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第一章 孤独の果てに
1-30 貴重な情報
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街の建物などはいかにも山脈沿いにある雪国らしく、建物の屋根も鋭角になっており、あまり金銭的に余裕がないのか壁の塗料も剥がれ加減で、些かみすぼらしく見えた。
振り返れば遠目に教会らしき尖塔が見える。
先程は宿探しに夢中になっていて気がつかなかったが、それなりに風情があって幻想的に美しい。
雪化粧をしたならば、きっと一枚の絵のような輝きを放つ姿になるだろう。
彼ハリオスは歩きながら、彼女達を案じてくれていた。
「ここはなあ、昔はそれなりにいい街だった。
辺境の田舎で、何もなかったけれど、こんな悪がはびこるような街じゃあなかったんだ。
それが今ではこの有様さ。
街の大人達はなんとかしようと必死で足掻いたが、相手はこの辺境を管轄する貴族から命じられた代官だ。
皆、次第に諦めていったよ。
今では俺達若者だけがこうやって自治組織を作って巡回している。
だが正式な治安維持組織じゃないんだから、たいした事は出来ない。
あんたは運が良かった。
宿の中へ引っ張り込まれていたら、もう助けられない。
無理に助けようとすれば代官の衛士がやってきて、俺は追い払われる。
それで終いだ」
彼もポツリと街の過去を振り返るように遠い目で語ってくれた。
酷い話だとは思ったが、そんなものどうしようもない。
そしてこの国は帝国の支配下になったなら、おそらくこの青年組織すらも解散させられるだろう。
自分が王女であった祖国にもこういう街があったのかもしれないと、アリエスは今も勇壮に聳えるアルブーマ大山脈の彼方にある遠い故郷を想った。
「まあ、この街をなるべく早く出ていくんだな。
ここは君のような女の子がいていい場所じゃないんだ。
他の街はここまで酷くないとは思うが、北の辺境を管轄とするグリエム辺境伯の縄張りはよくないかもしれない。
どっちへ行くんだい?
まさか、あのアルブーマ大山脈へ行くわけではあるまいに」
実は自分達はそこから来ましたとは非常に言い辛いのであったが、まあ貴重な情報が知りたいので答えておいた。
「南方面へ。港へ行きたいのです。
両親が死んでしまって、遠くの国にいる親戚を頼る事になったので」
「そうか、なるほどな。
こんな季節に子供だけで旅をしているなんて変だと思ったよ。
だがこの南へ真っ直ぐ街道を下ったところにある、川向こうの隣の国パルミシア王国にある大きな港へ行くのはやめておくんだな。
あそこはもう完全に帝国の飛び地といってもいい。
乱暴者で有名な蛮族上がりの帝国兵の前線基地になっているそうだ。
女の子がそこへ行ったら子供とて無事には済まないし、小遣い稼ぎに売り飛ばされるのがオチだろう。
港から他の国へ行きたいというのであれば早くこの国を抜けないと、この国だって帝国に占領されるのも時間の問題かもしれない。
お隣の平原の盟主であった古い王国はもう完全に落とされたというからなあ」
それを聞いて、暗澹とした気持ちを抑えられないアリエスだった。
わかってはいたのだが状況は最悪だ。
あの帝国軍の見境のない、命さえ顧みない数を頼みにした猛攻の前にパルミシア王国はまともに抵抗すらできなかったようだし、あの祖国の兄弟国はこのまま帝国の属国あるいは東方攻略のための拠点としての帝国領となっていくのだろう。
その次はこの国あたりか。
先を急がなくてはと心を引き締めるアリエス。
「他の港はどのような感じでしょう」
「うーん、ここは山の手の辺境で国内では港と正反対の位置にあるからなあ。
情報は古いけど、うちの国の海岸線の中央にある大きな港はパルセンの港といって、主に東西方面の近場の港が主な行先で、そういう近郊における貿易を担う港だ。
ここから出る船は、いわゆる平原と呼ばれるこのあたりの国々の範囲からは出ないよ」
「そうなんだ。じゃあ、他の港は?」
「隣国の港がすぐそこにあるから、東方面の遠方はそこからでないと行けないようになっていたんだ。
それは帝国に占領されているから、もう行けないね。
まあ行けなくはないのだろうが、君達のような女の子だけではとてもとても。
西方面の遠方へはこの国の西端にあるブシュレ港から行けるが、平原よりも遠い遠方へ行く船は便数も非常に少ないな。
海は魔物が多くいて危険だから、あまり遠出しないのはセオリーなのさ。
まああの帝国みたいに人命無視で大損耗覚悟の大規模な軍勢を率いての大航海なんて無茶は、普通の国にはできないよ」
「そうかあ、そうよね」
「うまくそれに乗れれば、どこかに行ってから船を乗り換えればいいし。
ただ向こう側、西方面へ行くと完全に帝国の縄張りの海だからなあ。
何しろ我が国から西側にある次の港はもう帝国本国の港になるのだから。
帝国軍の船は臨検と称して他国の船から略奪などもしているようだから、あっち方面へブシュレ港から船が出ているかどうかもよくわからんな。
悪いな、情報が古くて。
今は本当に瞬く間に情勢が変わっていってしまう。
また港の近場へ行ったら、いろいろな話も聞こえてこよう」
それを聞いて思わず目の前が真っ暗になってしまった。
西方へ行くのならこの国の西端の港、ここから遠い方の港であるブシュレ港から。
ただし、平原から東へ向かって船が出ているかどうかは行ってみないとわからないと。
だが行先が決まっただけでも大収穫だろう。
やはり、この街へやってきてよかったと思うアリエスなのだった。
振り返れば遠目に教会らしき尖塔が見える。
先程は宿探しに夢中になっていて気がつかなかったが、それなりに風情があって幻想的に美しい。
雪化粧をしたならば、きっと一枚の絵のような輝きを放つ姿になるだろう。
彼ハリオスは歩きながら、彼女達を案じてくれていた。
「ここはなあ、昔はそれなりにいい街だった。
辺境の田舎で、何もなかったけれど、こんな悪がはびこるような街じゃあなかったんだ。
それが今ではこの有様さ。
街の大人達はなんとかしようと必死で足掻いたが、相手はこの辺境を管轄する貴族から命じられた代官だ。
皆、次第に諦めていったよ。
今では俺達若者だけがこうやって自治組織を作って巡回している。
だが正式な治安維持組織じゃないんだから、たいした事は出来ない。
あんたは運が良かった。
宿の中へ引っ張り込まれていたら、もう助けられない。
無理に助けようとすれば代官の衛士がやってきて、俺は追い払われる。
それで終いだ」
彼もポツリと街の過去を振り返るように遠い目で語ってくれた。
酷い話だとは思ったが、そんなものどうしようもない。
そしてこの国は帝国の支配下になったなら、おそらくこの青年組織すらも解散させられるだろう。
自分が王女であった祖国にもこういう街があったのかもしれないと、アリエスは今も勇壮に聳えるアルブーマ大山脈の彼方にある遠い故郷を想った。
「まあ、この街をなるべく早く出ていくんだな。
ここは君のような女の子がいていい場所じゃないんだ。
他の街はここまで酷くないとは思うが、北の辺境を管轄とするグリエム辺境伯の縄張りはよくないかもしれない。
どっちへ行くんだい?
まさか、あのアルブーマ大山脈へ行くわけではあるまいに」
実は自分達はそこから来ましたとは非常に言い辛いのであったが、まあ貴重な情報が知りたいので答えておいた。
「南方面へ。港へ行きたいのです。
両親が死んでしまって、遠くの国にいる親戚を頼る事になったので」
「そうか、なるほどな。
こんな季節に子供だけで旅をしているなんて変だと思ったよ。
だがこの南へ真っ直ぐ街道を下ったところにある、川向こうの隣の国パルミシア王国にある大きな港へ行くのはやめておくんだな。
あそこはもう完全に帝国の飛び地といってもいい。
乱暴者で有名な蛮族上がりの帝国兵の前線基地になっているそうだ。
女の子がそこへ行ったら子供とて無事には済まないし、小遣い稼ぎに売り飛ばされるのがオチだろう。
港から他の国へ行きたいというのであれば早くこの国を抜けないと、この国だって帝国に占領されるのも時間の問題かもしれない。
お隣の平原の盟主であった古い王国はもう完全に落とされたというからなあ」
それを聞いて、暗澹とした気持ちを抑えられないアリエスだった。
わかってはいたのだが状況は最悪だ。
あの帝国軍の見境のない、命さえ顧みない数を頼みにした猛攻の前にパルミシア王国はまともに抵抗すらできなかったようだし、あの祖国の兄弟国はこのまま帝国の属国あるいは東方攻略のための拠点としての帝国領となっていくのだろう。
その次はこの国あたりか。
先を急がなくてはと心を引き締めるアリエス。
「他の港はどのような感じでしょう」
「うーん、ここは山の手の辺境で国内では港と正反対の位置にあるからなあ。
情報は古いけど、うちの国の海岸線の中央にある大きな港はパルセンの港といって、主に東西方面の近場の港が主な行先で、そういう近郊における貿易を担う港だ。
ここから出る船は、いわゆる平原と呼ばれるこのあたりの国々の範囲からは出ないよ」
「そうなんだ。じゃあ、他の港は?」
「隣国の港がすぐそこにあるから、東方面の遠方はそこからでないと行けないようになっていたんだ。
それは帝国に占領されているから、もう行けないね。
まあ行けなくはないのだろうが、君達のような女の子だけではとてもとても。
西方面の遠方へはこの国の西端にあるブシュレ港から行けるが、平原よりも遠い遠方へ行く船は便数も非常に少ないな。
海は魔物が多くいて危険だから、あまり遠出しないのはセオリーなのさ。
まああの帝国みたいに人命無視で大損耗覚悟の大規模な軍勢を率いての大航海なんて無茶は、普通の国にはできないよ」
「そうかあ、そうよね」
「うまくそれに乗れれば、どこかに行ってから船を乗り換えればいいし。
ただ向こう側、西方面へ行くと完全に帝国の縄張りの海だからなあ。
何しろ我が国から西側にある次の港はもう帝国本国の港になるのだから。
帝国軍の船は臨検と称して他国の船から略奪などもしているようだから、あっち方面へブシュレ港から船が出ているかどうかもよくわからんな。
悪いな、情報が古くて。
今は本当に瞬く間に情勢が変わっていってしまう。
また港の近場へ行ったら、いろいろな話も聞こえてこよう」
それを聞いて思わず目の前が真っ暗になってしまった。
西方へ行くのならこの国の西端の港、ここから遠い方の港であるブシュレ港から。
ただし、平原から東へ向かって船が出ているかどうかは行ってみないとわからないと。
だが行先が決まっただけでも大収穫だろう。
やはり、この街へやってきてよかったと思うアリエスなのだった。
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