デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-37 手練れの男

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 隠密で忍び寄り、音もなく子分達を全員屍に変えて収納に放り込んだ俺を見ても指揮官の男は慌てる風でもなく、その巨大な『魔神』たる俺を見つめて静かに語りだした。

「ほお、喋るギガンテスとは、これはまた世にも珍しい物がいたものだな。
 それで貴様、俺の大勢いたはずの部下をどうした」

「聞かないとわからないのか?」
 おれは呆れたと言わんばかりに返してやった。

「ああ、是非聞かせてもらいたいものだ。
 俺は部下の給料の査定もしないといけない立場なのでな。

 うちの部下共は真面目で、仕事中にいきなりいなくなったりはしない連中なのだよ」

 俺は収納から、少し血の匂いのみを外へ洩らしてやった。
 やたらと死体を見せるとアリエス達が怯えるといけないので。

 だがそいつには、その僅かな芳香だけで充分だったようだ。
 そうであっても顔色一つ変えない、なんとも可愛げのない男なのだが。

「なるほど、どうやら査定の仕事は必要無くなってしまったようだな。
 お前達は、この街では穏便に済ますのではなかったのかね」

 こいつはなんとも、いけしゃあしゃあとしたもんだ。俺のような怪物と一人きりで至近に対峙していながらの、その不遜な態度や図々しさと不敵さに、ほとほと感心するね。こいつは相当な強面だな。
「あのなあ、そっちが余計な真似をしなかったら穏便に済ませてトンズラする予定だったんだよ。

 ここでも最初の奴らは殺させていなかっただろうが。

 自慢じゃないが、俺はお前らが来るまでは自分を襲ってくるような人間さえ一人も殺さないような優しい魔神様だったというのに。

 今も可哀想な、お前らに追われている子供達には優しいけれどな。

 お前らのお蔭で、せっかくの聖人のような魔神様が大量殺人犯になってしまったじゃないか。
 一体どうしてくれるんだ。
 謝罪と補償を、お前らの皇帝に対して要求する!」

 男はいかにも解せぬ理解が及ばぬという感じで、優雅に自分の顎に手をやって擦っている。

「何故そこまで、そこにいる元はと言えば魔物のお前に縁も所縁もなかったはずの人間の王女達に肩入れするのだ。

 一体、それが魔物のお前に何の得があるというのか」

 だが、俺は奴に向かって立体鋸のように凶悪な歯というか牙の群れを剝いて言ってやった。

「お前こそ余裕じゃないか。
 怪しいな、何を企んでいる。

 このあまり意味の無さそうなカンバセーションは何の罠だ。
 まあこっちだって、お前がしてくれる有意義そうな話を楽しみにしているんだがな」

 そいつは本当だ。
 こいつから何らかの情報を引き出せないかなと思って。
 だから指揮官は一人だけ生かしたまま残しておいたのだ。

 そして俺はその会話の合間に、奴が放ってシルバーを拘束していたいたトラップを切断しようかと思ってから、思い直して収納で取り込んだ。

「ほお、そいつを収納で仕舞い込むか。
 それは強力な魔導抵抗がある品なのでな、生物並みに収納耐性がある代物なのだが。
 まったく、どこまで化け物なのだ」

「へえ、そうかい。
 敵の大将様からお褒めに預かってなんとも光栄だね」

 そして俺はある事をやっていた。
 お、出来た。

 そして、起き上がると全身をプルプルとまるで水に濡れた体から水滴を振り払うかのような仕草で、「ふにゃあ」とでもいうような情けない顔をしている、うちのワンコがいた。

「ふえええ、やっと自由になれたー」

「ははは、敵を相手に油断なんかするからだ。
 どうだ、シルバー。体は平気か」

「全然へっちゃらー。
 でも、こいつ人間のくせに強いー。
 楽しいー、頑張って狩るぞー」

 だがそのワンコの様子を見て、これまた楽し気な顔をしている指揮官。

「いや、お前ら。
 魔物のくせに本当に何がしたいんだ。
 まったくもって愉快な連中だな」

「あんたこそ、本当に変わった奴だな。
 あれだけ部下を殺されてなんとも思っていないのか」

「いやいや、別にそういう訳でもないのだが、あのように簡単にやられてしまったというのなら日頃の鍛錬が不足していたという事なのであろう。

 今度来る部下は徹底的に鍛えないといかんな」

 こいつめ、ここで死ぬような気配、いやむしろ運命とでもいうようなものが微塵もない。

 マズイな。
 この男、案外と手練れで厄介な相手という可能性が出てきた。

 魔神と呼ばれるほどの特級のギガンテス、そして追手をあっさりと大量に片付けるようなΩ魔獣フェンリルに神獣ガルーダ。

 手強い魔物を相手に三対一でも慌てた様子一つない。

 これはラノベやアニメなんかだと、こっちが痛い目に合いそうなシチュエーションのような気がしてきた。

「じゃあ、強そうな指揮官であるあんたが今から俺とやるかい?」

「ああ、それも面白いのだが、さすがに今日は私が劣勢だから止めにしておこう。
 ではな、ごきげんよう、素敵な魔神の騎士君。

 私はルーゲンシュタット帝国フィッツ・ゴドル・パーデン将軍隷下の諜報専門部隊隊長でロルス・コングという者だ。

 君のような非常に興味深い人士には是非名乗っておきたいものだ。
 では諸君また会おう」

 そう言って奴は大きく手を振りかぶった優雅な礼を一つして、次の瞬間にふいに歪んだ空間の中へと闇夜に吸い込まれるように消えていった。

 その瞬刻の間に、そいつとの戦闘へ向けて百パーセントのリソースを注ぎ込んでしまっていた俺は、須臾しゅゆの間に起きた予想外の事態に対して微塵も反応できなかった。

「げ、しまった!
 あの野郎、なんと空間能力者だったのか。

 くそう、まんまと逃げられた。
 腹の探り合いなんてやめて、さっさとあいつを仕留めておくのだった~。
 奴め、勿体つけやがって。

 てっきり何か仕掛けてくるかと思っていたのに、単に部下が全滅して自分が不利だったから思わせぶりなポーカーフェイスでハッタリを利かせておいて、自分だけ逃げ出す機会を伺っていただけなんじゃないか。

 くそう、奴の方がどうにも一枚上手だった……」

 マズイな。
 あいつは、どういう感じで空間移動できるのだ。

 こちらの人間の顔を思いだしたら、そこへ移動できるなんていったら最悪だぜ。

 あるいは俺なんかの魔力パターンを記憶できて、常時俺を追尾できる能力だったりしたら困る。

 しかも、へたをしたら大部隊を運べるなんていったら、あいつを仕留めない限りは年がら年中、敵部隊に襲撃されっぱなしじゃないか。

「あーん、あいつ狩れなかった。
 悔しー」

 そのような台詞を吐きながら、うちの駄犬がひっくり返って四足をじたばたさせて悔しがっていた。

 俺も腹立ち紛れに、俺の奴に向けて厳重に集中して超密度で設定してあったセンサーで捕らえた各種の情報から、なんとか空間移動の能力をマスターできないかと思ったが、残念ながら電磁波や重力で一部空間を操作できるのに留まった。

 だがまあ、あいつが見せてくれた空間魔法の発動情報はすべて、この魔神脳に記憶済みだ。

 道々、空間魔法の練習でもしながら行くとするか。
 もし空間移動がマスターできたら、うまくすると帝国の追手を煙に巻けるかもしれない。

 よし、あのロルス・コングをなんとか捕獲して空間魔法の習得を手伝わせたいな。

 俺はさっき奴が使った魔導具を取り出した。
 見事に元の形状に戻っていて、使い方も理解できた。

 いや、こいつで奴をなんとか捕まえられないかと思って、さっきは準備しておいたのだが見事なまでに逃げられてしまった。

 今度会った時には、このスキルや魔法を封じる魔道具ならば、奴を殺さずに捕獲して空間魔法による逃走を防げるのではと思っているのだ。

 まったく煮ても焼いても食えそうにないような底の知れないような男だった。

 敵ながら実に天晴な野郎だぜ。
 今までにいないタイプだな、ありゃあ。

 多分上司の胃袋に穴を開けるタイプの人間のようだから、もしかしたら生かしておいて自分の仕事をさせておくだけでも有意義な奴なのかもしれんなあ。

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