【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの未来を変える。

レイズの成長は加速する。

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レイズは、あの日を境に——日常そのものが変わった。

いや、変えたのだ。

朝。
まだ陽が昇りきらない薄紺の空に、レイズの足音が規則正しく響く。
冷たい空気が肺を刺し、吐く息が白く尾を引く。

「……っは、っは……っ……まだ……まだいける……!」

走る。
ひたすら、限界まで走る。
汗は冷え、頬は赤く染まり、それでも足は止まらない。

屋敷へ戻ると、すぐに重木の木刀を握る。
普通の木刀の二、三倍はある、人間なら軽く腕を壊す重さ。

それを、

振る。
振る。
振る。

百回で終わらない。
千回でも終わらない。

腕が悲鳴を上げても、握力が抜けても、足元が震えても——
レイズは木刀を離さなかった。

「……ぜっ、はぁっ……まだ……!」

休憩のつもりで座れば、すぐに瞑想へ移る。
深い呼吸とともに魔力を練り上げる。
体の奥が熱を帯び、魔力のうねりが骨を震わせる。

食事を終えれば、再び鍛錬。

風呂で温まっても休まない。
湯上りの体から蒸気が上がるまま、魔力錬成を続ける。

異常な鍛錬。
異常な継続。
異常な覚悟。

しかし、その“異常”こそがレイズの日常になっていた。

わずか数ヶ月。

それだけで、レイズの身体は別の生き物のように変貌した。

木刀を握る手は無駄肉が削げ、強靭な筋に包まれている。
跳躍の軌道はしなやかで、着地は音もなく正確。
肩幅も腰のラインも大人び、背も伸びていた。

——だが、本人だけは気付いていない。

(……クリスを……泥に沈めるくらいにならないと……)

その滑稽なほど真っすぐな目標のせいで、
自分の変化を一切意識していなかった。

訓練場。

レイズとクリスが木刀を構え、向かい合う。

張りつめた空気は、刃を交える前から音を立てて震えていた。
周囲に控える女性使用人たちは息を呑み、言葉を失う。

レイズの佇まいは、美しいほど鋭い。
かつての丸みを帯びた影は、微塵もない。

イザベルは腕を組みながら、視線を逸らせずに小声で呟く。

「はぁ……“イケメンを泥に沈める”とか言ってるけど、レイズくんも……その……」

頬がほんのり赤い。
どこか落ち着かない瞳だった。

女性使用人たちは、その変化にもっと露骨だ。

「ねぇ……今日のレイズ様、すごくない?」
「え、あの体つき……かっこよすぎ……」
「クリス様と並ぶと……なんか……やば……」

しかし、当の本人は何も知らない。
鏡すらまともに見ていない。

だから。

「……クリス。おまえにどうしても許せないことがある」

静かな怒りを滲ませた声に、クリスの眉がぴくりと動く。

「仰ってください。どのようなことであれ、改善いたします」

レイズは叫んだ。

「おまえの――そのイケメン面だ!!! 今日こそ泥に沈めてやる!!」

クリスは真顔で悩む。

「……イケメン……。なるほど……こればかりは……」

「いや改善しようとするな!! 顔変わったら逆に困るだろ!!」

勢いとともに踏み込み、激しい剣戟が交錯する。
木刀が衝突する音は、まるで鍛冶場の鉄槌のように重く鋭い。

レイズの剣筋は速く、重く、無駄がない。
以前より数段も進化していた。

クリスは受け流しながら素直に呟く。

「……驚きました。レイズ様の剣筋が……以前とは全く違います」

「黙れイケメン面ぇぇぇ!!」

女性使用人たちがまた赤面する。

(ほんと……気付いてないんだ……)
イザベルは胸の奥で複雑にざわめく感情を抑えられなかった。

模擬戦は、結局クリスが優勢のまま終わった。

レイズは泥の上に座り込みながら、まだ負けを認めようとしない。

「くそ……! 次こそはあいつのイケメン面を……!」

クリスは苦笑すら見せず、柔らかな微笑を浮かべた。

「今日の一撃は、確かに鋭くなっていました。胸を張ってください」

レイズはそっぽを向く。

だが、その口元はわずかに緩んでいた。

訓練が終わると、汗だくのレイズは木刀を持ったまま肩を落としていた。

すると、少し離れた場所でセバスが低く呼びかける。

「……クリス。ついてきなさい。新しい任務です」

その声は穏やかなのに、どこか空気を押しつぶす重さを帯びていた。

クリスの表情は一瞬で戦士のそれに変わる。

「……はい。畏まりました」

並んで歩いていく二人。
その背中は、ただの執事と騎士ではなかった。

レイズは息を呑む。

「……あの二人……本気で暴れたら、世界ひとつくらい……簡単に終わらせそうだよな……」

セバスの一歩は静かで、しかし恐ろしく重い。
クリスの歩みは、無数の修羅場を越えた剣士そのものだった。

二人が並ぶだけで、訓練場がわずかに揺らぐ気がした。

レイズはまだ追いつけない。
触れられない背中。
届かない域。

だが、追いつきたいと強く思う。

知らぬところで、準備は進んでいた。

レイズを“次代”に据えるための計画。
若き者へ全てを託すための、ヴィルとセバスの静かな思惑。

レイズはまだ、その未来を知らない。

今日もただ、自分を鍛え続ける。

泥に沈むのはいつもレイズ。
涼やかな笑みを浮かべるのはいつもクリス。

——だが、その差は確実に縮まっていた。

たった数ヶ月でここまで来たのだ。
この先の数ヶ月は、もっと世界を変えるに違いない。

レイズの歩む道は、まだ始まったばかりだった。
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