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第二章
二、そのスパイ、誘われる。
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その日の授業は、ごくあっさりと午前中のみで終わった。
それに『授業』とは言うものの、学校設備の説明やグリフィス高等学校の歴史などなど。どちらかといえば説明会の延長線のようなものだった。
時刻は昼の一時過ぎ。俺は旧校舎の非正規クラスで、帰りのホームルームを受けていた。もちろん取り仕切るのは、このクラスの担任であるガラン=オーレスト先生だ。
「――と、言うわけで明日からはばっちりと授業やるから、気合を入れてくるよーに! そんじゃ、風邪ひくなよー!」
先生は最低限の予定だけ伝えると、手を打ち鳴らし解散とした。
実際明日以降は、午前午後とみっちり時間割が組まれている。いよいよ本格的に学校が始まるわけだ。
(勇者と聖剣がここ最近急に調べた理由を探るのは……まだもう少し先かな)
本格的に動き出すのは、最低でもこの学校の構造に警備体制、そういった最低限の下調べが終わってからだ。
ぼんやりと窓の外を眺めながらそんなことを考えていると――。
「そ、その……い、一緒に帰りません、か……?」
少しもじもじと、そして何故か緊張に顔を強張らせたヌイが、俺とロメロにそう言った。
「あぁ、いいぞ」
「ほ、本当ですかっ!?」
俺が快く頷くと、ヌイは嬉しそうに顔をほころばせた。
「お、おぅ……」
(そういえば……小さい頃からヌイはずっと一人だと言っていたな……)
もしかしたら彼女にとっては、こんなどこにでもあるようなごく普通の――友達とのイベントが希少で大切なものなのかもしれないな。
すると隣の席で帰り支度をしていたロメロは、立ち上がり首を横に振った。
「悪いな。俺は今日剣術の特訓があるから、馬車で先に帰らせてもらう」
「そうか、頑張れよ」
「が、学校が終わった後も特訓ですかっ!? す、凄いですね……」
何でもロメロは毎週少なくても三回は、外部から講師を呼びつけて剣術指導を行ってもらっているらしい。さすがは貴族の長男坊――家からかけられる期待と教育費は凄まじいものだ。
「ふんっ、ザルステッド家の長子としては当然のことだ」
ロメロはどこか誇らしげにそう言うと。
「それじゃまた明日な」
早足に教室から出ていった。
「それじゃ途中までは一緒に帰ろうか」
「は、はいっ!」
そうして俺とヌイは、二人で一緒に帰路についた。
■
途中まで一緒に帰る――とは言ったものの……。
(さて……どのあたりで分かれるのが自然かな……)
俺の家は高校からずいぶんと離れたところにある孤児院だ。
当然ながら毎度毎度、孤児院から高校まで徒歩で通うわけにはいかず、<異空間の扉/ゲート>を使って登下校している。
そして今の俺は一介の高校生という設定だ。高難度魔法の<異空間の扉/ゲート>を使っているところを見られるわけにはいかない。
(次の交差点で……いや、その先にある大通りで分かれるとするか)
そんなことを考えていると――。
「そ、そのオウルさんっ!」
顔を真っ赤にしたヌイが真剣な表情で、真っ直ぐに俺を見てきた。
「お、おう。どうしたんだ急に?」
「そ、その……もしよろしければ……っ! これから一緒に遊びに行きませんかっ!?」
「あぁ、いいぞ」
「ほ、本当ですかっ!?」
最低でもこれから一年間、ヌイとは学校で顔を会わせることになる。学校内で浮いてしまわないためにも――仕事を順調に進めるためにも仲の良い友人というのは必要だ。やることは山積みだが、これも仕事の一環である。
「あぁ、それでどこに行こうか?」
俺は自らリードせずに、ヌイに選択権を委ねることにした。
というのも、正直この年頃の女の子をどこに連れて行けば喜ぶかがわからなかったのだ。
「そ、それでは……。わ、私のお家で遊ぶというのは、どうでしょうか?」
少し考える素振りを見せたヌイは、その後割と大胆な提案をしてきた。
「俺は別に構わないが……親御さんの迷惑にならないか?」
「い、いえいえ! それは全然大丈夫ですよっ! むしろ男のお友達が出来たら、すぐに連れ込むようにと言われていますっ!」
(……んん? 『男の』お友達を『連れ込む』ように……?)
いくつか引っ掛かるものはあったが……。まぁヌイは少し変な子だし、言い間違いだろう。
「そうか、それならお邪魔させてもらうとしよう」
そうして俺は上機嫌なヌイに連れられ、彼女の家へと向かった。
その道中、少し前から気になっていたことがあったので、いい機会だし話の種にもなると思って聞いてみることにした。
「ヌイは小さいころ――小学生や中学生のころは何をしていたんだ?」
彼女は何というか『友達慣れ』していないように思えた。それに実際自分の口から、『小さい頃からずっと一人』と言っていた。いったいどのような幼少期を過ごしてきたのだろうか。
「バイトです」
「ば、バイト……? 小学生や中学生のころからか……?」
普通この国では、バイトをするのは高校生からというのが一般的だが……。
「はい。お恥ずかしながら、私のお家はあまり裕福じゃないので……。私が毎日バイトに出て、お金を稼いでいたんですよ」
「……なるほど。いや、変なことを聞いてすまなかったな」
しまった、少し踏み込み過ぎたか……。
俺は少し反省しながら、あまり重すぎない程度に謝罪した。
「あーいえいえ。私が勝手に話し出しただけなので、気にしないでください。さぁ、こっちです!」
そう言ってヌイは全く気にしていない素振りで、道案内を続けた。
それから道なりにしばらく歩いていくと、突然彼女の足取りが早くなった。どうやらもうすぐそこのようだ。
「オウルさん、こっちです。もうすぐ見えてきますよ」
そう言ってヌイは階段を降りていった。
「あ、あぁ……」
俺は少し嫌な予感を感じながらも、彼女の後をついていった。
さすがにここまで来ておいて、引き返すわけにはいかない。
そうしてヌイに連れて来られた先は――橋の下だった。
「ここが私のお家です」
ヌイが指差したのは、どこからどう見ても段ボールで作られたボロボロの家だった。
(……完全に違法建築だ。というかそもそも、ここは公共の場所だ)
ヌイはこんなところに住んでいたのか……。
発言の端々から彼女の家が裕福でないことは予想していたが、まさかここまでとは……。
あまりにも予想外のマイホームに俺が呆然と立ちすくんでいると――とある違和感に襲われた。
(これは……?)
俺は違和感の正体を確かめるべく、普段から無意識的に放出している魔力を完全に体の内に留めた。
すると――。
(……ほぅ)
すると目の前にあったはずの段ボールの家は消え去った。それと同時に、『そこに家があった』という記憶までがぼんやりと薄れはじめた。
(――よっと)
体の内に留めた魔力をいつも通りに放出すると、目の前に段ボールの家が再び出現し、記憶も鮮明なものになった。
(……なるほどな)
どういうわけかヌイの住むこの家には、認識阻害魔法と不可視化の魔法が施されているようだ。
(それもかなり高レベルの術者の仕業だな……これは)
人の意識……それも記憶にまで干渉するほどの認識阻害魔法。加えてこれほど大きな建造物を丸々包み隠すほどの不可視化の魔法。そして何より、それを維持し続けるだけの魔力。
(これは……気を引き締めないといけないな)
俺がこれらの魔法から逃れられたのは、魔法技能が特別優れているからというわけではない。俺の持つ少し特殊な魔力のおかげだ。これは幻覚魔法・認識阻害魔法のような、意識干渉系の魔法に対し絶対的な効果を発揮する。これが無ければ、もしかすると完全に引っ掛かっていたかもしれない。
「あれ、どうかしましたか、オウルさん?」
俺がいきなり黙り込んだことを不思議に思ったのだろう、ヌイは小首を傾げた。
「あー……いや、何でもない。気にするな」
「そ、そうですか?」
(……どうやらヌイには、これらの魔法は牙を向いていないようだな)
となると必然的に術者はヌイの両親ということになる。
「それじゃ、行きましょうか」
「……あぁ」
そうしてヌイは、ボロボロの玄関をノックし、扉を開いた。どうやら鍵はかかっていない――というよりもそもそも鍵はないようだった。
「お父さん、お母さん。ただいま」
ヌイが元気よく帰りを知らせる挨拶をすると――。
「あぁ、おかえり」
「おかえり、ヌイ。……おや、お友達かい?」
人の好さそうな笑顔を浮かべた一組の夫婦が、ヌイを出迎えた。彼女の両親だろう。
「うん! 同じグリフィス高校のお友達でオウルさんって言うの」
いつもの敬語がとれた、年相応のリラックスした口調だった。どうやら家族関係は良好なようだ。
ヌイの紹介を与ったところで、俺は余所行きの丁寧な挨拶をする。
「オウル=ハイドリッツです。ヌイさんとは学校で仲良くさせてもらっています。本日はお忙しいところ、お邪魔して申し訳ございません」
そう言ってペコリと頭を下げると、ヌイの父親は優し気に笑った。
「はっはっはっ。礼儀正しいお友達だな、ヌイ。オウル君、何もないところだがゆっくりとしていくといい。おっと、自己紹介が遅れたね。私はヌイの父親ロン=マストリアだ。そしてこっちが家内の――」
「マリア=マストリアです。これからもヌイと、仲良くしてやってくださいね」
ヌイのご両親が丁寧な挨拶をしてくれた。
「えぇ、もちろんです」
こうして一見和やかな、自己紹介は無事に終わった。
(ロン=マストリアにマリア=マストリア……ね)
偽名だ。
この二人の顔は手配書で何度も見たことがある。
(確か男の方がロン=グレイシア。女の方がマリア=グレイシアだったな。……まさかこんなところに潜伏していたとはな)
二人とも少し前に世間を騒がせていた大泥棒だ。
今も絶賛指名手配中であり、確か懸賞金として数百万ゴルが懸けられていたはずだ。
俺が警戒心を強めている一方で、対する二人もその優し気な皮の一枚下で、鋭い目付きで俺を品定めしていた。
(母さんや、こんな小童が本当にあの二重の魔法を破ったと思うか……?)
(お父さん、見かけに騙されてはいけませんよ。ヌイのクラスメイトということは、あのグリフィス高等学校の生徒です。<魔法無効化/ディスペル>が使えても何ら不思議はありません)
(うむ……確かにそうだな……。少し気を引き締め直すとするよ)
二人の鋭い視線に晒された俺は、疑念を確信に変える。
(ここまで警戒されているとなると……この二人のどちらか、あるいは両方があの魔法を発動したことは間違いないな)
術者は魔法が破られたことをすぐに知覚することができる。二人には俺が不可視化と認識阻害魔法を破ったことが伝わっているはずだ。何より、この警戒が何よりの証左となっている。
「ささっ、オウル君、こんなところで立ち話も難だ。どうぞ上がってくれ」
「失礼します」
こうして俺は、ヌイの家へと足へ踏み入れた。
それに『授業』とは言うものの、学校設備の説明やグリフィス高等学校の歴史などなど。どちらかといえば説明会の延長線のようなものだった。
時刻は昼の一時過ぎ。俺は旧校舎の非正規クラスで、帰りのホームルームを受けていた。もちろん取り仕切るのは、このクラスの担任であるガラン=オーレスト先生だ。
「――と、言うわけで明日からはばっちりと授業やるから、気合を入れてくるよーに! そんじゃ、風邪ひくなよー!」
先生は最低限の予定だけ伝えると、手を打ち鳴らし解散とした。
実際明日以降は、午前午後とみっちり時間割が組まれている。いよいよ本格的に学校が始まるわけだ。
(勇者と聖剣がここ最近急に調べた理由を探るのは……まだもう少し先かな)
本格的に動き出すのは、最低でもこの学校の構造に警備体制、そういった最低限の下調べが終わってからだ。
ぼんやりと窓の外を眺めながらそんなことを考えていると――。
「そ、その……い、一緒に帰りません、か……?」
少しもじもじと、そして何故か緊張に顔を強張らせたヌイが、俺とロメロにそう言った。
「あぁ、いいぞ」
「ほ、本当ですかっ!?」
俺が快く頷くと、ヌイは嬉しそうに顔をほころばせた。
「お、おぅ……」
(そういえば……小さい頃からヌイはずっと一人だと言っていたな……)
もしかしたら彼女にとっては、こんなどこにでもあるようなごく普通の――友達とのイベントが希少で大切なものなのかもしれないな。
すると隣の席で帰り支度をしていたロメロは、立ち上がり首を横に振った。
「悪いな。俺は今日剣術の特訓があるから、馬車で先に帰らせてもらう」
「そうか、頑張れよ」
「が、学校が終わった後も特訓ですかっ!? す、凄いですね……」
何でもロメロは毎週少なくても三回は、外部から講師を呼びつけて剣術指導を行ってもらっているらしい。さすがは貴族の長男坊――家からかけられる期待と教育費は凄まじいものだ。
「ふんっ、ザルステッド家の長子としては当然のことだ」
ロメロはどこか誇らしげにそう言うと。
「それじゃまた明日な」
早足に教室から出ていった。
「それじゃ途中までは一緒に帰ろうか」
「は、はいっ!」
そうして俺とヌイは、二人で一緒に帰路についた。
■
途中まで一緒に帰る――とは言ったものの……。
(さて……どのあたりで分かれるのが自然かな……)
俺の家は高校からずいぶんと離れたところにある孤児院だ。
当然ながら毎度毎度、孤児院から高校まで徒歩で通うわけにはいかず、<異空間の扉/ゲート>を使って登下校している。
そして今の俺は一介の高校生という設定だ。高難度魔法の<異空間の扉/ゲート>を使っているところを見られるわけにはいかない。
(次の交差点で……いや、その先にある大通りで分かれるとするか)
そんなことを考えていると――。
「そ、そのオウルさんっ!」
顔を真っ赤にしたヌイが真剣な表情で、真っ直ぐに俺を見てきた。
「お、おう。どうしたんだ急に?」
「そ、その……もしよろしければ……っ! これから一緒に遊びに行きませんかっ!?」
「あぁ、いいぞ」
「ほ、本当ですかっ!?」
最低でもこれから一年間、ヌイとは学校で顔を会わせることになる。学校内で浮いてしまわないためにも――仕事を順調に進めるためにも仲の良い友人というのは必要だ。やることは山積みだが、これも仕事の一環である。
「あぁ、それでどこに行こうか?」
俺は自らリードせずに、ヌイに選択権を委ねることにした。
というのも、正直この年頃の女の子をどこに連れて行けば喜ぶかがわからなかったのだ。
「そ、それでは……。わ、私のお家で遊ぶというのは、どうでしょうか?」
少し考える素振りを見せたヌイは、その後割と大胆な提案をしてきた。
「俺は別に構わないが……親御さんの迷惑にならないか?」
「い、いえいえ! それは全然大丈夫ですよっ! むしろ男のお友達が出来たら、すぐに連れ込むようにと言われていますっ!」
(……んん? 『男の』お友達を『連れ込む』ように……?)
いくつか引っ掛かるものはあったが……。まぁヌイは少し変な子だし、言い間違いだろう。
「そうか、それならお邪魔させてもらうとしよう」
そうして俺は上機嫌なヌイに連れられ、彼女の家へと向かった。
その道中、少し前から気になっていたことがあったので、いい機会だし話の種にもなると思って聞いてみることにした。
「ヌイは小さいころ――小学生や中学生のころは何をしていたんだ?」
彼女は何というか『友達慣れ』していないように思えた。それに実際自分の口から、『小さい頃からずっと一人』と言っていた。いったいどのような幼少期を過ごしてきたのだろうか。
「バイトです」
「ば、バイト……? 小学生や中学生のころからか……?」
普通この国では、バイトをするのは高校生からというのが一般的だが……。
「はい。お恥ずかしながら、私のお家はあまり裕福じゃないので……。私が毎日バイトに出て、お金を稼いでいたんですよ」
「……なるほど。いや、変なことを聞いてすまなかったな」
しまった、少し踏み込み過ぎたか……。
俺は少し反省しながら、あまり重すぎない程度に謝罪した。
「あーいえいえ。私が勝手に話し出しただけなので、気にしないでください。さぁ、こっちです!」
そう言ってヌイは全く気にしていない素振りで、道案内を続けた。
それから道なりにしばらく歩いていくと、突然彼女の足取りが早くなった。どうやらもうすぐそこのようだ。
「オウルさん、こっちです。もうすぐ見えてきますよ」
そう言ってヌイは階段を降りていった。
「あ、あぁ……」
俺は少し嫌な予感を感じながらも、彼女の後をついていった。
さすがにここまで来ておいて、引き返すわけにはいかない。
そうしてヌイに連れて来られた先は――橋の下だった。
「ここが私のお家です」
ヌイが指差したのは、どこからどう見ても段ボールで作られたボロボロの家だった。
(……完全に違法建築だ。というかそもそも、ここは公共の場所だ)
ヌイはこんなところに住んでいたのか……。
発言の端々から彼女の家が裕福でないことは予想していたが、まさかここまでとは……。
あまりにも予想外のマイホームに俺が呆然と立ちすくんでいると――とある違和感に襲われた。
(これは……?)
俺は違和感の正体を確かめるべく、普段から無意識的に放出している魔力を完全に体の内に留めた。
すると――。
(……ほぅ)
すると目の前にあったはずの段ボールの家は消え去った。それと同時に、『そこに家があった』という記憶までがぼんやりと薄れはじめた。
(――よっと)
体の内に留めた魔力をいつも通りに放出すると、目の前に段ボールの家が再び出現し、記憶も鮮明なものになった。
(……なるほどな)
どういうわけかヌイの住むこの家には、認識阻害魔法と不可視化の魔法が施されているようだ。
(それもかなり高レベルの術者の仕業だな……これは)
人の意識……それも記憶にまで干渉するほどの認識阻害魔法。加えてこれほど大きな建造物を丸々包み隠すほどの不可視化の魔法。そして何より、それを維持し続けるだけの魔力。
(これは……気を引き締めないといけないな)
俺がこれらの魔法から逃れられたのは、魔法技能が特別優れているからというわけではない。俺の持つ少し特殊な魔力のおかげだ。これは幻覚魔法・認識阻害魔法のような、意識干渉系の魔法に対し絶対的な効果を発揮する。これが無ければ、もしかすると完全に引っ掛かっていたかもしれない。
「あれ、どうかしましたか、オウルさん?」
俺がいきなり黙り込んだことを不思議に思ったのだろう、ヌイは小首を傾げた。
「あー……いや、何でもない。気にするな」
「そ、そうですか?」
(……どうやらヌイには、これらの魔法は牙を向いていないようだな)
となると必然的に術者はヌイの両親ということになる。
「それじゃ、行きましょうか」
「……あぁ」
そうしてヌイは、ボロボロの玄関をノックし、扉を開いた。どうやら鍵はかかっていない――というよりもそもそも鍵はないようだった。
「お父さん、お母さん。ただいま」
ヌイが元気よく帰りを知らせる挨拶をすると――。
「あぁ、おかえり」
「おかえり、ヌイ。……おや、お友達かい?」
人の好さそうな笑顔を浮かべた一組の夫婦が、ヌイを出迎えた。彼女の両親だろう。
「うん! 同じグリフィス高校のお友達でオウルさんって言うの」
いつもの敬語がとれた、年相応のリラックスした口調だった。どうやら家族関係は良好なようだ。
ヌイの紹介を与ったところで、俺は余所行きの丁寧な挨拶をする。
「オウル=ハイドリッツです。ヌイさんとは学校で仲良くさせてもらっています。本日はお忙しいところ、お邪魔して申し訳ございません」
そう言ってペコリと頭を下げると、ヌイの父親は優し気に笑った。
「はっはっはっ。礼儀正しいお友達だな、ヌイ。オウル君、何もないところだがゆっくりとしていくといい。おっと、自己紹介が遅れたね。私はヌイの父親ロン=マストリアだ。そしてこっちが家内の――」
「マリア=マストリアです。これからもヌイと、仲良くしてやってくださいね」
ヌイのご両親が丁寧な挨拶をしてくれた。
「えぇ、もちろんです」
こうして一見和やかな、自己紹介は無事に終わった。
(ロン=マストリアにマリア=マストリア……ね)
偽名だ。
この二人の顔は手配書で何度も見たことがある。
(確か男の方がロン=グレイシア。女の方がマリア=グレイシアだったな。……まさかこんなところに潜伏していたとはな)
二人とも少し前に世間を騒がせていた大泥棒だ。
今も絶賛指名手配中であり、確か懸賞金として数百万ゴルが懸けられていたはずだ。
俺が警戒心を強めている一方で、対する二人もその優し気な皮の一枚下で、鋭い目付きで俺を品定めしていた。
(母さんや、こんな小童が本当にあの二重の魔法を破ったと思うか……?)
(お父さん、見かけに騙されてはいけませんよ。ヌイのクラスメイトということは、あのグリフィス高等学校の生徒です。<魔法無効化/ディスペル>が使えても何ら不思議はありません)
(うむ……確かにそうだな……。少し気を引き締め直すとするよ)
二人の鋭い視線に晒された俺は、疑念を確信に変える。
(ここまで警戒されているとなると……この二人のどちらか、あるいは両方があの魔法を発動したことは間違いないな)
術者は魔法が破られたことをすぐに知覚することができる。二人には俺が不可視化と認識阻害魔法を破ったことが伝わっているはずだ。何より、この警戒が何よりの証左となっている。
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