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第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』

1-25 蟻の巣退治

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 昔、動画サイトで蟻の巣に鍋で溶かしたアルミを流し込んで、アルミ製の蟻の巣拓を作っているのを見たが、さすがにこいつに対してやるのは無理だろう。

 小銭入れに一円玉はあるので、スキルで地道に増やせば、いつかはなんとかなるのだろうがね。

 だが、事態は待ってくれなかったようだ。なんだか、その魔物のネスト(巣)のような物が騒々しくなった。

「く、いかん。聞いてみろ、カズホ。物凄くいろいろな魔物の鳴き声がするだろう。前に王からいただいた資料で見たが、これは魔物が一度に大量に湧こうとしている前兆のようだ。

 退避するぞ。もう村は駄目だ、今すぐ捨てるしかない。明日の朝日を待たずに魔物が大挙して村を襲うだろう。

 今すぐ村の皆を連れて逃げ出し、早馬を出して王国軍を呼ぼう。さすがに、これを野放しにしておくのはあまりに危険過ぎる代物だ」

 おいおいおい、今度は俺だけでなく村丸ごとが根無し草なのか、ちょっとそいつは勘弁してくれ。

 このあたり一帯の村や町の住人が完全に難民化するぞ。俺はちょっと考えた事があったので、カイザを少し留めた。

「なあ、ちょっと試してみたい事があるんで、いいかな」
「何をするつもりだ。いくらお前でも一度に大量に魔物に湧かれたら倒すのは無理だぞ」

「まあまあ、試すだけだよ」
 そして俺はその巣を構成しているだろう『土』をごっそりと収納してみせた。

 そこには巨大な蟻の巣改め、まるで対極の存在である蟻地獄のような穴が出来上がっていた。

 魔物の巣を丸ごと大きく切り取ってみせたので、直径三十メートルほどの鋭角なすり鉢状の穴が出来上がった。

 生きた魔物は収納できないので、奴らは三十匹ほどが中央の窪みに無様に転がって喚いていた。

 こいつらが溜まったウンコのように出かかっていたが、お尻の方が無くなったので無様にウンコどもがそこに転がっているというわけだ。

 やっぱりこうなるのか。魔物でいっぱいなのでよく見えなくて、あまりはっきりした事は言えないが、すり鉢の底に魔物が湧くような穴は確認できなかったように思う。

 怪物どもめ、一体どこから湧いてくるんだよ。どいつもこいつも化け物みたいな姿をした連中だ。

 高さ三メートルくらいの蟷螂に、これまた足から足の先までが三メートルほどの蜘蛛だ。

 人間を捕食するのに手頃なサイズだなあ。こいつの素早さにかかっては人間などまるで芋虫扱いされそうだ。

 あれも芋虫が結構頑強に蟷螂に抵抗していて、動画サイトでは見ごたえのある戦いになっていたりするのだが。

 他は蠍に蛇に、あとはよくわからない不気味な姿をした奴とか、俺が作った蟻地獄の底の方に絡まるように蠢いて、まるで魔物同士が蟲毒のリングの中で殺し合っているかのようだ。

 だが奴らは殺し合わずに、超急角度なすり鉢の壁を這い上がってこようとしている。他の魔物の頭などを踏んづけながらで、互いに協力して上がってこないだけマシだった。

 蟻地獄のように砂が滑ったりしないため、魔物の種類によってはかろうじて登ってこれてしまうのだ。

 俺は更にすり鉢を切り取って、穴を壁が垂直になる極度に深い円筒形にしてやったので、奴らは深い穴の中で上手に這い上がれない状態になった。

 直径四十メートル、深さ二百メートルの見事な縦穴だった。翅のある蟷螂なんかの魔物が飛ぶといけないから早めに処置しよう。

 とりあえず大型の槍を大量に放り込んで一匹残らず串刺しにしてやった。穴の淵から覗くと魔物の数がかなり増えていたようだ。

 どうやら、あの二回目に取り去った土の中にも這い出てこようとする魔物の予備軍がいたらしい。

 だが湧きだしている部分は、やはり確認できない。魔物は、地中のどのくらいの深さから湧いてくるものなのか。

 こんな物を昆虫採集の標本にしていても仕方がないので、もう処理してしまう事にした。

「なあ、カイザ」
「なんだ」

「もう村は捨てるといったよな」
「ああ、そうしたくはないのだが、こうなればもう他に仕方がない」

「ちょっとあれを強烈に焼いてみてもいいか。そこまでするとこの大事な森にも結構被害が出てしまいそうだが」

「もう好きにしろ。焼いて、この魔物穴をどうにかできるのなら安いものだ。冒険者にしろ、王国軍にしろ、討伐には半端でない金がかかる。今の状況だと最悪は丸々放っておかれるのだ。何しろ今は時期が悪すぎる」

「おいおい、放っておいたら周辺の街とか村が大変だろう。じゃあ試すぞ。周りを見ていてくれ。他にも穴の外に出ている魔物がいるかもしれない」
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