デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-36 深夜の殴り込み

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「あ、ありがとう、二人とも。
 ジンは?」

「彼なら自分が街に出ると見つかった時に大事になるといけないからって、街の柵ギリギリの外に待機して、やきもきしているわよ。

 何かあればすぐに呼べと。
 まあ犬っころ一匹だけなら、最悪は見つかっても言い訳が立たない事もないだろうからって」

 そんなはずがあるかと思った比較的常識人のルーであったのだが、それでもいきなり魔神ギガント様がお越しになるよりフェンリル一匹だけの方が遥かに騒動は少ないかもとは考えたのである。

 いくら隠密していても見つかる時は見つかってしまうのだから。そもそも、シルバーには通用しないような技なのだ。

「そ、そうね。
 敵も大部隊が押し寄せているわけじゃないのだから。
 ルーはルーで、また目立ちそうだし、家の中で出なくてよかったわね」

 ルーはニヤアっと、あの凶悪というか醜悪なガルーダ面で満面の笑顔を浮かべながら、また小さくなってアリエスのポケットに退避した。

「いやあ、そいつらがあたしとエンカウントした時の顔を見たでしょ。
 多分、あの時私が出ていたら騒ぎになっていたかもしれないわね、奴らが激情に駆られて攻撃してきそうな気がしていたし」

「そうかあ。
 これからどうするのかな」

「そうね。
 もう居場所が敵にバレていたとは困ったものね」

 その話題になってアリエスも思わず目を泳がせた。

「ああ、それについてはゴメン。

 私達って変装していてもかなり目立つみたいで、私達の到着よりもかなり前から潜んでいただろう連中の目は誤魔化せなかったみたいなの」

 それを聞いてルーは思わず納得した。
 それについては最初から危惧されていた事なのだし。

 だからこそ、ここまで綿密に打ち合わせをし、万が一に備えていたのだ。

 だが、ここへ二人をやらないと厳しかった山中からまた続けての、まったく支度の無い悲惨な逃避行になってしまうのだ。

 それでは二人の精神肉体が保たないのもまた最初からわかっていた事なので。

「まあ連中の探している人間がまだ子供の女の子二人といえば、こんな寂れた辺境の街で聞き込みされたりすればバレてしまうわけね」

「う、どうもそのようです。面目ない」

「それで首尾は?」

「まともに一泊できなかった事を別にすれば、まあ上々かな。
 当面の行先の目途もついたよ」

「それは何より。
 じゃあもう逃げる?
 敵に見つかっちゃったからね。

 ジンの隠密に隠れて逃げた方が良さげよ。
 そいつらも本当なら殺しておいた方がよかったのだけれど、ここじゃお互い大立ち回りは避けたいところで、ジンもなるべく穏便にするように言っていたしね」

「そうはいかんね」

 二人と二匹がギョっとして振り返ると、そこにはいつの間にか、勢ぞろいした眼光鋭い男達の一団がいた。

「い、いつの間に」

 神獣ガルーダと、そして何よりも魔力の匂いにすら鼻の利く犬系魔獣のフェンリルの感覚を胡麻化して近づくとは只者ではない。

「目立たぬようにとのお気遣いは大変ありがたいのだがな、それはお前達が我々に捕まってからにしていただこうか。
 では、そこの躾の悪い犬にはこれをくれてやろう」

 先頭に立っていた部隊の指揮官らしき、壮年期にさしかかったように見える男は何か長細い銀色の大腿骨のような物をシルバーに投げた。

 もしかしたら、その一見すると骨の形っぽく見える物体に犬族の性で興味が湧いたものか、あるいは少人数の人間に何ができるのかと高を括っていたのがまずかったものか、なんと彼はあっさりとその拘束具のお世話になってしまった。

 そいつは、中から飛び出した魔法金属オリハルコンの極太ワイヤーで毛皮に食い込むほどに手足ごと縛り上げられて、完全に身動きがとれなくなっている。

 動けるのは、いかにも降参だというようにパタパタと情けない動きをする尻尾だけだ。

「きゃうーん、何これ。
 取れないー、ルー助けてー」

「む、なんと対魔獣用の拘束魔道具か。
 まさかΩ魔獣フェンリルを一発で拘束するとは!」

「シルバーっ!」
「やあん、シルちゃあん」

 隠密状態からではなく、わざと姿を現して声もかけて注意を引き付けておき、注意を逸らすというか興味を引かせてからの攻撃。

 そして見事に一番厄介な獲物を真っ先に捕らえてみせ、蛇の如くに満足そうに厭らしい舌なめずりをする酷薄そうな顔つきの指揮官がいた。

 まだそのような歳でもなかろうに多めの白髪とグラデュエーションになった淡い金髪をゆっくりとかき上げ、虜になった魔獣を眺める血のように赤い独特の目が嗤っていた。

 そして再び元の大きさに戻り、それと睨み合う形で二人を庇う態勢のルーが確認した。

「シルバー、魔法は使える?」
「駄目、こいつに封じられちゃった」

 そう言って、シタバタと僅かに身悶えするだけで転がる事さえできぬ、ボンレス犬ハム状態のシルバー。

 そしてなんとか隙をついて彼の拘束を解こうかという態勢のルーと、そうはさせじと別の、おそらくは対飛行魔物用と思われる、コンパクトに折り畳まれていると思われる羽根付きの拘束具を、ニヤっと笑って収納らしき腰に括り付けられた小バッグより取り出す指揮官。

 へたを打てば二人の王女が無防備になってしまうので無闇に動けぬルーと、不敵な笑みで彼女を隙の無い構えで突き付ける得物で牽制しつつ部隊に間合いを図らせる敵指揮官、一触即発の体勢で睨み合う両者であったのだが、それは単なるポーズでルーはさっきと同じことをやっていただけだった。

「さて、ではこれ以上雑魚に手間を取らされるのもなんだ。
 さっさと仕事を片付けて、宿に帰って一杯やらせていただくとするかね」

「ホントホント、いやまったくだ。あんた、実に奇遇だね」

「何っ」

 振り向いた指揮官の目に映ったものは、大勢いたはずの部下は誰一人そこにおらず、ただ四本の腕を二対で腕組みしている笑顔を浮かべている巨大なギガンテスが気楽な感じに突っ立っている姿のみであった。
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