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レイズの未来を変える。
ヴィルから語られる真実
しおりを挟むレイズは重い足取りで村へ戻ってきた。
血の匂いと焼け焦げた匂いがまだ残る中、沈黙に沈んだ村人たちはその姿を見つけると一斉にざわめきを漏らした。
だが、レイズはその視線に応えることなく、ただ真っすぐに歩み続ける。
その背中を見つけたイザベルが、小さな悲鳴のように息を呑み、涙を浮かべて駆け寄った。
「レイズくん……ッ、よかった……無事で――!」
震える腕を広げ、その胸に飛び込もうとする。
だが――その一歩を踏み出した瞬間。
「……俺に触るな。」
鋭く、冷たく、縁を切る刃のような声が落ちた。
イザベルの足が止まり、両腕が宙に浮いたまま凍りつく。
「……えっ……」
自分を拒絶するはずがないと思っていた少年の、あまりに冷たい瞳。
イザベルの表情から音もなく血の気が引いていく。
ヴィルが眉間に深い皺を刻み、レイズを見た。
「……一体どうしたというのだ、レイズ。」
レイズはゆっくりと顔を上げ、静かな怒りを宿した目で二人を見る。
そして――鋭く言い放つ。
「メルェを殺したやつがわかった。……そして、この惨状を仕組んだやつも同じだ。」
その一言で、空気が焼けるように張り詰めた。
イザベルの目が大きく揺れ、口元が震える。
「……だ、誰……? そんな……そんな人が、本当に……」
ヴィルが息を呑むように問いかける。
「――誰だ?」
レイズは目を閉じ、胸の底から搾り出すように答えた。
「――レイバードだ。」
名を吐き出した刹那、村全体の時間が止まったかのようだった。
イザベルの顔から一気に血の気が引き、膝が崩れ落ちそうになりながら、必死に首を振る。
「そ、そんな……お父様が……!? 違う……違うわ……! ねぇレイズくん……お願い、聞いて……!」
震えながら縋りつく声。
しかしレイズの眼差しは一切揺れない。
彼にはわかっていた。
イザベルが何も知らされていなかったこと。
彼女自身がこの件の駒に過ぎず、利用されていただけだということ。
――それでも、彼は“レイバード”という名を持つ相手に、情を向けられるほど優しくなれなかった。
ヴィルが重い声で口を開く。
「レイズ……まずはイザベルの話を――」
その言葉を遮るように、レイズは懐から小さなものを取り出した。
村人たちが息を飲む。
イザベルが震えながら後ずさる。
レイズの掌に載っているのは――魔族に渡された一本の角。
鈍く、禍々しく光を放つ、小さな幼角。
ヴィルの瞳が大きく見開かれた。
「……それは……! まさか……!」
レイズは低く、鋭く告げる。
「これが何を意味するか……おまえにはわかるだろう、ヴィル。」
角――魔族にとって命と誇りそのもの。
幼き角を折るということは、命を奪う以上の屈辱。
一族すべてに対する最大級の冒涜。
アルバードの誰かが、メルェに“それ”をした。
だから魔族は怒り狂い、村を襲った。
――復讐を、当然のように。
ヴィルは震える声で呟く。
「……これは……ただの殺害ではない。戦争そのものを引き起こす火種だ……!」
レイズの目が細められ、深い冷気を帯びる。
「――ヴィル。答えろ。」
静かな迫力が、周囲の空気を歪ませた。
「メルェが死んだとき、レイバードの誰かがいたはずだ。」
イザベルが顔を覆い、小さく悲鳴を上げる。
「ち、違う……そんなはずない……! お父様がそんなこと……」
だがレイズの眼差しはもはや彼女に向かない。
射抜かれるのはただひとり――ヴィルだけ。
ヴィルは深く目を閉じ、長い沈黙ののちに口を開く。
「……あの日。確かに、レイバードの使者を名乗る者が、屋敷を訪れていた。」
レイズの拳がわずかに震える。
「やはり……来ていたのか。」
「ただ、そやつが直接メルェに手をかけたわけではない。だが――」
ヴィルは苦渋を噛みしめるような顔で続けた。
「ある日を境に、メルェの周囲で不審なことがいくつも起きた。
……まるで誰かが意図して、“あの子を追い詰めるために”仕組んでいたかのように。」
イザベルの肩が震え、泣きそうな声が漏れる。
「わ、わたしは何も知らない……! 本当に……信じて……レイズくん……!」
しかし、レイズの瞳に宿る鋭さはまだ消えない。
疑っているのではない。
真実を踏みにじる者への怒りが消えていないのだ。
「……ヴィル。全部話せ。」
静かだが抗えない圧力の声。
「隠していることがあるなら――今だ。」
ヴィルは長く息を吐き、ついに覚悟を決めたように頷いた。
そして――。
「わかりました……話そう。
メルェを追い詰めた……敵を…」
その声音には、アルバードの当主としての苦悩と責務が滲んでいた。
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