【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの未来を変える。

ガルシアとイザベルの再会

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こうして長い応酬の幕がようやく下りた。

――その少しあと。

イザベルとガルシアは、ついに互いの姿を目の前にした。

ガルシアは震える腕で娘を抱き締める。
声を漏らすどころか、最初の言葉は息にすらならなかった。

やがて絞り出すように声がこぼれる。

「……イザベル……すまなかった……!
 お前を……こんな争いに巻き込んでしまって……!」

イザベルもまた涙を浮かべ、父の胸に顔を埋めた。

「お父様……私は大丈夫です。
 お父様が、私のことも……アルバードのことも……
 全部考えてくださっていたのは、分かっています。
 最善を選ぼうとしてくださったのですよね」

ガルシアは娘の肩を両手で抱え込み、震える声で告げる。

「ああ……だが私は……間違えていた。
 アルバードを、レイズ様を……疑ってしまった……」

その視線は、まっすぐレイズへ向かう。

「レイズ様。どうか……私の大切な娘を……よろしく頼みます」

「……は?」

唐突すぎるその言葉に、レイズは完全にフリーズした。

だがガルシアは止まらない。

「イザベルが貴方と共に歩むと決めた理由……今なら分かります。
 貴方なら……娘を守ってくださる。
 それを信じられるお方なのだと……」

「お父様ーーーっ!!?」

イザベルは顔を真っ赤にして父の腕にしがみつき、必死で止めようとする。

「ま、待ってください!
 勝手に話を進めないでください!!
 その……ええと……違いますからぁぁ!!」

ぎゃあぎゃあと叫ぶイザベル、うろたえるレイズ、涙目のガルシア。
緊張感に満ちていた広間は、一転して妙にあたたかい空気に包まれていった。

……だが。

レイズの胸の奥には、まだ燃え残る怒りがあった。
だがその熱の横に、ふと違う思いが影のように浮かぶ。

――魔族との血の約束。
――イザベルに投げつけてしまった冷たい言葉。

(……あの言葉で、こいつをどれだけ傷つけたんだろうな)

ガルシアを前にすると、否定する言葉は何も浮かばなかった。

だからこそ、レイズははっきりと言う。

「……ぁあ。イザベルは……俺がずっと守る」

その声はまっすぐだった。
恋情による言葉ではない。
ただ一人の“仲間”を守るという、揺るぎない誓いだけが宿っていた。

ガルシアは目を見開き、再び涙をこぼす。

「……なんと立派な御仁だ……」

深く安堵し、静かにその場を後にした。

イザベルは、ぽかんとレイズを見つめていた。

(……ああ、これは“そういう意味”じゃないのは分かってる。
 分かってるけれど……)

「ずっと守る」

その言葉は、胸の奥深くにすとんと落ちていく。

恋の響きなんてなくてもいい。
ただ誠実で、嘘がひとつもない、彼らしい言葉。

イザベルの胸の奥で、小さく笑みがこぼれた。

不器用さも、全部ひっくるめて――その言葉が、とても嬉しかった。

 


外では、帰り支度を整えたグレサスが、並んで立つレイズとクリスへ視線を向けていた。

初対面の時に見せた侮りは、もう一欠片も残っていない。

「……なるほど。これがお前の選んだ“主人”か、ウラトス」

その声音には、皮肉ではなく確かな興味が宿っていた。

クリスは迷いなく頷く。

「えぇ。レイズ様はいずれ、グレサスおまえも、ヴィル様すらも超える。
 間違いなく……とんでもない傑物になられるお方です」

「ほう。俺までも、か」

グレサスは楽しげに目を細める。

「いつか戦うときが来るだろう。その時を――楽しみにしている」

挑発ではなく、剣士としての純粋な期待。
そう言い残し、グレサスは振り返らずに立ち去った。

その背を見送りながら、レイズは静かに呟く。

「そうか……お前たちも……繋がってたんだな」

胸の奥に、ひとつの思いが浮かび上がる。

正直、誰よりも強くなりたい。

だが――

(グレサスに勝つ? いや、その前にクリスですら無理ゲーすぎだろ……)

脳裏に浮かぶのは、かつてのゲームの記憶。
どれほど鍛えても、カイルでは超えられなかった“壁たち”。

今の自分は、その領域にひとりで挑まねばならない。

レイズは遠い目をしていた。

一連の騒乱を経て、ようやくアルバードの歴史は大きく動き始めていた。

確かな変化の手応えを感じながらも、レイズの胸には、どうしても拭えない疑問が残っていた。

「……ヴィル、地図を見せてくれ」

静かに告げると、ヴィルは迷いなく書庫へ向かい、羊皮紙に描かれた大陸の地図を持ち帰った。

広げられた地図には、王国、アルバード、魔族領――三つの勢力が明確な線で区切られている。

レイズはその全貌を目にした瞬間、息を呑んだ。

「……違う」

ゲームで見ていた大地の姿とは、あまりにも異なっていた。

本来、魔族の領土は王国に圧迫され、細く縮こまった“辺境”のはずだった。

しかし――

目の前にある魔族領は、
王国にも並ぶほど広大で、堂々たる存在として描かれていた。

さらに衝撃的だったのは、アルバードの位置だ。

ゲームでは、王国と魔族の狭間を塞ぐ“端の砦”。
大陸の片隅に追いやられた小国――それがレイズの記憶。

だが、この地図をみてレイズが思っていたアルバードの位置はまったく違かった。

大陸の中央。

王国と魔族の境界線に立ち、まさに歴史の軸となる要衝。

まるで、この世界そのものがまったく別の形を選び取ったかのようだった。

「……なるほどな」

レイズは低く呟いた。

この差異が物語る意味は、ただひとつ。

――本来の未来では、王国がアルバードを侵略し、飲み込んでいた。

そしてアルバードを踏み台に、王国は魔族領をさらに圧迫し、
魔族たちは端へ端へと追いやられ、最果ての地に逃げ込むしかなかった。

生き残った魔族たちが最後に築いた砦。
その中心に――

「……ガイルがいる」

レイズの脳裏に、魔族の旗を背負って立つ漆黒の魔剣士の姿がよみがえる。

ゲームで“自称魔王”として登場し、主人公カイルの最大の敵のひとりだった男。

この世界の地図は、レイズに語りかけていた。

世界はゲームとは違う。
しかし――確かに、あの未来へと通じる“道”は存在する。

そしてレイズは、もうひとつ重要な事実に気付いた。

魔族領がこれだけ広いということは、
本来の未来で散っていたはずの多くの命が、まだここに生きているという証でもある。

レイズは静かに息を吐いた。

ならば――この世界を変えられるのなら。

あの“魔王”でさえ、違う未来へ導けるかもしれない。
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