【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

転生が始まる。

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――ここは、俺のいた世界じゃない。

 そう確信した瞬間、背筋に冷たいものが走った。
 見渡せば、石畳の道の先に堂々とした屋敷がそびえ、その門前では数人のメイドが忙しなく行き交っている。
 どう見ても、現代日本ではありえない光景だった。

 反射的に、自分の手を見下ろす。

「……は?」

 目に映ったのは、太くて短い指。
 俺の手は、本来もっと細く――すらりとして、どこか神経質な印象を与えるものだったはずだ。
 けれど今、そこにあるのは肉に埋もれたぶよぶよの指先。信じられないほどの厚みがある。

 喉が鳴った。

 お腹に触れる。――柔らかい。
 頬を撫でる。――丸い。
 全身から冷たい汗が滲み出した。

(……まさか)

 思考が、現実を拒絶する。
 けれど、どう足掻いても否定できなかった。

「俺……太ったキャラに転生したのか!?」

 デブキャラ転生。悪い冗談にもほどがある。
 だが、目の前の現実はどこまでも本物だ。

「鏡……鏡はどこだ!」

 必死に辺りを見回す。
 屋敷の前を通るメイドたちは、俺の存在に気づきながらも視線を逸らした。
 まるで“見てはいけないもの”を見たかのように、怯え、避ける。

 胸がざわめいた。

(俺、そんなに……醜いのか?)

 鏡を探す足が震える。見たい。だが怖い。
 心臓の鼓動が速くなる。
 それでも、恐怖よりも好奇心の方が勝った。

 震える手で一歩、踏み出す。

「……っ、重っ……!」

 身体の奥から鈍い抵抗。
 まるで鉛を巻きつけられたような重さ。
 一歩進むたびに足が沈み、腕を上げるたびに筋肉が悲鳴を上げる。

 ――これが、この肉体か。

 息を吸い込む。冷たい空気が肺を満たす。
 遠くで、風に揺れる草木のざわめきが聞こえた。
 そして、理解する。

 ここはもう、現実ではない。

少し歩いただけで、全身から汗が噴き出していた。
 息は荒く、視界がじんわりと霞む。
 ようやく辿り着いた屋敷の中は、静寂と冷気に包まれていた。

 ――廊下の片隅。
 そこに、立てかけられた鏡があった。

「……やっと、確認できる……」

 恐怖と期待がないまぜになった息を呑み、俺はおそるおそる顔を映した。

 そして、凍りついた。

「……誰、これ……?」

 鏡の中にいたのは――金色の髪を持つ少年。
 年の頃は十一、いや十四歳前後か。
 陽光を浴びて輝く金髪に、深海のような蒼い瞳。
 透き通る白い肌。どこを取っても絵画のような美しさ。

 そこまでは、完璧だった。

 ……だが。

 その美貌のすべてを叩き壊すように、顔の輪郭は肉に埋もれ、首は消え、腹が丸く突き出ていた。
 そう、見事に“太っていた”のだ。

 金髪碧眼の美少年――ただし、異常なほどの肥満体。
 まるで“神が彫刻を作ってからうっかり膨らませた”かのような、不釣り合いな姿だった。

「…………っ」

 息を飲む。喉が、音もなく凍りついた。
 羨まれる顔立ちと、拒絶される体型。
 その矛盾が胸を突き刺す。
 どう見ても、これは“俺”ではない。

 ……いや、待て。

 この金髪、この青い瞳――どこかで見たことがある。
 そして、嫌な予感が首筋を這い上がった、その瞬間。

「あの……レイズ様……?」

 背後から、控えめな声。

 ――レイズ?

 振り返ると、そこにはメイド服を着た少女が立っていた。
 怯えたようにこちらを見つめながら、もう一度口を開く。

「レイズ様……お加減が、悪いのですか?」

 レイズ。
 その名前を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がる。
 まるで胸の奥を掴まれたような衝撃だった。

 慌ててもう一度、鏡を覗き込む。

(……これが、レイズ……?)

 チュートリアルでいつも斬り捨ててきた男。
 無価値とされた“死属性”を持つ、中年の悪役。
 だがそこに映るのは――金髪の少年。

「……まさか、こいつが……」

 頭の中で、何かが繋がった。

 だが理解した瞬間、脳が拒絶した。

「大丈夫なわけ、ないだろぉぉぉ!!」

 絶叫が廊下に響き渡る。
 メイドがびくりと跳ね、慌てて頭を下げた。

「ご、ごめんなさい! 申し訳ありません!」

「いや違う! そういう意味じゃない!!」

 俺は慌てて手を振り、両手で自分の腹をぽよんぽよんと押してみせた。

「見ろよこれ! どう見ても“大丈夫”じゃねえだろ、この体!!」

 廊下に沈黙が落ちた。
 メイドは困惑したまま、俺の顔と腹を交互に見比べる。
 その視線が痛いほどに刺さった。

 ……そうか。
 俺はレイズに転生したのか…。
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