1 / 107
レイズの過去を知る
繰り返すNEWSTAR☆T
しおりを挟む
彼は、またコントローラーを握っていた。
いったい何週目になるのか、もう覚えていない。数を数えることすらやめてしまった。
ただ習慣のように――いや、執念のように――今日もゲームを始める。
画面に映るのは見慣れたタイトルロゴとスタート画面。
「CONTINUE」ではなく、いつも決まって「NEW GAME」。
そして始まるチュートリアル。
攻撃ボタンの説明、移動操作、スキル発動……そんなものは、とうの昔に覚えきっている。
彼にとっての目的は別にあった。
チュートリアルの終盤に必ず現れる小太りの中年男――レイズ。
ゲーム内主人公「カイル」が最初に倒す、いわば噛ませ犬。
ストーリーに大きく関わることもなく、序盤で姿を消す運命の敵キャラ。
――だが、おかしいのはキャラクター紹介だった。
名前:レイズ
属性:氷、そして……死属性。
“死属性”。
それはこのゲームで最も無価値とされる烙印だ。
誰もが「無駄な属性」と呼び、略して“無属性”。
つかいどころなど一切ない。だからこそ公式の説明文にはこう記されている。
――死属性。
彼は、コントローラーを握る手に自然と力を込めた。
無駄と切り捨てられた男、レイズ。
だが、周回を繰り返すうちに確信めいた思いが芽生えていた。
――この男には、何かがある。
そして、今日もまたゲームが始まる。
そして――俺は知っている。
“死属性”が、どれだけ頭のおかしい性能を秘めているのかを。
氷属性だけでも十分に希少だ。
だが、死属性――そう表記されたそれは、比べ物にならない。
なにせゲームの終盤でようやく明かされる。
もし、この真実をもっと早く理解できていたなら――
歴史は、何重にも塗り替えられていたはずなのだ。
にもかかわらず、死属性は「無駄」と切り捨てられ、
チュートリアルの小太りの男――レイズに与えられた。
……笑えるだろ?
誰も気に留めないザコ敵に、世界を変える鍵が隠されているなんて。
だから俺は繰り返す。
何度も、何度でも――チュートリアルから。
しかし――おかしい。
死属性の扱い方が分からないのは仕方ないとしても、レイズは氷属性の片鱗すら見せない。
ただ小太りの体を揺らし、鈍い動きで剣を振り回すだけ。
その攻撃は遅く、隙だらけで、ゲームを始めたばかりのプレイヤーにですら容易く見切られる。
そして、あっけなく倒される。
まるで「俺はチュートリアルの雑魚敵です」と言わんばかりに。
――氷属性?死属性?
そんなもの、影すら見えない。
だが俺は知っている。
この男が本当は、ゲームの歴史すら覆す性能を秘めているということを。
ならば、なぜ――?
なぜレイズは、何もせずに斬り捨てられるだけの存在として固定されているのか。
そこに、答えがある。
俺はそう信じている。
そうして、何度も何度も繰り返しているうちに――
俺は、この男の表情に妙な違和感を覚えるようになった。
なんとなくだが……死ぬことを望んでいるように見えるのだ。
斬り伏せられる瞬間、ほっとしたように笑っている気さえする。
もちろん、ただのグラフィックの表現ミスかもしれない。
古いゲームだからドットやポリゴンの崩れなんて珍しくない。
……だが、それだけじゃ説明できない何かがある。
だから俺は、レイズの言葉に耳を澄まし、少しずつ台詞を整理するようになった。
――「ただではやられない」
――「昔だったら、おまえみたいなの簡単に倒せるぞ」
違和感だ。どう考えてもチュートリアルの雑魚キャラが言う台詞じゃない。
“昔だったら”?
“簡単に倒せる”?
まるで、かつては属性を使いこなせていたかのような言い草だ。
……どういう意味だ。
気になる。気になりすぎる。
やがて俺は、ゲームそのものよりもこのキャラ――レイズの存在に囚われていった。
夜ベッドに潜って目を閉じると、気味が悪いほど鮮明にあの小太りの男の顔が浮かぶ。
夢にまで出てくるほどに。
そうして俺は、レイズを倒してはやり直し、また倒してはやり直した。
気がつけば、それが当たり前になっていた。
無限に繰り返すチュートリアル。
無限に繰り返す敗北するレイズ。
そして俺だけが、その違和感に囚われ続けていた。
いつのまにか、まぶたが重くなっていく。
コントローラーを握ったまま、俺は眠りに落ちていた。
――そして、目を覚ましたとき。
俺の視界には、見慣れた天井も机もなく、
モニターに映るはずの画面さえ存在しなかった。
そこにあったのは――
“いつもと違う景色”。
緑の草原。冷たい風。どこかで鳥の声が響いている。
だがそれはテレビの中の映像ではない。
肌を刺す空気の冷たさも、風の匂いも、まるで現実そのものだった。
俺は立ち尽くしていた。
夢なのか、現実なのか。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
――ここは、俺がいた世界ではない
いったい何週目になるのか、もう覚えていない。数を数えることすらやめてしまった。
ただ習慣のように――いや、執念のように――今日もゲームを始める。
画面に映るのは見慣れたタイトルロゴとスタート画面。
「CONTINUE」ではなく、いつも決まって「NEW GAME」。
そして始まるチュートリアル。
攻撃ボタンの説明、移動操作、スキル発動……そんなものは、とうの昔に覚えきっている。
彼にとっての目的は別にあった。
チュートリアルの終盤に必ず現れる小太りの中年男――レイズ。
ゲーム内主人公「カイル」が最初に倒す、いわば噛ませ犬。
ストーリーに大きく関わることもなく、序盤で姿を消す運命の敵キャラ。
――だが、おかしいのはキャラクター紹介だった。
名前:レイズ
属性:氷、そして……死属性。
“死属性”。
それはこのゲームで最も無価値とされる烙印だ。
誰もが「無駄な属性」と呼び、略して“無属性”。
つかいどころなど一切ない。だからこそ公式の説明文にはこう記されている。
――死属性。
彼は、コントローラーを握る手に自然と力を込めた。
無駄と切り捨てられた男、レイズ。
だが、周回を繰り返すうちに確信めいた思いが芽生えていた。
――この男には、何かがある。
そして、今日もまたゲームが始まる。
そして――俺は知っている。
“死属性”が、どれだけ頭のおかしい性能を秘めているのかを。
氷属性だけでも十分に希少だ。
だが、死属性――そう表記されたそれは、比べ物にならない。
なにせゲームの終盤でようやく明かされる。
もし、この真実をもっと早く理解できていたなら――
歴史は、何重にも塗り替えられていたはずなのだ。
にもかかわらず、死属性は「無駄」と切り捨てられ、
チュートリアルの小太りの男――レイズに与えられた。
……笑えるだろ?
誰も気に留めないザコ敵に、世界を変える鍵が隠されているなんて。
だから俺は繰り返す。
何度も、何度でも――チュートリアルから。
しかし――おかしい。
死属性の扱い方が分からないのは仕方ないとしても、レイズは氷属性の片鱗すら見せない。
ただ小太りの体を揺らし、鈍い動きで剣を振り回すだけ。
その攻撃は遅く、隙だらけで、ゲームを始めたばかりのプレイヤーにですら容易く見切られる。
そして、あっけなく倒される。
まるで「俺はチュートリアルの雑魚敵です」と言わんばかりに。
――氷属性?死属性?
そんなもの、影すら見えない。
だが俺は知っている。
この男が本当は、ゲームの歴史すら覆す性能を秘めているということを。
ならば、なぜ――?
なぜレイズは、何もせずに斬り捨てられるだけの存在として固定されているのか。
そこに、答えがある。
俺はそう信じている。
そうして、何度も何度も繰り返しているうちに――
俺は、この男の表情に妙な違和感を覚えるようになった。
なんとなくだが……死ぬことを望んでいるように見えるのだ。
斬り伏せられる瞬間、ほっとしたように笑っている気さえする。
もちろん、ただのグラフィックの表現ミスかもしれない。
古いゲームだからドットやポリゴンの崩れなんて珍しくない。
……だが、それだけじゃ説明できない何かがある。
だから俺は、レイズの言葉に耳を澄まし、少しずつ台詞を整理するようになった。
――「ただではやられない」
――「昔だったら、おまえみたいなの簡単に倒せるぞ」
違和感だ。どう考えてもチュートリアルの雑魚キャラが言う台詞じゃない。
“昔だったら”?
“簡単に倒せる”?
まるで、かつては属性を使いこなせていたかのような言い草だ。
……どういう意味だ。
気になる。気になりすぎる。
やがて俺は、ゲームそのものよりもこのキャラ――レイズの存在に囚われていった。
夜ベッドに潜って目を閉じると、気味が悪いほど鮮明にあの小太りの男の顔が浮かぶ。
夢にまで出てくるほどに。
そうして俺は、レイズを倒してはやり直し、また倒してはやり直した。
気がつけば、それが当たり前になっていた。
無限に繰り返すチュートリアル。
無限に繰り返す敗北するレイズ。
そして俺だけが、その違和感に囚われ続けていた。
いつのまにか、まぶたが重くなっていく。
コントローラーを握ったまま、俺は眠りに落ちていた。
――そして、目を覚ましたとき。
俺の視界には、見慣れた天井も机もなく、
モニターに映るはずの画面さえ存在しなかった。
そこにあったのは――
“いつもと違う景色”。
緑の草原。冷たい風。どこかで鳥の声が響いている。
だがそれはテレビの中の映像ではない。
肌を刺す空気の冷たさも、風の匂いも、まるで現実そのものだった。
俺は立ち尽くしていた。
夢なのか、現実なのか。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
――ここは、俺がいた世界ではない
50
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる