆◇◆◇◆

「ふう。やっと人里に出たね。
 いい? この手は絶対に放しちゃ駄目だよ、メリーベル」

「うん、お姉ちゃん」

 そして、彼女達はその小さな手を、まるで命綱であるかのようにしっかりと握り合わせて一緒に歩き出した。

 国では市中にはあまり出た事がない姉妹だ。

 山脈の入り口に辿り着くまで、幾多の街々は通ってきたのだが、その時はお付きの者がまだ何人か残ってくれていた。

 だが麓まで来た時に敵に見つかって、爺やと二人だけが着のみ着のままで逃げたのだ。

 その爺やも負傷していたため、途中で雪原に斃れた。

 元々、市井の事にはあまり詳しくはない二人なので、頼りない事この上ない。

 その上ここは初めての外国、しかもかなりの辺境だ。
 王宮とは随分と勝手は違う事であろう。

「お姉ちゃん、あそこ。
 宿屋さんじゃないかな」

「本当だ、行ってみようか」

「二人とも、いきなり宿を決めちゃ駄目よ。
 空気というか雰囲気を読んでね。

 こういう辺境の宿には人間の女の子をかどわかして売り飛ばすような所もあるかもしれないとジンが言っていたでしょう。

 特にあなた達のように可愛い子はね。
 
 宿屋は何軒かあるでしょうから、一通り当たってみましょう」

「はあい」
「ああ、忘れていたわ。
 いけない、いけない」

 その二人の様子を見て軽く嘆息するルーなのであったが、かつて人間であったジンならばいざ知らず、人であった事など一度もない単なる生き神の一柱に近いような自分には人間の事情などよくわからないのであった。

 そして、とりあえずその宿に入ろうとした刹那、ルーが慌てて止めた。

「駄目、二人とも。
 その宿は人攫い宿よ、奥の方で女の子の悲鳴が聞こえる。
 そのまま通り過ぎて!」

 危うく中へ入りかけていたのだが、慌てて急にくるりっと向きを変えてまた道の方へ向かったので、中から人相の悪そうな男が現れて不審そうな顔を覗かせて目を細めてこちらを見ていた。

「ふう、危なかったわ。
 ねえ、二人とも。

 前にジンが言っていたのだけれど、人間って性格が顔に出るのですって。

 向こうの世界ではこう言うそうよ。
『三十までは親の顔、三十過ぎたら自分の顔』って。

 無責任な人間はそういう顔になるし、悪い奴はそういう顔にね」

「そう言えば、さっきお店にいた人って結構悪人面だった!」

「でもね、そういうものを意識的に隠せる人もいるから要注意よ。
 そういう人の方が危ないってジンが。

 それに人相というか、一見凶悪そうな造作をしていても、それはただの親譲りでその人自身は優しい人の場合もあるしね」

「えー、ルーのいう事は難しいよ~」

「まあ、要するに少なくとも悪そうな顔している奴は警戒しておけば間違いないって事よー。
 あの帝国へ連れて行かれたくないのならね!」

「はあい」

 一方、メリーベルは珍しい異国の辺境の街並みに目が行ってしまい、気もそぞろなのであったが、アリエスにギュっと手を握られて慌てて気を引き締めるのであった。
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