デビルナイツ・ジン

緋色優希

文字の大きさ
59 / 59
第一章 孤独の果てに

1-59 撃滅の海中戦

しおりを挟む
 そして、俺達は先だって船ごと進路を深い海がある場所へと進めてもらっておいた。

 奴らは、まんまと小町号についてきている。
 まあ船にピタっと魔法でくっついてけん引されているだけなのだから当たり前なのだが。

 俺の目論見に対して十分な深さがある場所へと到着し、俺はメガロドンの勇猛な突撃に合わせて海斗にかけていた隠密を解いた。

 上方から急襲してきた特大サイズの大鮫に少し慌てたように連中は、その平面世界の隠れ家ごと下へと潜った。

 こちらの超大型魚雷のような速撃を交わして逃げようとするも、俺の水魔法の制御が加わって更に増した阿吽の呼吸の如くの水中機動力で、完全に機動性で敵に勝るメガロドンにより上方を抑えられてしまっているので、連中はむしろ更に望まざる深淵へと潜らされていった。

 深く、深く、大海の猛き巨大な狩人は獲物を所定の位置、即ち希望深度の深海の狩場まで見事に追い込んだ。

「オーライ、海斗。
 この深度千メートルの海中ならば生身で逃げられる奴もそうそういまい。
 ここでやるぞ」

「ああ、ここはなまじっかな旧式の潜水艦だと簡単に圧壊するほどの深度だからな。
 これくらい深いと旧型の原潜あたりでもアウトの深度じゃないかな。

 潜水艦搭載の脱出スーツを着込んでいないような生身の兵士ではまず耐えられまい。

 それでも生還が無理なくらい深いかもな。
 じゃあジン、派手に送ってやれよ」

「あいよ」

 俺は造ったばかりのおニューの空間魔法でその空間被膜に干渉し、その文字通りの薄っぺらな奴は、構造が歪んだせいで中の光が漏れたかのように淡く光った。

 これがロルスから走査で奪った魔法の情報に含まれていた、安定を欠いた時に放つ空間干渉の軋轢光という奴なのか?

 まさか暗い深海でさえこんなにも目立つ物だったとはな。
 戦闘中だと今みたいに致命傷になるじゃないか。

 自分が使う時は得意技でこいつを外に洩らさないように改良しておき、使用時には十分に気を付けるようにしないといけないな。

 そして、更に干渉するとそれがまるで丸い薄いプラスチックのレンズがたわむように歪み、その追尾していたストーカー達が無様な挙動で深海に追われた塒が、更に安定感を欠いた象徴である光量を増していた。

 こうなると、もうチェックメイトという事か。
 いわゆる『勝負あり』だ。

 そしてくねり、次に今度はプラスチック・フィルムが激しく変形するかのようになり、最後に水圧に負けたかのようにギュッと縮み、一際激しく光ってからシャボン玉のようにパンっと突然弾けた。

 次の瞬間、そこには膨大な数の内部で待機していた兵士が、それの胎内から死の深淵の超高圧力中に産出され溢れ出した。

 そやつらは、なんとか命だけ助かろうとじたばたと手足をバタバタさせてもがくが、百気圧の水圧という名の死神は決して逃がすまいという気迫で奴らの体を締め付けて、海神の有する大質量がもたらす圧倒的な握力を奴らの最後の生命力に対して見せつけた。

 生身の人間に対して、たかだか一平方センチメートル毎に百キロの水圧がかかるのだから、さすがに只の人間が生き延びる事は無理だろう。

 人体の七十パーセントにあたる水の詰まった体はともかくとして、圧力の暴力に押されてそうでない部分が収斂しゅうれんすれば、圧搾されれば激しく縮みあがる定めの空気を収めていた肺が即座に縮んでしまっただろうな。

 突然に全身を押し包んだプレッシャーに分子単位で包まれて、口や体の下の部分から漏れ出る文字通り押し出された大量の血。

 人体には大量に水分があり、少々の水圧では潰されないという人もいうが、実際には違う。

 強大な圧力に耐えかねた血管が破れて体液が流出すれば、その分肉体は潰れてしまうのだから。

 求める酸素を欲するも肺は潰れて機能を果たさず、鰓無き身では水中にあるそれを摂取する事も叶わずに、魂の圧壊レベルの抗し難い水圧で目玉も全ての想いも脳味噌にグイっと押し込まれるような感じに息絶えていく兵士達。

 その殆どの者達は数分と置かずに惨たらしく、肺機能停止による瞬時の酸欠と圧死のため深海ふかみに命を散らし、更なる深みへとその骸を鎮めていった。

 さすがに、このアクアラングを装備したフロッグメンさえもまず生き伸びられないような深海では仕方があるまい。

 だがこの連中は元々、俺達の船に乗り込まされてその自身の体重の集積で船を沈めようと言う、いわば『舟幽霊作戦』のような要員だったのだ。

 いずれにせよ、大方の連中はどの道死ぬ運命だった。

 とはいえ、敵からも味方からも、まるでプランクトンででもあるかのように無造作で粗雑な扱いを受けるこの人の数は!

 これこそが帝国という存在に対する、ある意味での畏怖の神髄というか恐怖の根源というか。

「うわ、予想はしていたのだが、こいつはまた大勢いやがるな!」

「帝国め、相変わらずの外道ぶりだな。
 ロルスか、まことに厄介な相手だ。

 おっと何かのスキルで生き延びて海上へ脱出しようとしている奴らがいるぞ」

「帝国め、また相変わらず信じられんような手練れが混じっていやがるな。

 海斗、あいつらを逃がすと、うちの船がマズイんじゃないか。
 今からでも後を追うかい」

「いや、その必要はない。
 既にうちの戦闘班員を海上に送ってある。

 俺は戦闘班長なんだ、船に危害を与えにきた連中をむやみに逃がしはせんよ」

「そうか、ならいいんだ。
 それにしても、やれやれだぜ。

 なんて気が滅入る戦いなんだ。
 人間のメンタルのままでは、とてもじゃないが耐えられないだろうな」

「ああ、だが当座の敵は片付いた。
 ところでジン、今のでロルカはやれたと思うか?」

「まさか。

 あいつの事だ、多分あいつ自身もあそこにいたのだろうが、さっきのスキルでも非常脱出システムくらいは持っているだろうさ。

 こいつらを囮にして真っ先に尻尾を切って、今頃はとっくに余裕綽綽で逃げているだろう」

「ああ、あいつの事だ。
 きっとそうなんだろうなあ」

「あいつは是非とも捉まえたかったんだが、絶対に捕まらないだろうな。
 艦隊ごと移動できるような転移魔法習得のチャンスなのに残念だ。

 それで帝国の軍港を、平原の残存勢力の海軍と西方王国海軍で襲撃したら痛快だろうに」

「無理無理、まあ今日のところは狙われていたこっちの船が無傷で無事だっただけ、よしとしようぜ。
 ジンもお疲れ」

 彼はその恐ろしい形状の凶悪な顎から海水をポクっというような妙な具合に吐き出した。

 うーむ、メガロドンの海中溜息などという非常に珍しい物を拝んでしまった。

 そいつを観測できるのは、物理的なスキャンが可能な俺ならの特技なのだろう。
 まったく今日は、一日中あれこれと貴重な体験をさせてもらったもんだ。

「さあ、戻ろうぜ。
 この程度は水魔法の操作でビクともしないとはいえ、さすがに人型体形でこんな深海にいると気分的に心許ないな」

「はは、まあこんな事でもなければ、海中の仕事は俺達に任せておいてくれ」

「あいよ。
 頼りにしているぜ、海の兄弟達よ」

 そして、俺達は心配しながら帰還を待ってくれているだろう仲間の元へと、適度に減圧しながら浮上していくのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

処理中です...