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レイズの未来を変える。
雰囲気を壊す天才
しおりを挟む凍りついた中庭の光景がまだ頭に残るまま、屋敷へと戻るレイズ。
その玄関先には――屋敷の者たちがずらりと並び立っていた。
皆が無言で一斉に頭を下げる。
その空気は、厳かで、どこか温かい。
――ようやく、誰もが正式にレイズを当主として認めた証だった。
ヴィルは胸を張り、堂々と声を響かせる。
「誰もが認めた。――私はレイズを当主とする!!」
その言葉に屋敷がざわめき、使用人たちの胸が熱くなる。
レイズは静かにその場を見渡し、
少しだけ息を吐いた。
戸惑いは――なかった。
ただ、肩にかかる責任の重みを感じながら、
いつものように苦笑を浮かべ、屋敷の中へと歩みを進める。
そんな背中を見つめていたイザベルが、思わずぽつりとつぶやいた。
「……レイズ様」
自然と口をついたその呼び名。
それは“従兄弟”ではなく、“当主”としての呼び方だった。
するとレイズは振り返り、わずかに眉をしかめる。
「……なんか気持ち悪いからさ。レイズくんでいいよ」
イザベルは目を丸くして、次の瞬間ふっと笑い出した。
「もうっ! 雰囲気壊して……!」
くすくすと笑う声が、重苦しかった空気をやわらかく溶かしていく。
レイズとイザベルが軽口を交わしていると――
駆け寄る足音が響いた。
リアナだった。
彼女は真っ直ぐレイズの前に立つと、深く頭を下げる。
「……レイズ様。申し訳ございませんでした。
このリアナも……前に進めるよう、精一杯精進いたします」
その姿に、レイズはそっと目を細める。
落ち込んでいたリアナが、もう一度前を向こうとしている。
その背を押したのは、ほかでもない彼自身の姿だった。
続いて、クリスが口を開いた。
珍しく、どこか照れくさそうに顔を伏せながら。
「……恥ずかしい限りです。
私は、過去の想いに囚われていた。
けれど……レイズ様は、もう先に進んでおられる」
その言葉は、悔しさでもあり、尊敬でもあった。
「だからこそ、私も――レイズ様に恥じぬように前へ進みます」
リアナとクリス。
二人の誓いに、屋敷の空気が静かに熱を帯びていく。
かつての迷いや悲しみは、もうそこにはない。
未来へと進むための、確かな光が差していた。
レイズはそんな二人を見て、笑みを浮かべる。
「……俺たちなら、絶対にやれる」
短く、それでいて力強い言葉。
リアナとクリスはその背中を見上げ、自然と頷いた。
――と、次の瞬間。
「よしっ!! クリス、風呂行くぞ!!」
唐突な一言に、空気が一瞬で吹き飛ぶ。
「えっ……い、今ですか!?」
クリスの顔が一気に赤くなり、慌てて姿勢を正す。
「は、はいっ!!! 光栄です!!!」
勢いよく走り出そうとした――その時。
「ご、ごめんなさいっ!! お風呂、まだ準備できてません!!」
慌ててリアノが廊下を滑るように飛び込んできた。
完璧に締まっていた空気が、一瞬で崩壊。
……しん。
屋敷中に気まずい沈黙が流れる。
その中で――イザベルがぷっと吹き出した。
「も、もう! レイズくんってば!! 雰囲気壊す天才だよねっ!」
レイズは頭をかきながら、「うるせぇな!」と返す。
その声には、照れと安堵が混ざっていた。
リアノは顔を真っ赤にして、慌てて頭を下げる。
「す、すぐに準備いたしますっ!!!」
バタバタと駆け去っていくリアノの背中を、
レイズとクリスは並んで見送る。
……沈黙。
レイズがぽつりと呟く。
「……なぁ、あいつ、走る音まで必死だよな」
クリスは真顔のまま、こくりと頷いた。
静かな屋敷に、ふたりの息が重なる。
――そして。
イザベルの明るい笑い声が再び響き渡った。
その音が、今日のアルバード家を包み込むように、やさしく広がっていった。
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